第3話

「ただいま〜」


 返事はない、いつも通りだ。久しぶりの実家、木造で古臭い感じが昔は嫌いだったが、今はむしろ懐かしさと親近感を覚える。昔から変わっていない廊下を進んで時代に取り残されているような台所に…いた。時間が時間のため飯を食っているかと思ったが、どうやら終わっていたらしい。



「ただいま、親父」


「……おう、デカくなったな」



 こっちを見ずにそういう親父は何も変わらない。笑いもせず、良いことが有っても喜ぶこともない…変わらないなぁ。でもなんとなくで分かるようになった、今日は…喜んでいる。


 実は機動隊に入る前に実家暮らしをしていた、だからさほど久しぶりという感じはしない。でもなんだか、何年も会っていないような気がしてくる。



「…なにしにきた?」


「いや、ちょっと近くによってね」


「連絡の一つ、入れてくれたら良かったのによ」


「ごめん、急に決まってね」



 優しい人だ、昔から変わらない。



「…今、何もねぇぞ」


「いいよ、顔見たかっただけだし」



 変わらない、何度も思う。変わらないのが嬉しいし、楽しさすら感じてしまう。



「なんかあったのか、いつもの感じじゃないな」


「ちょっと相談」



 黙っているが、聞かせてくれというオーラが出ている。



「…あのさ、今デカい仕事を任されそうでさ。その仕事俺にできるか分からなくてさ、不安なんだよね」



 この人にしか言えない、他に相談できる人なんていない、そんな悩みを言いに来た。信頼している上司に言われ、政府からのサポートととやらを受けても極秘、極秘と何かすらわからないのは不安を覚える。怖いんだ、不安なんだ。



「…その仕事はお前にできるから、出来そうだから任されたんだろ?何の仕事か知らんが信頼されているんだろ、応えてみろよ、信頼分ぐらいな。」



 そうだ、そうだな。



 なんで思いつかなかったんだ、やっぱ人からの言葉はありがたいな、特にこの人からの言葉は染みるな、親だからかな。


 やっぱ…デカいな、親父の背中は。



「…スッキリしたよ、じゃ」



 これ以上ここにいたら、約束を破りそうだ、ポロッと喋ってしまいそうな気がする。



「…次からは連絡しろよ」


「うん、そうする」


 

 ここを出てからやることは決まっている。早く出ないと間に合わない、でも行きたくないな。泊まっていきたい…そういや駄目だったな、忘れてしまいそうになった。


「一時か」


 長旅になる、東京に車でいくのは初めてだ。






「初の7時間運転…しんどいな」



 途中、途中で休憩しながら来たが体は悲鳴を上げている。バキバキの体をほぐす。

 東京といっても都市部からは外れているためか周りにあまり人はいない、ホテルの第2駐車場に車を停めてホテルを見る…デカくていいね。


 人のお金でいいホテルに泊まる…最高だ。



「はい、大鐘様ですね。2泊3日のご宿泊です

ね、鍵の返却は3日後の朝お願いします」



 こっちに荷物が来るまでここでダラダラしてろってことかな。いいね、そういうの好きだよ。




11月26日


「はい、チェックアウトですね」


 ほんとにダラダラしてるだけだったよ、大丈夫?それに時間が経つのが早すぎるよ。アニメ一気見とかしてたら一瞬で終わったよ、この2日。


 一応、新しい家について調べたり、今回の異動がなぜなのかを考えたりしたよ、家はともかく異動については全くわからん。しかも田舎への左遷なら理由を言えないのもわかる、だか東京への異動で理由を教えられないのはわけが分からん。

 ちなみに家は都市部からは外れたところにあるらしい、いいねそっちのほうが好きだよ。ちなみに外観は初めて見てなんぼだろと思いに見ていない。


 今日はその新しい家に行く、それしか選択肢がないからな。






「結構良いマンションじゃん」


 一軒家ではなかったが、前に住んでいたマンションよりもずっと良い。オートロックやエントランス、エレベーター、それになんとジムもある、つまり前の家にはなかった設備がある。

 それに、もとの家にあった設備もより良いものがある。駐車場も広い。



「俺の部屋は506か」


 このマンションが八階建てのことを考えると良いのではないだろうか。マンションの鍵は書類ケースの中をホテルで改めた時に気づいた。

 

他には警視庁用と書いてある封筒に入っていた名札(職員用と書いてある)があった。これらは書類ケースが二層になっていて気づかなかったのだ。


 話を戻して、マンションの部屋はかなりいい感じだった。リビングに積まれているダンボールたちを無視したら最高の部屋だ。



「この量を一人で…大変だ」



 積み重なったダンボールを崩し、小物や家具を出す、幸い洗濯機などは設置してあったし、もとから付いていたものがあったので新しく買い替える必要はほぼなさそうだ。





11月28日



「しんど、もう引っ越したくないわ」



ゆっくりやっていたので2日間かかった、洗濯機などは設置してあったが、テレビやベットは分解されてそのままだったのでしんどかった。荷物のレイアウトは…また今度だ。


そんなことしてたら、集合まで残り2日になってしまった。明日、準備をして30日警視庁に出向くとしよう。




11月29日


「スーツ…しばらくぶりだな〜」

「あと…何必要だ?」




11月30日(当日)



「全部持ったよな…あっスマホ忘れた」


「うし、行くか」


 気持ちはまだまとまっていないが行くしかない。鞄に本当に荷物が入っているかを確認して行くか、警視庁。




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