遊びで人を傷つける浮気者達。俺が新しい恋を手に入れたら連中勝手に落ちぶれて行ったんだけど?
こまの ととと
第1話 本編
今日は久しぶりのデートの日。相手はもちろん付き合って半年の最愛の彼女。
二人の出会いは街中でチャラ男に絡まれていた彼女――あかりを、偶然にも俺が助けたことだ。
まるで使い古されたドラマのような始まり方だが、まだ青春が始まったばかりの俺たちには劇的な出会い方だった。
そんなものだから俺たちは常に、そう……自分で言うほどのことでもないが周りがうらやむカップルだ。
学年一のアツアツカップル。まったくいつの時代のはやし立てだか……。
そんな風に噂されるほど、俺達は互いに思い合っていた。
今日はテスト開けのデート。
勉強漬けの毎日から解放されて、今日ばかりはお互いの事だけを考えた一日を過ごしたいものだ。
待ち合わせ先の公園が見えて来た。なんてことはない辺鄙な公園。
でも、俺達の温かな日常はいつもここから始まる。そう決まっていた。
そう、今日もあのベンチに彼女が座っていて……?
彼女は確かにいた、だがその隣に座る男は誰だ?
「え? あ、ああ! なお君。やっと来たね」
彼女が話しかけて来た。ほんの少しだけバツの悪い顔をして……。
「よう、久しぶりじゃねえか」
隣の男がニヤつきながら気安く話しかけてきた。
久しぶり? そんなバカな。俺には何の覚えもない。
「わかんないか~? 俺だよ、半年前にこいつをナンパした同じ学年の」
「え? あ!? お、お前! 今更何の用だ?! あかり! またお前こいつにちょっかい出されたのか? だったらまた俺が……」
「違うの!!」
あかりが俺のセリフを遮るように大声で叫んだ。
一体何だ? 急にそんな声を出す必要がどこにあると言うんだ?
「ああ、はっきり見せつけてやろうぜ? 本当の彼氏様との熱いキスってのをな」
「本当の? お前何わけのわからないこと言ってんだ!! あかり、こんな奴ほっといてデートに――」
「ごめんなさい!! なお君とはもうデート出来無い……。だって――」
――私、この人とずっと前から付き合っているから。
一瞬、何を言われたのか全くわからなかった。
ずっと前から付き合ってる?
そんなバカな! だって俺とあかりの付き合いは、もう半年も続いてるんだ。いろんなところにデートしたし、たくさん思い出を作ってきた。
なのに一体?
「わかんないだろうなぁ。お前の頭でも分かりやすく教えてやるよ。へっへ」
薄汚い笑い声をあげながら、となりのチャラ男はベンチから立ち上がってニヤニヤと俺に近づいてきた。
「簡単に言うとな。そういう遊びだったんだよ? 騙されやすそうな男をその気にさせて、その様をゲラゲラ笑いながら楽しむんだ」
「は? お前何言って――」
「だからさ。あかりは元々俺の彼女なんだよ。お前とは単なる俺達のお遊びで付き合ってる振りをしてただけってわけ? ここまで言えばわかるだろう、さすがに」
つまりこういうことか?
付き合ってると思っていたのは俺だけで、俺はこいつらの悪趣味な遊びに巻き込まれてただけ。
あかりは、本当は俺の事を好きでもないし。2人で俺の事を馬鹿にしてたってわけだ。
女の子と付き合ったこともないような純情な男が、知恵を絞って女の子を喜ばそうとしていた様を笑い物にしてきたって訳だ。
「じょ、冗談だよな? な、冗談だって言ってあかり?!!」
「……ごめんなさい。そういうわけだから、じゃ。行こう、たか君」
「はは! まったく冷てぇ女だよな。ネタをバラしたら直ぐ切り替える。覚えておくといいぜダサ男君よぉ? 女って奴は本当に好きな男以外はミジンコ程も興味ねぇってな。ヒャッハッハ! ほらあかり」
「ん……」
言いたいことだけ言って見せつけるようにキスをして、去って行った。
「う、嘘だろ? 俺の半年間は何だったんだ? 俺の青春は? 将来の二人の夢は?」
一人残されてうわ言のように呟いた。最初から存在もしてなかった二人の愛について……。
翌週の事。学校を登校した俺を取り巻く環境は一変していた。
「あ、あいつだよ。あかりちゃんを振った最低男」
「浮気したうえに、あかりちゃんに暴力を振るってたんだって? サイテー!」
「俺あいつのこと知ってるよ。昔っから女と付き合ったこともないモテない奴なんだってさ。無理矢理ものにしてたらしいぜ?」
「えー! 何それー!? それで飽きたらポイ捨てなんてクズじゃん!」
ありもしない噂をでっち上げられ流されていた。
俺は何もしてないだろうが……。
どうしてこうなったんだ?
怒りすら沸かない。徹底的に叩きのめされてるからだ。
俺が何を言おうと言い訳にすら取られず、取り囲まれて暴言を吐かれる。
元々俺は日陰者で、彼女は学校の人気者。どっちの言い分を取るかなんて……。
何もかも嫌になって、いっその事この学校を辞めようかとも思った昼休みの事だ。
いつも一緒に昼飯を食べていた女はおらず、一目を避けて校舎裏にパン片手にやって来た。
ここなら誰にも見られない。そう思っていたのだが……。
「や、やめて下さい! それを返して?!」
「へへっ返して欲しかったら俺の言う事を聞いてもらおうじゃねぇか」
女子生徒の声が聞こえた。
校舎裏の人気のない場所で、誰かに脅されいるようだった。
「あ、あのやめて下さい! 先生に言いますよ!?」
「へへっやれるもんならやってみな? その前に俺の気の済むまで遊んでやるけどな」
どうやら女子生徒が男子生徒に絡まれているようだ。助けに行くべきか……?
いや、この前みたいになるかも知れない。俺に追い打ちを掛ける為の演技かも。
見なかったことにしよう。
そう決めた俺は来た道を戻ろうとしたのだが……。
「や、止めろ!」
気づいたら飛び出していた。
その後、不良を撃退して女性を助けた俺はその場を去ろうと背を向けた。
「あ、あの! 待ってください!」
そんな俺を呼び止める声があった。振り向くとそこには助けられた女性が立っていた。
「助けていただいてありがとうございました」
ペコリと頭を下げる女性。どうやら怪我とかはしてないようだし、一安心だ。
「いや……たまたま通りかかっただけで……」
「それでもです! お礼を言うのが遅れた事をお許し下さい」
そう言って彼女はまた頭を下げた。ちょっと大げさすぎる気もするけど……まぁいいか。助けた甲斐はあったってもんだしな。
「あ、あの……私と付き合って下さい! あなたの勇気ある姿に見惚れてしまいました!」
「そんな事急に言われても。俺の事をだまそうとしてるんじゃ……」
「そ、そんな事ありません! 私本当にあなたのことが……!」
俺は、ある意味で人生初の告白を受けた。
また騙されてるんじゃ……。そう思ったが、俺はどうやら人寂しくなっていたようで、様子見という体で俺は彼女――詩織と付き合う事となった。
俺はそういった事にあまり興味が無かったから知らなかったが、実は相手は学校で知らない人はいない程の美少女で、性格も良くて誰にでも優しいと評判の女の子だ。
いわゆる学校のアイドルというやつ。
それからの日々。
俺は確かに悪評のせいで居たたまれない生活を送っていた。しかし……。
「なお君がそんな事をするはずありません!! あなた方が聞いた噂話は全て嘘です!!」
「そ、そうかな? いやでも、詩織ちゃんが言うなら……」
彼女はその持前のカリスマを持って、俺の悪評をかき消していってしまった。
まさかと思うが、これが本当なのだから恐れ入る。
しかし、こんな状況を面白く思っていない奴が居た。
俺を陥れた男だ。
俺と詩織が二人で歩いていた所、あのチャラ男が絡んで来た。
「てめぇ!! よくも俺達が流した噂を塗り替えてくれたな! お前みたいなのがいつまでも学校に来ていいわけねぇだろうが! 人が折角辞めたくなるように仕向けたってのにッ!!」
「なんですかあなたは? なお君に勝手な言いがかりをつけないで下さい」
「邪魔なんだよ! 学校のアイドルとか呼ばれていい気になってんじゃねぇぞ!!」
なんと逆上したチャラ男が詩織に向かって拳を向けて来たのだ!
あ、危ない!?
庇おうとした俺だったが、その前に詩織が動いた。
「危ないじゃないですか!」
チャラ男の腕を掴み取り、そのまま捻り上げてしまった。
「な、なにしやが……いぃだだだだっ!?」
痛みで悶絶するチャラ男。そんなチャラ男の腕をさらに締め上げる詩織さん。
こ、こんなに強かったのか……!
その後駆けつけた教師によってチャラ男は連行されていったのだった……。
聞くところによると、俺達にした事以外にも余罪がバレて学校に居られなくなったらしい。その後見ていない。あくまでも噂だが。
その頃になると、もう俺の噂を信じる人間は一人もおらず。
むしろ俺の流した真実――あかりはチャラ男とグルになって善良な男子生徒をおもちゃにしていたという話を周りは信じ、結果としてあかりは学年のアイドルからぼっちとなっていた。
そんな状況に焦ったのだろう。ある日の事、あかりが復縁を申し込んで来たのだ。
「ねぇ。色々あったけど、私達今度こそ本当に付き合わない? 今付き合ってる詩織って子も、本当はなお君を騙してるかも知れないんだよ? だっておかしいもん。あんな可愛い子が、なお君みたいなダサ男と付き合うなんてさ」
「俺が誰と付き合おうと勝手だろ? それにあかりがあんな馬鹿みたいな事したのが悪いんじゃないか。自業自得だよ」
「……っ! そんな言い方ないじゃない!? 私こんなになお君のこと好きなんだよ!?」
「嘘はやめろよ。そんな薄っぺらい言葉にもう騙されるか。……用心深くなれた事だけは感謝してやるから、とっとと消えてくれ」
「ねぇ聞いて!? お願いだから一人にしないで!! ねぇ!?」
「もう騙されないって言っただろ? さっさと消えろ」
「なお君!? 待ってよ!」
俺はかつて付き合っていた、そう思っていた女に背を向けて教室を出た。
喚く声も、今や何も響かない。今あるのは詩織との未来だけだ。
俺がたどり着いたのはあの公園。俺達のいつもの始まりの場所だ。
そう、俺達の温かな日常はいつもここから始まる。そう決まっている。
「待ってましたよなお君」
「すまん詩織。さてと、何処に行こうか?」
「あなたとだったら何処へでも。ですがその前に……」
俺の返事を聞こうともせず、この唇に柔らかいものが触れてきた。
ふぅ……。まったく、可愛いイタズラだ。
………………
…………
……。
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