第 60 話
「私が前で?」
「そうだな。頼む」
「はい!」
町から少し離れた森の中にある少し不自然な大岩。
そこに魔力の痕跡が続いている。
恐らく、その大岩の中に誘拐犯のアジトが存在しているのだろう。
前開同様、下手に探知魔法をして逃げられるわけにはいかない。
そのため、まずは大岩の周囲を探ってみるエルヴィーノとセラフィーナ。
その結果、出入り口となる場所は1ヶ所しかないことが分かり、エルヴィーノたちは侵入を開始することにした。
その前の取り決めとして、セラフィーナはエルヴィーノに自分が前に出て戦うことを進言する。
相手は恐らく複数で、新人とはいえ大人の冒険者を簡単に誘拐するような者たちだ。
におい追跡の対策もするようなことから、荒事が得意なのは予想できるため、胸にオルフェオを抱いているエルヴィーノよりも、セラフィーナが先頭に立って動いた方が対処しやすい。
その考えから、その方向で話を進めることにした。
「……あそこだ」
「はい!」
エルヴィーノたちが身を潜めている樹の陰からだと、入り口部分がよく見えない。
そのため、エルヴィーノは魔力探知で魔力の痕跡が集中している場所を捜索する。
そして見つけ出した入り口部分を指さし、セラフィーナにも教える。
「行きます!」
「あぁ!」
入り口部分を理解したセラフィーナは、エルヴィーノに一声かけて身を隠していた樹から飛び出す。
そして、入り口部分の違和感を探りだし、隠し扉を開けて大岩の中への侵入を開始した。
「……中も随分しっかりしていますね?」
「元々あった洞窟を、土魔法で改造したってところじゃないか?」
「なるほど……」
隠れ家にしては入り口部分も見つけにくいし、中も人が余裕を持って通れる通路になっている。
ここまでしっかりした内部になっているとは思ってもいなかったため、セラフィーナは意外そうに呟く。
そのつぶやきに対し、エルヴィーノは自分の考えを述べる。
このアジトを一から作り上げるのは、かなりの時間と労力を必要とすることになる。
そこまでのことをして、冒険者の誘拐をして何かメリットがあるのだろうか。
それよりも、元々ここにあった洞窟を魔法で改造したのだったら、そこまでの労力を必要としない。
そのことを指摘すると、セラフィーナは納得したように頷いた。
「岩の大きさからいっても、逃げられても追いつける。探知を使っても大丈夫だぞ」
岩の内外を見た感覚から、少し大きめの家といったサイズ。
探知魔法を使用して侵入に気づかれて逃げられたとしても、自分たちなら追いつくことも難しくないはず。
そう言った考えから、エルヴィーノはセラフィーナに探知魔法の使用を許可した。
「そうですね」
エルヴィーノの許可も出たことだし、セラフィーナはすぐさま探知魔法を発動させる。
それにより、薄く延ばしたセラフィーナの魔力が洞窟内へと広がっていった。
「……あっちに16人、その近くに3人いますね」
セラフィーナは、探知魔法をおこなった結果をエルヴィーノに伝える。
洞窟内部をこれだけ改造したのだから、ある程度の人数がいる可能性は想像できた。
その想像通り、20人近い人数がここに潜んでいるようだ。
その多くが一ヶ所に固まっているのは、セラフィーナたちとしては都合がいい。
やりようによっては、敵を一遍に捕まえられるかもしれないからだ。
「少ない方に人質がいるだろう。そっちは俺が行く」
「分かりました」
このまま進んで行けば、確実に戦闘に発展することは明白だ。
今回、戦闘面はセラフィーナに任せてあるので、エルヴィーノは彼女に人数の多い方へ行ってもらう。
任されるのは信頼されていること。
そのため、セラフィーナは嬉しい思いを表情に出さないようにしつつ、短い打ち合わせを終了させた。
「……あの部屋のようですね」
「あぁ……」
洞窟内を進んで行くと、部屋をいくつか発見した。
セラフィーナは、その中の1つの部屋を指さす。
先程の探知によって、多くの者が集まっていると判断した部屋だ。
「行きます!」
短い深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、セラフィーナは地面を蹴ってその部屋へと突進する。
エルヴィーノはその背を見送り、人質が囚われていると思われる部屋に向かって移動を開始した。
「動くな!!」
「「「「「っっっ!?」」」」」
急に部屋の中に入ってきたセラフィーナに、誘拐犯と思われる者たちが目を見開く。
「おいおい、探知されている気配がしたと思ったら、やっぱりかよ……」
「気づいていたようね……」
酒の匂いがするので、もしかしたら飲んでいたのかもしれない。
しかし、彼らは身構えた状態で立っている。
自分たちが、セラフィーナがおこなった探知魔法の魔力に触れたと気が付いたようだ。
「お前頭おかしいんじゃねえか?」
誘拐犯たちが驚いたのは、こっちが迎撃態勢を取っているというのに、何の躊躇もなく突っ込んできたことだ。
そう思うのも無理はない。
何故なら、セラフィーナも彼らが探知された可能性に気付いて、迎撃態勢を取っているのを分かったうえで突っ込んできたのだからだ。
「あんたらなんて、警戒するに値しないってことよ」
「何だと!?」
かなり広めの部屋に16人。
見た限り、一番奥にいる男以外は大して実力があるように見えない。
そのため、セラフィーナは警戒することなくこの部屋に突入したのだ。
そのことを告げると、男たちからは殺気が溢れた。
「まぁ、落ち着け。こいつよく見たら上玉だぞ」
「あぁ、さっさと捕まえて楽しませてもらおうぜ」
「そりゃいい!」
「全くだ!」
怒りに満ちた男たちだったが、奥にいるリーダーらしき男の言葉で表情を一変させる。
セラフィーナの顔が整っている顔と、そのスタイルを見たからだ。
発する言葉通り、下卑た笑みを浮かべた変わった男たちは、おかしな手の動きをしながら、セラフィーナにジリジリと近づいてきた。
「お前ら目が悪いな」
「……何っ?」
気持ちが悪い表情をしてにじり寄る男たちに対し、セラフィーナは呆れた表情で話しかける。
急におかしなことを言い出したセラフィーナに、リーダーらしき男が訝し気な表情で問いかけてきた。
「私はよく見なくても上玉だろうが!」
「「「「「……………」」」」」
今にも襲い掛かられえそうな時だというのに、自信満々に自分の容姿を称賛する。
そんなセラフィーナに、男たちはみんな揃って「こいつ何を言っているんだ?」と頭の中で考えていた。
「……やれ!」
「「「「「お、おうっ!!」」」」」
あまりにもおかしなことを言われたせいで調子が狂った。
そんなおかしくなった空気を打ち消すように、リーダーらしき男はセラフィーナを捕まえるよう部下たちに指示を出す。
それを受けた誘拐犯たちが、セラフィーナに向かって襲い掛かってきた。
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