第 59 話

「今度はここからだな」


「そうですね」


 スラム街を通り、人気もなくなった町はずれの建物。

 先日エルヴィーノが被害者の魔力痕跡を追跡することで見つけた、犯人のアジトと思わしき建物だ。

 この建物をクラン【鷹の羽】に教え、犯人逮捕と被害者救出を任せたのだが、それが空振りに終わってしまったため、また犯人の居場所を見つけ出さなければならなくなった。

 それをするために、エルヴィーノたちは前回同様、この建物から犯人の追跡を始めることにした。


「リベルタ、においの方は?」


「ニャウ……」


 セラフィーナの問いに対し、従魔のリベルタは首を左右に振る。


「やっぱり消しているか……」


「そうみたいですね」


 少し前まで人が潜んでいた痕跡があったということだから、においも残っているのではないかと思っていたため、セラフィーナはリベルタににおいによる追跡を頼んでみたのだが、先ほどの反応からして、においは前回と同様に消されてしまっているようだ。

 【鷹の羽】による強襲を受けたにもかかわらず、においによる追跡ができないような細工まで施していったようだ。

 その可能性もあると考えていたため、エルヴィーノとセラフィーナは驚くことなく受け入れる。


「ニャウ~……」


「気にしない、気にしない」


「そうだぞ」


「ニャ~!」


 またしても役に立てないと思ったのか、リベルタが残念そうに鳴き声を上げる。

 別にリベルタの良いところは鼻だけではない。

 そのことが分かっているため、セラフィーナとエルヴィーノは慰めの言葉をかける。

 慰めの言葉と共に2人に撫でられたリベルタは、それで機嫌を直したらしく嬉しそうな声を上げた。


「さてと……」


 リベルタの機嫌が直ったところで、エルヴィーノは目的の犯人捜しを始めることにした。

 そして、軽く息を吐くと、集中して建物内の魔力痕跡を探り始めた。


「……見つけた。あっちだな……」


 建物内に残っていた魔力の痕跡。

 それを見つけ出したエルヴィーノは、ある方向を指さす。


「……町の外ですか?」


「そうみたいだな」


 この建物からエルヴィーノが指さした方向に向かうとなると、城壁の外に出てしまう。

 しかし、魔力痕跡を追うのならそうするしかない。

 そのため、エルヴィーノは建物から町の外へ向かって歩き出した。


「それにしても、流石エル様ですね。エル様にかかれば人探しなんて簡単ですね」


 魔力痕跡を追い、町の外へと出たエルヴィーノたち。

 そんななか、セラフィーナは嬉しそうにエルヴィーノのことを褒める。

 もしも、自分とリベルタだけで今回の犯人を捜索しなければならなかった場合、エルヴィーノのように見つけ出すことはできなかっただろう。

 しかし、エルヴィーノにかかれば造作もないこと。

 エルヴィーノの凄さに、ホレなおしたというところだ。


「時間経過していなければだけどな……」


「あう?」


 セラフィーナに褒められて嬉しい気もしないでもないが、自分の追跡能力能力は万能ではない。

 転移してしまえば追えないし、時間が経ってしまえば魔力の痕跡も消えてしまうのだ。

 そのせいで、オルフェオを置いて行った人間を追いかけることができない。

 いつまでも親元に返してやれないことに、エルヴィーノはオルフェオの頭をすまなさそうに撫でた。

 エルヴィーノの胸に抱かれているオルフェオはまだ理解できないため、ただ首を傾げた。


「……セラ」


「……はい」


 町の外を進む2人の会話が止まる。

 そして、エルヴィーノはセラフィーナに小声で話しかける。

 何が言いたいのか分かっているらしく、セラフィーナも小声で返した。


「私が……」


「あぁ、頼む」


 2人の中で理解しあっているのか、短い言葉を交わすだけで話が進む。


“フッ!!”


 何かを取り決めた2人。

 それを果たすため、セラフィーナは一瞬にして魔力を身に纏い、身体強化をおこなってその場から消えるように動く。


「っっっ!?」


 セラフィーナが消えたことで、ある者が反応する。

 その者は、驚きながらもセラフィーナがどこに行ったのか周囲を見渡す。


“スッ!!”


「っ!?」


 周囲を見渡していた人間。

 その者の背後に姿を現したセラフィーナは、声を出さずに闇魔法である睡眠魔法を発動する。

 それによって、その者は眠りについた。


「……何者でしょう?」


「さあな。しかし、俺たちを尾行していたってことは、犯人に関係しているのだろう」


 先程の2人の短い会話。

 それは、この尾行していた者を捕まえるというものだった。

 睡眠魔法によって眠っているこの者は、黒装束の男で、装備している武器を見る限り、暗殺系の能力が高いことがうかがえる。

 この男は、追跡を開始した建物からずっとエルヴィーノたちを尾行していた。

 あの建物に関連している人間で、追跡をしている自分たちを尾行して、もしかして暗殺までもしようと考えているような者は、誘拐事件の犯人に関係していると考えられる。


「これどうしましょう?」


「追跡を続けたいし、しばらく眠っているだろうから近くに縛りつけとくか」


「そうですね」


 もしかしたら、暗殺までしようと考えて尾行していた人間だ。

 それが分かった今、セラフィーナは寝ている男をこれ・・呼ばわりする。

 犯人に関係している可能性が高いのだから、クラン【鷹の羽】のところに送り届けたいところだが、まだ犯人のアジトの追跡中だ。

 セラフィーナの睡眠魔法は強めにかけられている。

 なので、近くの樹に縛りつけて、放置しておけばいいだろう。

 そう考えたエルヴィーノは、魔力封じの手錠と鎖を取り出す。


「よし。続きだ」


「はい」


 出した手錠を着け、男を近くの樹に縛りつけたエルヴィーノたちは、追跡の続きを開始することにした。






「……あれか」


 尾行をしていた暗殺者の男を放置してから数分。

 魔力痕跡を追跡していたら、エルヴィーノたちは街道から森の中に入っていた。

 その森の中に大岩があり、そこに魔力痕跡が続いていた。

 その大岩のどこかに入り口があり、中に犯人が潜んでいるのだろう。


「町から離れていないですね」


「そうだな」


 街道から見つけることはできないだろうが、町からはそんなに離れていない。

 こんな場所にあるとは思わず、セラフィーナは意外そうに呟く。

 エルヴィーノとしても思ったより近かったため、セラフィーナと同じ思いだ。


「しかし、あの建物から逃げてすぐに造れるような物には見えませんが?」


「あの建物の方は、町中で行動するための拠点に過ぎなかったのだろう」


「なるほど」


 アジトが見つかったから、犯人はここに逃げてきたとセラフィーナは思っていた。

 しかし、それにしてはしっかりとした隠れ家になっているので、エルヴィーノは考えを変えた。

 こっちの方が元々のアジトで、放棄した建物の方は仮のアジトだったのだろう。


「行くか?」


「はい!」


 前回とは違い、アジトを発見したら判断は任せるとクラン【鷹の羽】のリーダーのオフェーリアからは言われている。

 そのため、エルヴィーノたちは自分たちで被害者救出・犯人逮捕を行うことにした。

 

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