第25話 ただ君を愛している。だから

部屋にはアメリヤとケヴィンだけが残された。



「クラリッサ様、素敵なかたでしたね。前プラテル伯爵夫人、人を見る目があるって、本当だったんですね。」

「・・・・それだけは、昔から本当なんだ。」



 アメリヤの言葉に、ケヴィンが複雑な表情をした。呆れたような、苦々しいような。



「でもクラリッサ様があんなに素敵なかただったら、ご結婚を断る理由はないのでは・・・・。」

「アメリヤ。やり直しをさせてくれないか。」

「やり直し?な!ケヴィン様!?」





 ケヴィンはおもむろに片膝をつくと、アメリヤの手を握って真剣な瞳で見上げた。


 アメリヤの心臓が早鐘のように鳴る。握られた手が熱い。ケヴィンの視線から、1ミリも逃れることができない。逃げ出したいのに、逃げたくない。




「実は少しうぬぼれていた。最近は僕も少しは自分で考えて、動けるようになってきたかなって。昔の友人なんかに褒められてね。・・・・まだまだアメリヤに頼って、依存している甘ったれだったことに気が付かされたよ。」


「そんなことは・・・・ケヴィン様はもう立派に・・・・。」






「アメリヤ。愛している。」

「・・・・・・・・!?」





「プラテル領のためとか、孤児院のためとか、そんなことは関係ない。どうでも良い。そんなものはアメリヤが背負う必要ないんだ。」






「ただ君を愛している。だから結婚してほしい。」






 カチッ




 心の中で音がした。

 アメリヤの心の穴の、最後のピースが埋まった音だった。


 握られた手から、見つめられた瞳から、全身に幸福感が広がっていく。

 胸がキューっと締め付けられて、目からは涙が溢れてくる。



 アメリヤは無言で頷いて、返事をした。



 もっと近づいて、抱きしめて欲しいと思っていたら、次の瞬間にはアメリヤのその希望は叶っていた。




「アメリヤ、好きだ。愛している。ずっと一緒にいて欲しい。」

「私もです。私も、ケヴィン様が好き。もうどうしようもないくらい。」



 暖かく、力強く抱きしめてくれるケヴィンに必死になって伝える。

 この気持ちを、どう表現したら良いのだろう。



 ただ愛しい。

 愛している人に愛される初めての幸せに、アメリヤは全身を打ち震わせた。









*****











 何十年か後、とある領地のとある孤児院で




「ねえねえ、またあのお話読んでー。『最低最悪のクズ伯爵』。」

「また?ティナそればっかり。僕もう飽きたよ。」

「いいの!好きなんだから。ね、先生お願い。」





「はいはい。『えー、あるところに、クズと呼ばれる伯爵がいました。その伯爵は、自分のことだけが可愛くて、自分のことしか考えることができませんでした』。」



「ホントにこんなクズな伯爵なんているのかなー。うちの領地の伯爵様とは大違いだ。」

「もううるさい!聞こえないからあっち行って!」



「『誰からも見捨てられた伯爵のもとに、ある日一人の女性がたずねてきました』」






「あ!おい、伯爵様がきたぞ!こないだ一緒に棚を作る約束をしたんだ!」

「キャー伯爵様。もうお年なのに、すっごく可愛くて格好いいわよね。」

「夫人も来てるって。今日はお孫さんたちも。」

「やったー、一緒に鬼ごっこできる。」




 子ども達は大騒ぎで、一斉に外に伯爵様を迎えに行ってしまった。

 まだ部屋に残っているのは、ティナと先生の2人だけだ。




「えーっと、ティナは行かないの?」

「お話終わったら行く。」

「途中聞こえてた?最初から読み直す?」

「いい。もう覚えてるから。」





「そっか、じゃあ続きね。『そうしてクズと呼ばれた伯爵は、愛する女性と結婚をしました。2人にはたくさんの子どもが生まれ、領民からも愛されて、いつまでも、いつまでも幸せにくらしました』」







―――――――――――――――――――

少し後日談など書く予定ですが、本編はこれにて完結です。


後日談は今のところレオとケヴィンの会話、ケヴィンとビートの会話を考えていますが、もしもこの人がどうなったか気になるから書いて欲しいなどありましたら、コメントしていただけると嬉しいです(どうしても想像つかなくて書けない場合もありますが)。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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