4年後

 大福町だいふくまち

 縁起の良い名前をした、この町にはたくさんの人外けものがいる。


 沿岸の地方都市にある町で、東には山があり、西には海がある。

 ちょうど、山と海に挟まれた土地である。


 ケモノにとっては、非常に住みやすいのだろう。

 緑の多い場所が必要なら山に行ける。

 塩水が必要なら、海がある。


 おまけに、大福町は港がある。

 だから、海外からくる者だって少なくない。


 オレ――直木なおきゴロウ――は、自然の多い町に住む中年だ。

 来る日も来る日も、女子高の用務員として働き、仕事が終わったら、また仕事がある。


 用務員以外の仕事。

 それは、狩人かりゅうどと呼ばれる家業だ。

 悪さをする人外を説得や交渉で大人しくさせるのだ。

 もしくは、――お命を頂戴することもある。


 用務員は世を忍ぶ仮の姿ってわけだった。


「あ”-、腰いてぇ……」


 いや、本当なら荒事は若いのに任せるのが一番なのだ。

 けれど、高齢化社会が到来して、家業も人員が激減。

 何がマズいかって、海外からくるケモノ達が好き放題してしまうのだ。


 オレの家業は、言ってしまえば日本の治安に繋がると言っていい。


 青い空を見上げて、白い吐息が上っていくのを眺める。


「もう4年か」


 オレは、飲み街で倒れた少女を発見した。

 保護して、4年が経つ。


「ししょー」


 校門の雪寄せをしていると、後ろから声を掛けられた。

 振り向くと、そこには4年後の姿をした少女が立っていた。


「おう。今から学校だろ。チャイム鳴るぞ」

「今日、サボっていい?」

「いや、ダメだって。行け」


 水野サナエとして生きる彼女は、高校一年生。

 ヒョロヒョロした体型から、物の見事にすさまじい発育を遂げていた。

 それは、ちゃんと食べてる証拠であるから、オレとしても嬉しいことだ。


 白人の血を引いてるから、肌はペンキを塗ったように真っ白。

 体型も日本人離れして、色々と豊かである。

 地毛は絹のようにサラサラとしており、綺麗な金色をしている。


 長い前髪は片側に寄せて、片目を隠していた。

 何より、サナエにはなくてはならない物が頭にハメられている。

 射撃用のイヤーマフだ。


 人外である彼女は、聴覚が非常に優れている。

 だから、イヤーマフがないと、うるさくて生活に支障が出るのだ。


「アルカポネ。おはよう」

「はい。おはよう」


 サナエの後ろから来た生徒に挨拶され、オレは会釈をした。


「前々から気になってたんだけど。アルカポネってなに?」


 サナエは興味のない事は調べない。


「アメリカにいた色白デブだ」

「ししょー、黒いじゃん」

「ああ。だから、アルカポネの2Pキャラと言われていたな」


 色黒の顔が濃いデブ。

 それが、オレだ。

 あだ名は、アルカポネ。

 どこから知ったのか、女子高に通う女子生徒からは、そう呼ばれている。


「ほら。さっさと行け」

「はーい」


 コートのポケットに手を突っ込み、校門を潜るサナエを見送る。

 私立小石川高等学校。

 日本一ケモノの多い学校である。

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