第 23 話

「やっぱりな……」


 シカーボの町へ戻る道すがら、エルヴィーノはフィオレンツォからルーポと呼ばれる狼が生息している場所にいた説明を受けた。

 そして、説明を受ける前に思った通りだったことに相槌を打つ。


「恐らく、フィオレンツォが貴族の子息だと分かって目を付けたんだろう」


「……私は、名前は教えましたが、男爵家の子息だとは言っていませんでしたが?」


 エルヴィーノの言葉に、フィオレンツォは待ったをかける。

 カミッロたちとは今日初めて会ったばかりだし、貴族の子息だと知られると気を使われてしまうのではないかと思い、名前は名乗ったが貴族の子息だということは伝えなかった。

 そのため、カミッロたちが自分のことを貴族の子息だと知っていたとは思えなかったからだ。


「言っちゃあなんだが、その武器と防具を見れば、多少の経験者ならお前が貴族の関連だと分かる」


「そうなのですか?」


「あぁ」


 フィオレンツォの疑問に対し、エルヴィーノは自分も最初に彼を見て同じことを思ったことを伝える。

 自分の武器と防具。

 冒険者になる餞別として、両親から与えられたものだ。

 しかし、冒険者としては普通の装備のはずと思っているのだろう。

 フィオレンツォは、エルヴィーノの言っていることがよくわかっていないようだ。


「平民出身の新人で、そんなにしっかりとした装備をしている時点で金持ちだと気付かれるってことだ」


「な、なるほど」


 四男とはいっても貴族。

 平民の常識とズレていることに気づいていなかったようだ。

 エルヴィーノが説明することで、ようやくフィオレンツォはカミッロたちが自分を貴族の子息だと気付いた理由を理解した。


「それにしても、そいつら手際が良いな。というより良すぎる」


「どういうことでしょう?」


 お前を貴族と気付いて仲間に引き入れ、ルーポの群れの範囲に連れてきて、荷物を盗むのに合わせて魔物を擦り付け、置き去りにする。

 幼馴染4人だからと言っても、その連携は見事と言えるくらい鮮やかすぎることがエルヴィーノとしては気になる。


「そいつら、本当に新人だったのか?」


「えぇ、冒険者カードにはEと出ていました」


 すんなりと魔物を擦り付ける上手さから考えると、とても新人ができることではない。

 そのため、エルヴィーノは詳しく問うことにした。


「……そのカードの名前は確認したか?」


「いいえ。ほとんど一瞬だったので……」


 カミッロたちが本当に新人なのかを疑い始めると、先程の説明の中で少し気になっていた部分がある。

 その部分をエルヴィーノが問いかけると、フィオレンツォは思い出しながらできるだけ正確に返答した。


「……じゃあ、そのカードはそいつらのじゃないかもしれないな」


「えっ!? ギルドカードは、ステータスカードと同様に本人しか使用できないのでは?」


「その通りだ」


 フィオレンツォの答えを聞いて、エルヴィーノはとある可能性に行きつく。

 それは、カミッロたちが別人のギルドカードをフィオレンツォに見せたかもしれないという可能性だ。

 そのことをエルヴィーノが呟くと、フィオレンツォは驚きと共に問いかけてきた。

 しかし、その問いは当然というもの。

 フィオレンツォが言ったように、ギルドカードもステータスカードと同じく本人にしかいようできないようになっているからだ。

 そのため、エルヴィーノは頷きと共に返した。


「しかし、ランクだけならわざわざ魔力を流さなくても表示されている。一瞬しか見せなかったのも、名前が表示されていないことを気づかず、ギルドランクだけ見せたかったのだろう」


「そんな……」


 フィオレンツォは世間一般の常識から少しずれている。

 少し悪い言い方をするとボンボンだ。

 ステータスカードとギルドカードには、唯一違うところがあるということを知らなかったのだろう。

 その違いとは、ギルドカードの場合、魔力を流す流さないにかかわらず、ギルドのランクが表示されているというところだ。

 他人のギルドカードを盗んでも、その中に入っている情報や資金を使うことはできない。

 しかし、他人のカードでもランクは表示されている。

 カミッロたちは、そこを上手く利用したのだろう。

 そのことを知らされ、自分の無知さにフィオレンツォは落ち込んだように顔をうつむかせた。






「何だって!?」


 シカーボの町に戻ったエルヴィーノは、すぐさまギルドに向かい、ギルド所長であるトリスターノと面会した。

 そして、所長室に案内されたエルヴィーノがフィオレンツォと共に事情を説明すると、トリスターノは驚きの声を上げた。


「まさか、貴族の子息を狙って罠に嵌める輩がいたなんて……」


 四男とはいっても貴族の子息に手を出して、もしも犯行が露呈したらただで済まないことになることは分かり切っているはずだ。

 それが分かっていても、成功する自信があったということだろうか。


「そこまで策を練られているとなると、もしかしたら今回が初犯じゃないかもしれないな」


「かもな」


「えっ?」


 エルヴィーノたちの説明を受けて、トリスターノはある考えが頭に浮かんだ。

 それを口に出すと、エルヴィーノも同じことを考えていたのか、同意の言葉を返した。

 そんな2人のやり取りを、フィオレンツォだけがついていけていないのか、戸惑いの声を漏らした。


「しかし、そんな冒険者たちが報告に来た様子はない」


「依頼は誰が受けた?」


「……私です」


 フィオレンツォは、カミッロたちと共に一角兎を討伐する依頼を受けた。

 その依頼を誰が代表して受け付けたのか。

 そのことをエルヴィーノが問いかけると、フィオレンツォは申し訳なさそうに返答した。


「だとしたら、もしかしたらこの町を後にしているかもしれないな」


 もしも依頼を受けたのがカミッロたちなら、フィオレンツォのことを報告に来ていたはず。

 しかし、依頼を受けた代表者がフィオレンツォだとするなら、カミッロたちがわざわざ報告する必要はない。

 そのままこの町からとんずらすれば、犯罪が露呈することもない。

 そのため、トリスターノはカミッロたちがこの町に帰ってこない可能性を考えた。


「追いかけるか……」


「頼めるか?」


「あぁ」


 エルヴィーノがフィオレンツォを救出してから、少しの時間が経っている。

 そのまま他の町や村に向かったとして、エルヴィーノならまだ追えない距離ではないはず。

 そう考えたエルヴィーノが呟くと、トリスターノが頼んできたため了承する。


「これから冒険者になる人間をカモにしている可能性があるな。野放しにしておくわけにはいかないな」


 恵まれた状態から始める貴族のボンボンを、羨みも含んだ妬みからカモにでもしたのだろうが、そんなことで将来ある若者の命を奪っていいわけがない。

 カミッロたちの行いが気に入らないエルヴィーノは、彼らを追いかけることに決め、ソファーから立ち上がった。


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