フロッグの戯れ


 フロッグの日課は、日がな一日、湖のほとりを散策することです。いったいどうしてそんなことをしているのかといいますと、その湖があまりに美しく清々しいから。などというわけではもちろんなく、もしかしたら可愛らしい少女が困り果てている現場に立ち会えるかもしれないと考えているからです。ましてその少女が無垢であったりなどすれば、フロッグの心は他のどのようなことよりも高揚することでしょう。

「ゲロゲーロ。誰の心も雨模様~♪ ゲロゲーロ」

 しかしながらフロッグが思い描くようなことなんてめったに起きるものではありません。だからフロッグはいつも諦め半分に鼻歌でも歌いながらただ湖を一周するだけなのでした。ときには邪魔ったらしい衣服を脱ぎ捨てて生まれたままに泳ぐこともあるのですが、それは本当にまれなことです。だってそんなことをしているうちに困り果てた少女を見逃しては元も子もありませんからね。

「おれの泳ぎは世界一~♪ ……おや?」

 いつも通りに即興の歌を歌っていたフロッグは、湖のそばでしゃがみこんでいる誰かを見つけてすばやく隠れました。もしかしたらその影は少女かもしれないし、さらには困っているのかもしれません。あるいは無垢な少女であれば満点です。まずはそれを見極めなければなりませんでした。

「はあ……とってもめんどうだわ」

 かくしてその者は可愛らしい少女で、とっても困っている様子でした。そして彼女が無垢であることをフロッグも知っていましたが、しかしその少女にかんしてだけは話がべつなのでした。フロッグはめんどうごとに巻き込まれないようにとそろりそろり後ずさります。とちゅうで繁みに服が引っかかって音を立ててしまいフロッグは冷や汗をかいたのですが、幸い自分の中の自分と葛藤している女王アリスの気を引くほどではなかったみたいです。

「なんでわたしが代表なのよ! わたしだっていろいろ忙しいのに!」

 アリスは叫びます。きっと世界の外れのそんな場所なら、誰も聞いていないとたかをくくっていたのでしょう。だけど残念。いたずら好きのフロッグが苦々しい顔をして、聞きたくもないそんな愚痴を聞かされていたのです。

「うん、すっきりした! やらなきゃいけないことはやらなきゃいけないものね!」

 ひとつ叫んで気が晴れたのか、アリスはるんるんと嬉しそうに笑顔で、その場を去っていきました。アリスが見えなくなるまで見送ってから、フロッグは湖のほとりにまでもどります。いやな汗をかいた。やっぱりひと泳ぎして帰ろう。そう思ってフロッグは汗に濡れた服を脱ぎはじめました。

 泳ぐのは本当に楽しい。そしてフロッグは泳ぎが大の得意なのでした。



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