最期を飾る財宝ハント!~知ってるゲームっぽい世界に転生してしまったので、百の宝に囲まれるために冒険することにしました~
わさび醤油
そうだ、トレジャーハンターになろう
転生してから十年経ちますが
どうやら転生したらしい。だからなんだって話だが。
生憎死んだ理由は覚えていない。大方ゲーム配信で二徹して、ラスボス前に補給だといざコンビニに向かったら事故ったとか多分そんな感じだろう。知らんけど。
まあ詳細なんて覚えていなくとも問題ない。元々
さて、そんなくだらないことは非常にどうでも良く。正直五十歩百歩だが、肝心なのは
そんなこんなで転生してから早十年。生まれた世界はど田舎で、今じゃすっかりそこいらの
自虐しすぎだと誤解されそうだが、これは紛れもない事実なのだから仕方がない。特別な力など持たず、子供ながらに労働力としてこき使われている社畜というわけだ。
ちなみにだが、転生したのはゲームの世界。厳密に言えば、俺が最後にやっていたゲーム──グランドホライゾン、通称
死んだ理由すら曖昧な記憶なので絶対の自信はないのだが、それでも一応の根拠はある。
この十年の最中、
言語の一部にムービーにあった
そしてなんと言っても、魔法なんて大それた代物が平然と存在したりと割とたくさん。
とはいえステータスを開けるわけでもないし、知識だけでどうにか出来ることもない。
そもそも俺のプレイした記憶にこの過疎村の名前はない。好きだったとはいえ、そもそもエンジョイ勢だったのだから知らないことの方が多い。ラスボスすら倒せていないしな。
なのでそれが特別へと変わることはなく。むしろ子供をもどきに変えるという足枷にしかならず。
母がくれた激重な真っ黒棒で木を叩き割り、薪に変えて小銭か食料と交換してもらうだけ。
それだけの日々。それしかない日々。まともな娯楽のごの文字もない、つまらない日々が続くだけ。
あ、でも何もないわけではない。魔法なるものは変わらずあった。というか俺にも使えた。
相棒を振り回すには腕力だけでは足りず、魔力自体を上手く操って行うことが多かったため、魔力操作のセンスは良いとお褒めの言葉を頂き、一時期はちょっと俺の時代かなぁとか浮かれたりもしたのだが。
ただし俺の適性は赤属性で火のみらしく、野を全焼させる訳にはいかないので封印せざるを得なかった。残念。
そんなわけで、今ではすっかり木を切るだけの村の歯車に成り果てたわけですが。
このまま退屈で窮屈すぎる日常はあまりにもだるく、もう早々に死んでしまいたいとすら思うほど。というかもう死んでしまいたいすら思……いや、思うではなくしまいたいで完結するか。
まあ無理もない。自分で言うのもあれだが、それでも仕方ないと思う。
何せこちとら、二度目の生なんて望んでいなかったのだ。こんなつまんねーだけの場所に放り出され、その上日常すら前世より苦痛になるんじゃ投げやりになるに決まっているだろう。
せめて前世の記憶は消してほしかった。それが叶わぬなら、せめて細やかな
パソコンもない。ゲームもない。
せめてもの救いと言えば、風呂の習慣は前世と近いところか。
流石に清潔感まで昔スタイルだったらそれだけで自殺の理由にしてしまえたところだ。ま、それでも村で良く絡んでくるガキは程々に臭いんだけど。
あー隕石でも落ちてこねえかなぁ。でっかい亀の怪物とか侵略してこねえかなぁ。
……ないか。いくら魔法があったって、近隣の一番大きい生き物がちょっとでかい熊な世界だからな。期待は出来そうにない。
ちなみにソロなら俺も戦えたりはするが、街に行けば出来る奴が割といるらしく、異世界基準だと大した自慢にはならないっぽい。熊と戦えるのって凄いことなんだけどね。
まあそれでも、母さんが生きている間は頑張って生きていこうと思ってはいる。
俺を生んですぐに行商人と浮気し、村を出たクズに捨てられた気の毒な女。
それでも女手一つで子供を育て、結果は病で床に伏してしまった損な女。
そんな様になってまで育てた子供の正体が、こんな性根の曲がったゴミであった哀れな女。
歩んだ生の何一つも報われず。愚かではないが、選んだ男と子供が最悪だったは母親。
彼女に育てられた恩はあれど、親子としての情は持ち合わせていない。
前世の両親が大事だったとかそういう話ではなく、単純に今の俺が家族になりきれていないだけである。
──だがそれでも。如何に無職で死んだクズの身だとしても、母親に違いはない。
俺とて
だからこそ、せめて彼女はが力尽きるまでは、俺はあの人の一人息子であり続ける。身勝手で性根の腐った自分を投げ出さず、せっせと木こりに甘んじているのだ。
さてな。こんな木を切るだけの人生が、果たしていつまで続くのか。
誰に聞いたって答えなんて返っちゃ来ない。そもそもの話、聞く相手だっていやしない。
過疎村で育った気味の悪い方の子供。あのガキが良い見本で、俺が悪い見本。それだけが、この村で明確に答えの出せる俺という存在への解だ。
だから今日も痩せ細った母の体を拭き、朝食を済ませてから木を切ろうと家を出たのだが。
村の様子が心なしか、いつもより活気に満ち溢れている気がしてならない。
村がこうなる時というのは限られる。
収穫祭、銀勇祭、祈念の日。後は外から客人……とりわけ行商人でも訪れたときくらいだ。
しかし妙だ。今日は三つの記念日ではなく、行商人は数日前に来た。自ら母の薬を買ったのだからそこに間違いはない。
別口の可能生もなくはないが、こんな何処にあるかも分からない村に連続して商人が来る可能性なんて砂粒並みだ。
ならば必然的に答えは絞られる。幸いなことに、せっせとこちらへ走ってくるガキが教えてくれるだろう。
「ぼうけんしゃ! ぼうけんしゃのおねえさん! なんだって!」
ほれ見ろ。聞いてもいないのに教えてくれた。
しかし冒険者か。ファンタジーの定番で、あのゲームにも登場する
初期に選ぶ職の中で最もくせが強く、その分自由度も難易度も人によって変わる職。俺は楽しかったが、シナリオを楽しみたい初見ならば選ばない方がスムーズに進む地雷職だ。
けれども利点は大きい。公式の人気ランキングの上位十人の内、なんと五人が冒険者なのだ。
……大分思考が逸れた気がする。所詮はもう、プレイヤーではない男の与太話だ。
例えこの世界が
大体、あのゲームのメインシナリオの時系列も覚えていないのだ。今が本編の何年前かも知らないし、下手すれば本編後の可能性だってある。それにそもそも物語など存在しない、形だけの世界って可能性って方が高かったりもする。
ま、結局は考えるだけ無駄なのだ。
俺は主人公でもないし、こんな村のモブ野郎じゃ縁なんてない。今世なんてどうせ死ぬまでの暇潰しに過ぎないのだし、いちいち深く気にする意味もないだろうよ。
「あ、ちょっとー!」
子供らしいダル絡みばかりなガキをほっぽり出し、ゆっくりと歩き出す。
まあ興味がないと言ってもだ。冒険者がこの村に立ち寄ることなど珍しく、俺にとっては初めてのことだ。
だから記念に少し顔を拝んでやろうと、人混みからの木へ飛びついて上から覗いてみた。
──そこにいたのは、俺の脳みその奥底で錆び付いていた、あるキャラクターと瓜二つ。
雪を固めたような白い髪。背中に背負う彼女の背丈と大差ない、無骨で荒い骨の大剣。
そして得物にあるまじき、まるで軽戦士のように防御を捨て去った服装。そのくせ何故か被っている古めかしいベレー帽。
遠くなのでよく見えないが、恐らくは紅い瞳なのだろう。そして恐らく頬に一筋の傷があるのだろう。
知っているさ。知っているとも。俺でなくとも、あのゲームをやっていれば誰もが知っているだろうさ。
だってそれは、ついさっきまで縁がないと切り捨てた、ランキングの四位に三回連続で君臨した本物の人気者なのだ。
彼女をそうだと認識した瞬間、俺という無気力な盆暗の歯車が動いた音がする。
人混みを挟み、遠くからの目視だというのにこちらに気付いたその女。
彼女の名はニャルナ・ジッハ。グランドホライゾンの中核を担うメインシナリオで冒険者を選べば絶対に絡むことになる、初心者御用達の攻略対象だ。
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