第12話
「調子はどうですか?」
深夜に差し掛かろうとする時間、マリアがテールの部屋を尋ねた。
「いい感じじゃないかな?」
テールはマリアを見るとそう返した。マリアは嬉しそうに首を縦に振った。
「それはいいことです。分からないことはありましたか?」
マリアがテールに聞く。テールは腕を組み考えた後、一つの疑問をマリアにぶつけた。
「この動画を見る前に別の動画が流れるんだがこの動画はなんだ?押した覚えがないんだが」
「そちらの動画は広告と呼ばれるものです」
「広告?」
マリアがテールの質問に答え、テールは首を捻った。
「宣伝が目的の動画ですよ」
「なるほど。ならなぜ俺が押したわけではない広告が再生される?理由がわからないのだが」
テールは頭を捻った。宣伝と動画の関係性がテールには想像できなかったからだ。マリアがテールの背中にくっつき答える。
「知ってもらうのが目的だそうです。商品を選んでもらう為には知ってもらわないといけません。たとえば……」
そういいながらマリアはテールの手を包み込むようにマウスを握る。テールは背中に当たる感覚に胸を躍らせた。そんな様子のテールをマリアは気にした様子もなくマリアは言葉を繋げた。
「この動画についているこの広告で、このような栄養ドリンクがあると知っています。そしてこの広告をクリックしますと……栄養ドリンクのホームページに飛びます」
「ほ、ほう、なるほどな」
平常心を装いながら、テールはマリアの言葉に答えた。マリアはそんなテールに気づいた様子もなくパソコンの操作をする。
「わかりましたか?」
「あ、あぁ、ならなぜ動画で広告を流す?商品を紹介するならもっといい機会がありそうなんだが」
テールが首を捻り聞く。マリアはテールから離れるとテールの質問に答えた。
「テール様、そのいい機会がこの動画なのです。沢山の人に見てもらうことができるでしょう?」
「あぁ、なるほど。動画というのはそれほど多くの人に見られるんだな」
テールは納得のいった表情で頷いている。テールはマリアに聞いた。
「でも投稿者は広告がつくことに納得しているのか?自分の動画が始まるのが遅れるじゃないか」
「納得した方のみが広告をつけるのです。それに動画に広告が付く事で宣伝になりお金が発生するんですよ」
「お金が?これだけで?」
テールは驚いた表情をマリアに向ける。マリアはテールの反応に嬉しそうに首を縦に振り答えた。
「えぇ、確かにこれだけです。しかしお金を得る為には厳しい条件があり、また条件を達成しても満足のいく金額を得られるとは限らないのです」
「条件?条件があるのか」
「そうです。誰彼構わず広告を付けたとしても見られるとは限りません。用は見られなきゃいけないのです」
だから魔王は頑張ってるのか。テールは感心した。マリアが言葉を繋ぐ。
「本人が楽しんで動画を取れるのが一番ですが、魔王様の目的は動画による収入です。だから魔王様は見られない事に焦っているのでしょう」
マリアの声は平坦としている。テールからもマリアの表情は分からない。テールは少し考えた後に肩を竦めながら言う。
「そうか。まぁ、本人が納得できればいいんじゃないか?」
「えぇ、その通りです。ですので、テール様には期待していますよ?」
マリアはそう言うと扉に向かって歩いていく。マリアが扉に視線を向けたまま言う。
「テール様、明日の朝食も同じ時間ですので、早めの睡眠をお願いします」
「あぁ、わかった。美味しいものを期待しているよ」
「えぇ、任せてください。それと」
マリアが振り返りテールの顔を見る。
「山羊に興奮するとはテール様も困った性癖ですね。私、ドキドキしてしまいました」
「ばっ!いいからさっさと出て行け!」
テールの大きな声が響き、少し後に魔王が様子を見に来た。魔王に言い訳の言葉をしどろもどろに吐いた後、テールは布団に入ったのだった。
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