『怪異現象』
銃弾は風を切ってベアのお屋敷の壁にめりこみました。そこにいるはずのゴストをすりぬけたのです。ですがゴストは涼しいお顔をしていて、それどころか傷のひとつもありません。ベアの首をつかんだままの茶色い腕にも力が入ったままです。
「ふむ」
ベアは一息だけ考えました。そうしてからつぎに拳銃で自分の首元を狙いはじめます。(拳銃は目に見えないのですけどベアの手の動きでだいたいなにをしているかはわかりました)
自分の首なんかを撃ってしまってはたいへんなことになります。一発で死んでしまってもおかしくありません。ですがベアは拳銃を自分に向けるやいなや迷いもなく引き金を引きました。
それに驚いて大きく反応したのはゴストのほうでした。どうやら銃弾だってすりぬけてしまうはずのゴストなのですが、ベアの行動に対して茶色い腕をはなしてしまいます。たしかにベアの首をつかんだままでは拳銃で撃たれてしまうかもしれませんが、もしゴストが銃弾をすりぬけることができるとしたら撃たれたってへいきなはずでした。
ベアの首を狙った銃弾は金属どうしがぶつかるみたいな甲高い音をしてはじかれます。それはベアの首のそばで鳴ったみたいですがベアの首にはどうやら傷ひとつついていませんでした。
そしてもちろん首から手をはなしたゴストの茶色い腕にも傷なんてありません。ゴストは銃弾で撃たれるまえに腕をはなしてしまっていたのですから。
「ぬははは! やはりその腕には実体があるようだな」
大きく笑いましてベアは王座から立ち上がりました。もう二度とゴストの腕に捕まらないように距離をとるためです。
距離をとってベアは見えない拳銃をゴストへ向けました。もっと言えばゴストの茶色い右腕に狙いを定めたのです。
ほんとうにずっと、嘘ばっかり。ベアに拳銃を向けられてゴストは思いました。そうです。『霊体には見えない拳銃』
それどころかベアがマントと王冠以外なんにも身に着けていないという嘘にも気づいていました。攻撃はほんものです。銃弾もほんものです。そのほんものの銃弾をはだかのままでふせげるはずがありません。ゴストはベアのまわりにただよう『ゆらぎ』を見逃しません。そのゆらぎがしめすことは、ベアはどうやら目に見えない鎧をぶ厚く着こんでいるらしい、ということでした。自分の首に向けて撃った銃弾もその鎧に弾かれたのです。
攻撃はぜんぶ、お屋敷のところどころに隠した武器をつかってのことです。ですからお屋敷の中にいる限り、ゴストたちには逃げ場はありません。嘘の『見えない拳銃』から逃げるだけではお屋敷中の武器から逃げたことにはならないのです。
だから目の前の『見えない拳銃』だけに気をとられていてはいけません。ベアはへいきで噓をついて、ゴストの四方八方から銃弾をあびせるつもりなのです。
「だけどそんなもの」
ゴストはあわてることもなくへいぜんとしています。彼女はずっとずっと冷静なままです。
だってどんな攻撃だろうと、ゴストにあてることなんてできないのですから。
「やっともどれた」
ベアが『見えない拳銃』で攻撃をしようとしたそのとき、ついにマミィがもどってきました。ベアはいまゴストに集中しています。そしてお部屋の入口に背中を向けていました。ですから入口からはいってきたマミィに気づいていないようすです。
包帯で全身をぐるぐる巻きにしていますから、マミィの姿がどんなものかは見ただけじゃよくわかりません。ですけど人間のような手足があって、けっして大きな身体じゃない、すこし小柄なくらいの女性なのはわかります。
とりあえず見た感じだと力は強くなさそうです。ですけどちいさな身体を目いっぱいにつかってジャンプしたマミィは、とてもとても高くまで飛びはねました。それはもう高い高いお部屋の天井にもタッチできそうなくらいです。豪華なシャンデリアにぶつかりそうだったのをなんとかよけて、マミィは高いところからベアを狙いました。
マミィの右腕のあたりは包帯がひじのあたりまでほどけていて中の身体が見えそうです。ですが不思議なことにそこにはなにもないようにも見えました。そこにない右腕のかわりにマミィがえらんだのは左腕です。そちらはしっかりと包帯が巻かれていて、どうやら中身もありそうでした。マミィは空中でその左腕に力をこめて、ベアを攻撃しようと狙ったのです。
「わしの屋敷に死角はない」
ベアが言いました。そしてそれが言いおわらないうちにお部屋中の壁や天井、床までもにいくつも穴が開いて、そこから見えない攻撃が発射されたのです。
見えもしませんし音も聞こえません。ですがそれらは確実にマミィを狙っていて、まちがいなく命中したのです。
マミィの身体はハチの巣みたいに穴だらけになって、バラバラになってしまいました。
侵入者のひとりは倒した。そうベアは思いました。お屋敷中の武器を使っていっせいに攻撃したのです。それでマミィという包帯をぐるぐる巻きにした女はバラバラになりました。
ですが同時に攻撃したゴストというまっ白い装束のまっ白い肌をした者には攻撃があたりません。見えない武器の使い手としてベアには自分でした攻撃が見えているのですが、なぜだかその攻撃はゴストの身体をすりぬけているふうに見えるのです。
これはいよいよ信じるしかなさそうだ。ベアは思いました。予想はしていましたし、戦争のずっとまえからベアはたくさんの情報をあつめていて、そこにあったいくつかのうわさといっしょの者が目のまえにいるのです。
「きさま、すでに死んでいるな?」
ベアは言いました。言いながらも攻撃は休みません。それでもやっぱりどの攻撃もゴストの身体をすりぬけるのですけれど。だけどときどき、ゴストの茶色い右腕には攻撃があたるみたいで、その右腕はすこしずつ攻撃されて、はがれてちいさくなっています。
「……そう、私は幽霊のゴスト。かつては生き、そしていまは死んだ者」
ゴストは攻撃をよけながら(茶色い右腕にだけはあたらないようにしながら)ベアの言うことをみとめました。
「あなたの見えない攻撃とやらも私にはあたらない。あなたに私は倒せない」
「それはおたがいさまだ。その腕だけはちがうようだが、身体のないきさまにわしは倒せん」
ですからベアはゴストの右腕だけを攻撃してバラバラにしてしまえばいいのです。それでゴストはベアを攻撃することもできなくなるはずです。
「そうね。この腕はとくべつ。だけど私は言ってない」
「…………?」
ベアはゴストの言うことがわかりませんでした。ゴストはなにを『言ってない』のでしょうか?
「
その声はベアのうしろで聞こえました。
「『
そして正面からは聞きなれない言葉が聞こえまして、そのままゴストはなんと
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