第 22 話
「どうぞ」
「ありがとう」
受付の女性から、出来上がったギルドカードを受け取るフィオレンツォ。
カードには、ギルド員として一番下のランクであるEの文字が書かれている。
そのことからも分かるように、新人冒険者になることができたのだ。
貴族の中で下に位置する男爵家の次男以下の子息は、どこかに婿に出されるか、どこかの貴族に文官もしくは武官として仕官するか、もしくは冒険者になるか、という選択肢しかない。
その中でも、マディノッサ男爵家の四男であるフィオレンツォを婿に求める貴族はいなかった。
だからと言って、フィオレンツォは落ち込むようなことはなかった。
婿の話が来るなんて、思ってもいなかったからだ。
それに、幼少期から絵本で冒険者の英雄譚を読んでいたことから、自分は冒険者になると決めていた。
そのため、ようやくその一歩が踏めたことに、一番下のランクのギルドカードでもうれしくて仕方なかった。
「なあ!」
「んっ?」
手に入れたばかりのギルドカードを見て、フィオレンツォは内心ウキウキが止まらないでいた。
そんなフィオレンツォに対し、声をかけてくる者がいた。
その声に、フィオレンツォはにやけるのをやめて振り向いた。
「あんたも新人だろ?」
「もしよかったら俺たちと組まないか?」
「えっ?」
振り向くと、話しかけてきたのは自分と同じくらいの年齢をした2人の少年だった。
その口ぶりからすると、彼らも新人のようだ。
この国では、男女ともに15歳になると成人とみなされる。
恐らく、彼らも成人してすぐに冒険者になった口なのだろう。
「あぁ、名乗るのが遅れた。俺はカミッロ」
「俺はプリーニオだ」
「フィオレンツォだ」
フィオレンツォが戸惑っているのを、怪しんでいると勘違いしたのか、少年たちは自分たちの名前を名乗って、サッと冒険者カードを見せてきた。
そのカードを見ると、自分と同じEランクだというのが見えため、彼らも新人なのだとフィオレンツォは確信した。
そのため、フィオレンツォは礼儀として自分も名前を名乗り返した。
「実は、仲間は俺たち2人だけじゃないんだ」
「あそこの女子2人も仲間なんだ」
こう言うと、カミッロとプリーニオは2人組の女子を指さす。
指さした方向にいたのは、これまた成人したてのような見た目をしている。
そのため、フィオレンツォは彼女たちも新人冒険者なのだろう思った。
「初めましてアンネッタよ」
「ブリジッタです」
「フィオレンツォだ」
カミッロが手招きすると、女子の2人が近づいてくる。
そして、彼女たちはすぐに名乗ってきたため、フィオレンツォも名乗り返した。
「俺たち同じ村出身の幼馴染なんだが、魔物とはまだ戦ったことがないんだ」
「冒険者を続けるなら、そろそろ魔物を相手にしないとだめだろうってなったんだけど、彼女たちが4人だけだと不安だっていうんだ」
「やっぱり怖くて……」
「うん……」
彼らは、幼馴染4人組で近くの村から出てきて、この初心者冒険者の町ともいわれているシカーボの町で冒険者したらしい。
最初は町近くで薬草採取なんかをしていたが、その日暮らしが良いとこで、なかなか資金は貯まらないでいた。
いつまでもそんな状況ではいけないと、そろそろ魔物を相手にする依頼をこなすことをカミッロとプリーニオは提案した。
しかし、魔物を相手にする場合、確実に倒せるとは限らない。
場合によっては命を落とすことになるため、アンネッタとブリジッタは躊躇ってしまったようだ。
「せめてあと1人入れようって話になって、フィオレンツォに声をかけたんだ」
「もしよかったら、今回だけでも一緒に依頼を受けてくれないか?」
魔物の討伐依頼の方が報酬金は高い。
そのため、男子の2人は魔物討伐依頼を受けて、資金を少し潤わせたい。
女子2人はそれに反し、魔物討伐は怖いので、もう何人か仲間を増やして挑みたいという考えだったらしい。
男子組と女子組で意見をすり合わせた結果、あと1人仲間を増やして魔物討伐に挑むということになったようだ。
「分かった。今回一緒に仕事をしてから、仲間になるか決めるでいいかい?」
「もちろん!」
フィオレンツォとしても、冒険者になったからには魔物の討伐をしたいという思いはあるが、1人で戦うのは少し心配なため、仲間ができることは嬉しい。
しかし、いきなり幼馴染4人組の中に入って、戦闘面においても人間関係においてもうまくいくか分からないため、彼らが言ったように、まず1回試してみることにした。
そう返答すると、カミッロが笑顔で返答してきた。
こうして、フィオレンツォは、ギルド登録してすぐに魔物討伐に向かうことになった。
「ここらへんでいったん休憩しようか?」
「「「賛成!」」」
「あぁ」
前衛担当のカミッロ。
その言葉に合わせるように幼馴染3人が返答する。
さすが幼馴染といったようなその息の合った問答に僅かに遅れ、フィオレンツォも賛成する。
「……なぁ、ちょっと奥に来過ぎているんじゃないか?」
「そんなことないって。この森のどこかにいるって話なんだから、ビビんなって」
今回の討伐は、数日前に大繁殖した一角兎を集めた冒険者たちが討伐したそうだが、それとは別のコロニーの一角兎の討伐だ。
シカーボの町からそれほど離れていない場所だという話だったが、森に入ってからだいぶ経っている。
それなのに、一角兎に遭遇することがないなんて、フィオレンツォは少しおかしく感じ始めていた。
そのため問いかけたのだが、カミッロは笑みを浮かべつつ返答してきた。
若干馬鹿にされたような物言いに、フィオレンツォはムッとしつつも言い返すのを抑え込んだ。
「みんなは休んでてくれ。俺たちがちょっと周辺見てくるから」
「「うん」」
「……あぁ」
いい加減一角兎が出てきても良いはず。
そのため、カミッロとプリーニオはフィオレンツォたちを残して周囲の捜索に向かった。
「……ふう~」
ここまで大した距離でもないというのに、緊張しっぱなしだったためか、思いのほか疲れたフィオレンツォは、武器と盾以外の荷物を降ろして深く息を吐いた。
「大丈夫か……」
カミッロたちがいなくなってから少し経つ。
周囲の捜索にしては少し戻ってくるのが遅い気がするため、フィオレンツォは心配になってきた。
“ガサッ!!”
「「「っっっ!?」」」
休憩していたフィオレンツォたちの近くで物音がする。
それに反応すると、
「「逃げろ!!」」
何かと思ったら、カミッロとプリーニオがこちらに向かって走ってきていた。
そして、その必死な表情に、ただ事ではないとフィオレンツォたちは理解した。
「何が……?」
何から逃げろと言っているのか分からず、フィオレンツォは2人に問いかけようとした。
「あっ!! 俺の荷物!!」
何から逃げるのか分からないが、2人の表情から逃げた方が良いのだろう。
そう思って、先ほど置いた自分の荷物を手に取ろうと思ったフィオレンツォだが、そこには何もなくなっていた。
「アンネッタ!?」
自分の荷物がどこに行ったのか見回していると、フィオレンツォはアンネッタが持って移動していることに気づいた。
少し前までヘトヘトといったような表情をしていたアンネッタとブリジッタだったが、それが嘘だったかのように猛スピードでフィオレンツォから離れて行っている。
「待っ……」
「スリップ!!」
「なっ!?」
どうして自分の荷物を持って行ってしまうのか。
そのことを聞くため、フィオレンツォはアンネッタを追いかけようとする。
そんなフィオレンツォに対し、プリーニオが魔法を唱える。
足を滑らせる魔法だ。
その魔法によって、フィオレンツォは足を滑らせ、アンネッタを追いかけるどころかその場から逃げることを遅れた。
「「「グルル……!!」」」
「っっっ!!」
1人逃げ遅れたフィオレンツォ。
その間に、いつの間にか3頭の狼が周囲を囲んでいた。
◆◆◆◆◆
「そこを俺が助けたってわけか?」
「その通りです」
これまでの経緯を説明するフィオレンツォの言葉に被せるように、エルヴィーノは問いかけると、フィオレンツォは頷きつつ返答した。
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