あなただけは、絶対にお断りです!!(嘘)
結島 咲
短編(前編)
「今更……なんでなの?」
クラウディアの前には、大キライな相手であるはずのルキウスが覆いかぶさっている。
「………なんでなのかぐらい、…いい加減に分かれよ…。」
ルキウスの左手には、血のついた銀色の剣が握られていた。
「俺には、………こうする………しかっ…なかったんだよ!!」
――――――――――――――
今から、数年前の学生時代のこと。
「ここは緻密に書かれたもののほうがいいでしょう!?下手に省略して威力が弱いと話にならないもの!」
「こういう攻撃魔法は速さが大事だろ。緻密なものは複雑な分、発動が遅いんだよ。」
教室で言い合う二人。
ひとりはクラウディア。
もう一人はルキウス。
優秀な学年と言われるこの学年の中でもかなり優秀な二人。
この二人はとても仲が悪い。
「はい。ふたりとも!朝からうるさいくらい仲がいいわね?だけど、ちょっと、落ち着こう?」
「「仲良くない!!どこが!?」」
(………そういうところが、息ぴったりで仲良く見えるのよ。)
いつも二人を仲裁するエルザはため息をついた。
かたや一平民に等しい準男爵家の少女。
かたや公爵家の令息。
優秀であるということを除けば、何もかも正反対な二人の相性は最悪で、入学してすぐからというもの、ずっと言い合いばかり。
学院の教師陣も、手を焼いていた。
成績発表のときも......。
『魔法基礎学、首席はルキウス=ファビウス。』
「ま、負けたわ......。絶対に見てなさいよ!次こそは!」
「まあ、次も安心しておけ。お前が負けるからな。」
『魔法基礎実技、首席はクラウディア=デュラン。』
「……嘘だろ?」
「ほら、見なさい?私の方が断トツで勝っているわよ?」
「たった4点差だろ!?」
「負け犬の遠吠えね~。」
そうして言い合いが続きながらも、卒業間際までやってきた。
そろそろ、みな婚約者を決める時期だ。
「ルキウスはさぞかし立派な家系のご令嬢と結婚なさるのでしょーね。」
「公爵家の人間何だから当たり前だろ?どこぞの弱小貴族とはちがうんだから。」
「何よ!弱小でもいいところはあるんだから!」
「何があるんだよ?」
「…どこぞの大貴族と違って、恋愛結婚がしやすいのよ!」
一瞬、間が空いた。
「………クラウディア、お前、恋愛結婚に憧れていたのかよ………。クスっ…。」
クスクスとあざ笑うかのような態度をとるルキウスに、負けているかのように思われるのが腹立たしい。
「ええ!それの何が悪いのよ!好きな人と結婚するのが、私の夢なんですもの!!」
途端に表情が変わっていくルキウス…。
「な、何?」
「お前、好きな奴がいたのか?」
(………今はいないけど、将来できるだろうと思ってたけど………。でも、ここで『いない』って言うのは、いつも女性に囲まれているルキウスに負けてるようで嫌だわ。)
「そ、そっ、それは…もちろんよっ!私にだって好きな人の一人や二人いるわよ?」
ドヤ顔で決めたつもりだったが…。
「気分が、悪い。もう帰る。」
ルキウスは帰って行った。
「ちょ、ちょっと!まだ午後の授業があるんだけど??!………あ、行っちゃった…。」
(どうしたんだろう?急な用事かな??)
ルキウスはなぜかその日早退し、さらには、そこから一週間、学院に来なかった。
その時はなぜかわからなかったが、後にその理由を知ることになる。
「………クラウディア、いつも言い合いばっかりしてるけど、いざいなくなるとさみしいんでしょ?」
一人で廊下のテラスの柵に肘をおいてぼーっとしていると、エルザがからかってきた。
「さみしいというか………なんていうか。たぶん、張り合いがないだけだと思う。」
「またまた〜〜。絶対、クラウディア、ルキウス様のこと好きでしょ?」
『好き』という言葉で、胸の奥がドックンとでんぐりがえったかのように思えた。
(スキ……?スキ………すき…好き??………私が?ルキウスを??)
全身の血が変な方向に走るのを感じ、慌てた。
「ナイナイナイナイ………ないって!!それはない!」
「………ふーん。」
しかし、どこかおかしいのを見抜かれたのか…。
「全く…知らないよ……あとで後悔しても。」
「ただいま〜。あれ?お父様とお母様は?」
いつもなら出迎えてくれる二人が珍しく玄関にいない。
「ご主人様と奥様は応接室にいらっしゃいます。」
この小さな屋敷に仕えているたったひとりの侍女が待ち構えていた。
「どなたかお客様?」
「はい。お嬢様はこちらのドレスに着替えてくださいませ。」
手渡されたものは、我が家にしては十分すぎるくらい立派なドレスだった。
「……え?」
有無を言う暇を与えず、着替えさせられ、応接室の方へと連れていかれる。
(このドレス、サイズもぴったりで、私の好みにもとても合っているわ。)
大抵、母のおさがりや姉のおさがりを着ている私は、自分の好みのドレスを着る機会がなかなかない。
そんなことを考えているうちに、応接室の扉を侍女がノックし、入るように促される。
「失礼します。デュラン家次女のクラウディアと申します。」
顔をあげると、左のソファーに父と母、そして右のソファーには......。
「えっと......、ルキウス…ファビウス公爵子息??」
なぜか、ルキウスとその父らしき公爵が座っていた。
(なんで――?
天下の序列一位の公爵家が、うちみたいな一弱小貴族の家になんの用が?)
公爵家オーラを纏う二人を前に、父と母が萎縮しているように見える。
「ええっと、お父様、これはどういう状況で??」
父に尋ねるが、真っ青な顔をした父は『あ』とか『ううっ』とかしか言わない。
「ひさしぶりだね。クラウディア。」
突然、ルキウスが話かけてきた。
いつもの喧嘩口調ではなく、とてもやさしい声で。
「おひさしぶりです......?(たった一週間ぶりだけど?)」
ルキウスがそんな態度だから、こちらのテンションまで狂いそうだ。
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか??」
本題に入ろうと、クラウディアは尋ねた。
父と母は、何も話そうとしてくれないので、状況が読めない......。
「端的に言えば、君に婚約を申し込みにきたんだ。」
(なるほどね、この時期と言えば婚約よねって、..............えええーー?!はあ??)
「……ご、ご冗談を。」
「冗談じゃないよ。」
こちらを見るルキウスの目は真剣だ。
「だって、あなた、私のこと嫌いでしょう??」
「「「え?」」」
クラウディア以外の、その場にいた一同が固まる。
「な、なによ。いつもあれほど言い合いをしてるじゃない??」
「いや、それはその......。」
ルキウスが言いよどむ。
微妙な空気になったところを、公爵が気をきかせてなのか話題を変える。
「ええっと、デュラン嬢、そちらのドレスはいかがですか?」
「このドレスですか?」
クラウディアは今しがた身に着けているドレスをもう一度見る。
「とても着心地がよく、いままでのどの服よりもサイズがぴったりで、非常に私好みの物です。さきほど初めて身に着けたのですが、とても気に入ってまして。」
「ほお…そうでしたか。それは良かった。…だとさ、ルキウス。」
なぜか顔を少し赤くしているルキウス。
(......この部屋、少し暑いのかもしれないわね。暖炉の火が少し強いのかも。)
だなんて見当違いのことを考えているクラウディア。
「気にいってもらえてよかったよ。それは、俺からのプレゼントだ。」
「え?そうだったの?......あ、ありがとう…ございます。お心遣い感謝しますわ。」
「たしかによく似合っていらっしゃる。そう思うだろ?ルキウス。」
さきほどの気まずい空気からなんとか持ち直そうと公爵が尋ねる。
「まあ、......その、似合ってないこともないんじゃないか。いつも、いつもよりはま、まともな、装いなんじゃないのか。」
ルキウスはおもいっきり目をそらしながら言う。
(…はあ??何よ、いつもはまともじゃないですって!??)
「っそうですか。いつもはまともじゃなくて申し訳ないですわね!?」
「いや、そういうことは言ってないだろう?」
「いえ、言いましたわ!」
「あれはそういう意味じゃなくて…。」
「なら、どういう意味ですの?」
沈黙が続き、しばらくして口を開いたのはルキウスの方だった。
「と、とりあえず、今日は婚約の申し込みにきたんだ。だから、いつもみたいな言い合いはやめよう。」
「なんで、好きでもないのに、婚約を申し込みにきたのよ…。」
(……どうせなら、好きだとでも言ってくれたらいいのに......。)
「す、好き、だとかなんだとか、そっ、そんなのは関係ないだろ......。貴族の結婚なんて、ふつう政略結婚が多いんだし…。そういうのは、政略結婚後にする人も一定数いるとかなんとか聞くけど......。」
(この前、恋愛結婚に憧れているって、話したばかりなのに...。どうしてそんな嫌がらせをするの。)
「あ、あなただけは、絶対にお断りよ!!」
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