第 33 話
「ガッ!!」
「くっ!」
牙をむき出しにして襲い掛かる狼。
その攻撃を、フィオレンツォは盾で防ぐ。
「このっ!!」
「ギッ!?」
攻撃を終えて向きのできた狼に対し、フィオレンツォが剣で攻撃をする。
その攻撃によって、狼の横っ腹から血が飛び散るが、傷は浅く、距離を取った狼はフィオレンツォを睨みつける。
「ハッ!!」
「ガウッ!?」
距離を取っての睨み合いでは、いつまで経っても決着はつかない。
そう考えたフィオレンツォは、剣先から水の球を放つ。
エルヴィーノに言われたことを、実践して見せたのだ。
思いがけない攻撃に、狼はその飛んできた水の球を右横に飛ぶことで回避した。
「もらった!」
「ッッッ!?」
先程の水の球を避けるのは想定済み。
むしろ、そうするように仕向けた攻撃だった。
思い通りの反応をした狼に対し、待ち構えていたかのように動いたフィオレンツォは、剣を思いっきり振り下ろした。
それによって、狼は声を上げることなく首を斬り落とされた。
「ハァ、ハァ……、やった……」
狼を倒すことに成功したフィオレンツォは、安堵の声を漏らした。
「数日前は殺されかけたルーポを、単体とはいえ倒せたのは良かったな」
「ありがとうございます」
今倒した狼は、先日フィオレンツォが殺されかけたのと同じルーポという魔物だ。
冒険者になりたてで殺されかけた相手ということで、トラウマで動けない可能性もあったが、それでもエルヴィーノは戦うように指示した。
これからも冒険者を続けるのなら、トラウマは早々に解消しておいた方が良いと判断したからだ。
その考えは成功し、エルヴィーノはフィオレンツォに近づきつつ、ルーポを倒したことを褒めた。
「さて……」
狼の死体から魔石を取り出し、毛皮を影に収納したエルヴィーノは、立ち上がるって手に着いた血を水で洗い流し終わると小さく呟く。
「じゃあ帰るか」
「えっ?」
時間的に昼。
昼食をとるのか、それともまた魔物との戦闘のためにダンジョンの先に進むのかと考えていたフィオレンツォだったが、全く違うことがエルヴィーノの口から発せられた。
予想していなかった発言に、フィオレンツォは思わず声をもらす。
「どうした?」
「いえ……」
フィオレンツォが戸惑っている様子のため、エルヴィーノはその理由を尋ねた。
それに対し、余計なことを言ってエルヴィーノの気持ちが変わってしまっては困る。
そのため、フィオレンツォは首を横に振って返事をした。
『ハードはハードだったけれど……」
ダンジョン内で魔物との戦闘を続けると思っていたため、フィオレンツォは拍子抜けしていた。
短期か長期の2択で強くなる期間を選ばされて短期を選んだ時、セラフィーナにはハードな訓練になるけれどもいいのかと念押しをされた。
その言葉通り、少ない休憩時間で何時間も魔物との戦闘をさせられることになった。
それは確かにハードではあったが、セラフィーナの予想より3倍と言っていた言葉ほどではなかったような気がしていた。
「これでお前の実力は把握できた。次からは本格指導として実力にあった魔物と闘ってもらうからな」
「……本格指導?」
エルヴィーノの言葉に、フィオレンツォは首を傾げる。
このダンジョンでの1拍2日の戦闘訓練が、短期で強くなるための指導だと思っていたからだ。
しかし、エルヴィーノの言葉からすると、まだ指導の本番に入っていないということらしい。
「あぁ、今回の1泊2日は、実力把握がメインのものだ」
「……そ、そんな……」
続いてエルヴィーノが言った言葉に、フィオレンツォは驚きの表情へと変わる。
今回のことで、多少は魔物との戦闘にはなれることができた。
自分でも少しは強くなれた気がしていた。
しかし、まだまだきつい指導がこれからあると考えると、フィオレンツォは顔を青くするしかなかった。
「だから言ったじゃない。ハードだって……」
まだまだ本番はこれから。
そのことを知って顔を青くするフィオレンツォに、セラフィーナが言わんこっちゃないといった感じで話しかける。
一応忠告をしたというのに、短期を選んだのはフィオレンツォだ。
後悔している様子だが、それは今更だ。
「いったんシカーボの町に帰ろう。それで色々と持ち物を揃えたら、また指導を再開することにしよう」
「はい……」
1泊2日の戦闘で、かなりの数の魔石を手に入れることができた。
浅い階層の魔物のため、1つ1つは大した金額にはならないだろうが、それでもまあまあの金額になるはずだ。
もちろん、それは倒したフィオレンツォに渡すつもりだが、それでこれからの訓練のための道具を揃えてもらうつもりだ。
そんなエルヴィーノの言葉を、これからどんな相手と戦わされるか分からないでいるフィオレンツォは、返事に力がなかった。
◆◆◆◆◆
「あっ! フィオレンツォさん」
「んっ? なんですか?」
エルヴィーノの影転移によって、ヒアーサの町近くのダンジョンからあっという間にシカーボの町に戻ることができた。
そして素材を売るためにギルドに来たところで、受付の女性がフィオレンツォに気づく。
そして、声を掛けられたフィオレンツォは、理由を尋ねに彼女のところへと向かって行った。
「こちらが届いておりました」
「手紙……?」
受付の女性から渡された物に、フィオレンツォは首を傾げる。
何かと思っていたら、封のされた手紙だったからだ。
「実家からか?」
シーリングスタンプ(封蝋)を見ると、それには見覚えがある。
実家のマディノッサ男爵家の印だ。
そのことに気づいたフィオレンツォは、さっそく手紙の封を開け、中身を取り出して読み始めた。
「っっっ!?」
「……どうした?」
受け取った手紙を読み始め、先へと進むにつれてフィオレンツォは表情が険しくなっていった。
その表情を見たエルヴィーノは、気になって問いかけた。
「……実家に問題が起きているということです」
「何……? だったら、いったん帰ったらどうだ?」
フィオレンツォの返答だと、どうやらマディノッサ男爵領に問題が起きているようだ。
成人して家を出たとはいえ、フィオレンツォがマディノッサ男爵子息であることは変わらない。
実家に問題が起きたのなら、状況を把握したいと思うのは普通のことだ。
そのため、エルヴィーノはフィオレンツォに帰郷することを勧める。
「しかし、俺が帰ったところで何もできませんから」
「……なら、俺たちも付いて行こう」
「えっ? 本当ですか?」
冒険者になったばかりの自分が帰ったところで、何ができるかもわからない。
むしろ、邪魔になる可能性の方が高いため、帰郷を渋るフィオレンツォに対し、エルヴィーノは自分たちが協力することを告げる。
「当たり前だろ? 俺は一応、お前の師匠なんだから」
「し、師匠……」
会って間もないし、短期間とはいえ師匠であることには変わらない。
そのため、エルヴィーノは師匠として弟子のために一肌脱ぐくらいなんとも思わない。
そのことを伝えると、フィオレンツォは感動したように笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!」
「じゃあ、さっそく行くか?」
「はい!」
頭を下げるとともに感謝の言葉を言ってくるフィオレンツォ。
それを受け、エルヴィーノはさっそくマディノッサ男爵領へ向かうことにした。
ギルドから出ていくエルヴィーノの背を追いかけるように、フィオレンツォもその場を後にした。
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