前日譚(キャラ紹介的な掌編)(読み飛ばしOK)
クラウンの嘲笑
クラウンは、ずり落ちそうな王冠を支えるように、大きく首をかしげました。「おやっ?」と、なにかを見つけたようにつぶやいて「あぶないあぶない」と、はずれかけた仮面をととのえます。仮面の下には端正にととのった笑顔が。しかしその仮面にはなんとも不気味な、真っ赤で大きな口が描かれています。「ふふふ」とクラウンは、その仮面の大口には似つかない、ひかえめな笑いを浮かべました。
「新しき女王さまの、最初にして最大の大仕事だ」
すぐしたに捉えた、いまだあどけない『女王さま』をながめて、すこしばかり口角を上げます。仮面に隠れたその表情は誰にも見えませんが、それでも仮面のものよりは控えめですので問題はないでしょう。
「敵も味方も、酷なことをなさる。敵方にかんしてはタイミング。お味方の方々におかれましては、人選か」
まあしかし、ボクはそのどちらでもないけれども。と、自分以外には誰にも聞こえないような声でつけ足します。「いやはや、ワタクシは女王陛下の、もっとも忠義に厚い部下として、心を痛めずにはいられませんなあ」と、今度はたくさんの誰かに強く主張するように、わざとらしく大きな声をあげました。
しかし、細くとも太くとも、小さくとも大きくとも、けっきょくその声は、クラウン以外には聞こえていなかったのですけれど。
あるいはクラウン自身にさえ、なんの影響もおよぼさないのかもしれません。
さて、クラウンがどうたらこうたら意味のないひとり道化をしている間に、女王アリスが『繋がりの扉』に手をかけました。だからクラウンは、「こうしてはいられない」とおおげさにあたふたしながら、足元のおぼつかない鉄骨のうえにあぶなげに立つのでした。
「それでは、女王陛下の最初にして最大、そして
まじめくさってクラウンは両手を天高く伸ばします。お空へ向けた『まえならえ』のようですが、きっとそれは『敬礼』ではありませんでした。
とうっ、と言って、クラウンはそのまま、手を伸ばした方向へすこし、浮かび上がります。かと思えばつぎの瞬間には、それとは逆方向へと、一気に落ちていきました。この世界にも重力というものがあるみたいです。
こうしてクラウンがいなくなると、そのうしろから大きな赤い月があらわれました。そしてそれは、『繋がりの扉』の奥へ向かう女王アリスの、おでかけまえに見た最後の景色でもあったのでした。
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