配信魔王~勇者と魔王が異世界で動画を撮るそうですよ
桜花狐
プロローグ
暗い雰囲気を醸し出す空間に、一人の男性が深く座っている。
月明かりが窓から差し込み、蝋燭の明かりだけが部屋を照らしている。
「よく来たな。勇者よ……」
男性は魔王のようにおどろおどろしく呟いた
ぎぃぃ……
部屋の扉がゆっくりと開き、かつかつかつと音を立てて一人の男が姿を現す。勇者と呼ばれたその男は、男性と対峙した。
「ここまで来たのは君が初めてだろう。なぁ?勇者よ」
男性はおどけて見せるが、それは最初から分かっていたという声色だった。
男性は椅子に立てかけてあった杖を手に取る。杖を掲げると杖を中心に3つの球体が浮かび上がり、杖の周りをくるくると飛び回り始めた。
男性が杖を前に出すと回っていた球体が止まり、次の瞬間ひゅんっとすごい勢いで勇者へと飛んでいった。
勇者はゆっくりと剣を抜き、構えた。
ひゅんひゅんひゅんっ!
音がする。瞬間、勇者へと飛んできた球体は真っ二つに割れ、勢いを失って消失した。
「ほぉう……闇を切るか……」
勇者が初めて口を開く。
「……俺は勇者だ、それぐらい不思議じゃないさ」
男性の賞賛も気にせずどこか吹く風のように軽い口調だ。
しかし軽いのは口調だけだ。勇者の鋭い眼光は男性を捉えて離さない。
「その通りだな」
「……それで、次の手は?」
「球体を飛ばすだけでは芸がない。この魔王直々の相手をしてやろう」
「はは、それは楽しみだ」
勇者が答え
「くっくっく、そうだろう?」
と笑いあった。
しばしの間、部屋に響き渡るのは笑い声だけだった。
それもつかの間、笑い声が消えると同時に、勇者と魔王の姿が消えた。
ここまでかっこいい出だしで始まったが、この話には勇者と魔王が居るだけ、剣と魔法で文化の築かれた異世界だという説明の為だけにあり、本編の魔王たちとは一切関係ない話だったりする。
では本編に登場する魔王とはどんな人物なのか。一緒に確認していこう。
「魔王様、準備の方はよろしいですか?」
黒い執事服に身を包み、白い手袋をした山羊が声をかける。
「魔王様、準備はよろしいですか?」
魔王は手に持った画面を食い入るように見ており、自分が話しかけられていることに気が付いていない。
山羊がこめかみを抑える。
「魔王様!」
山羊の声が大きくなる。ようやく聞こえたのだろう。魔王が驚いた表情で視線を山羊へと向けた。
「魔王様、準備はよろしいですか?」
何の準備だろうと魔王は首を傾げるが、すぐに思い出したようで山羊に対して大きく頷き返事をした。
「もちろん!」
力強い返事をする魔王。しかし魔王はすぐに表情を暗くした。
「っと言いたいけどまだ何も進んでいないよ」
魔王は少女といえる姿をしていて威厳というものを感じさせない。しかし彼女は山羊頭に敬われている。新手の宗教団体なのではと疑いをかけたくなるくらいだ。
「魔王様、あれほど用意とは早めに終わらせるものですと、普段から申しています。魔王様は無能ですか?」
本当に敬っているのか怪しくなってきたが、山羊は一応魔王のことを敬っている……はずだ。
「ちょっと!僕はこれでも魔王なんだよ!」
「はいはい分かりました。まおうさままおうさま」
山羊に翻弄される姿は威厳も何もあったものではなかった。
魔王は山羊の態度にジト目で睨みつける。山羊に敬われてないことは山羊の態度からわかっていた。
「はぁ……」
魔王は諦めるように溜息を吐いた。
「うーん、まぁいいや。じゃあ、さっさと始めようか」
魔王は手に持った画面を手放すと、机の上にあるものを手に取る。映像を取る為の機械で、名称はビデオカメラだ。
「動画を取ろうか!」
魔王がもう見ていない画面には、愉快な効果音と共に人がリアクションをする映像が映し出さてれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます