第 9 話

「これは調べてみた方がいいかもな……」


「……なんでこれを?」


 集めておいてなんだが、トリスターノにはどれオルフェオと関係ないのではと思っていた。

 可能性があるとすれば、エルヴィーノの選び差し出してきた1件だろう。

 自分と同じ判断をしたため、トリスターノはエルヴィーノに理由を求めた。


「貴族の関連の事件だからだ」


 エルヴィーノが選んだのは、この町から西にある町の領主を務めている男爵家の子供が行方不明だという事件だ。

 その内容の中、エルヴィーノが目を付けたのは貴族関連かどうかというだけで、それだけで調べてみる可能性があると判断した。


「それに、こいつが家の前に置かれて、すぐに周辺を探知したんだが、全くそれらしい反応がなかった。だから恐らくは転移をしたんだと思う」


「転移……」


 簡単にだが、トリスターノには一昨日の朝にもオルフェオのことを説明をしてある。

 オルフェオが置かれてすぐ、探知魔法を使用して家から離れていく人間を探ってみたがそんな人間を見つけることはできなかった。

 そのことから、エルヴィーノは転移をしたと判断している。


「魔法の可能性は低い」


「そうだな。俺が知っているのは2人だけだからな」


 遠く離れた場所へと移動することのできる転移魔法。

 それを使える人間はかなり少ないため、魔法によって転移した可能性は低いとエルヴィーノは考えている。

 そのことを聞いたトリスターノは、転移が使える人間の顔が浮かんだ。

 目の前にいるエルヴィーノとセラフィーナの2人だ。

 この2人はダークが付くがエルフ。

 エルフは魔力量が多いことで有名な人種とはいえ、膨大な魔力を必要とする転移魔法が使えるのは、エルフの中にもほとんどいないのではないかと思える。

 それだけ滅多にいない転移魔法を使える人間が、エルヴィーノたちを合わせて3人もこの町に集まる可能性なんて低い。

 そのため、トリスターノも魔法による転移ではないと、エルヴィーノの考えに同意した。


「そうなると、転移石を使用したってことになる。そんなん使用できる人間は貴族の可能性が高いだろ?」


「そうだな」


 何も、魔法だけが転移をおこなうことができる方法ではない。

 転移石と呼ばれる魔道具を使用すれば、誰でも転移することができる。

 しかし、転移石は古代の遺跡から発見されたものと言われているかなり希少なもので、使用するにしてもかなりの量の魔力を内包した魔石をすることになる。

 転移石と使用するための魔石、そのどちらも大金が必要だ。

 それだけの大金が手に入れられる人間と考えると、貴族である可能性が高い。

 そう考えたため、エルヴィーノは貴族関連の事件こそが、オルフェオを置いて行った人間、もしくは親に近づくことができると考えているのだ。


「というわけで、このボルグーゼ男爵の事件を探ってみるよ」


「そうか」


 3件の中で一番可能性があるのは、このボルグーゼ男爵の子供が行方不明になった事件だ。

 そのため、エルヴィーノはこの件を探りに、ボルグーゼ領へ向かうことに決めた。


「とはいっても、貴族とはいっても男爵家だからな。間違いの可能性が高いな」


「そうだな」


 転移石を手に入れた上に使用しているのだから、貴族である可能性は高い。

 しかし、貴族の中にもピンキリがある。

 この国では、王族に次いで公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵の順で身分が低くなっていく。

 転移石の入手と使用ができるとなると、公爵や侯爵あたりが有力で、辺境伯や伯爵あたりだと微妙になってくる。

 そう考えると、男爵が転移石を手に入れられる可能性は低いため、エルヴィーノとしてはあまり期待していない。

 トリスターノとしても同じ考えのため、エルヴィーノの言葉に頷いた。


「念のため、範囲を広げつつ他に貴族関連の事件がないか探ってみるよ」


「あぁ、頼む」


 ボルグーゼ男爵の件がオルフェオにつながる可能性は低い。

 空振りに終わる可能性もあるため、トリスターノは引き続き子供関連の事件を調べることをエルヴィーノに告げる。

 子供の事件の中でも貴族が関連していることを重視してだ。

 協力の言葉に感謝しつつ、話を終えたエルヴィーノは帰宅することにした。






「えっ!? ボルグーゼ領に……」


「そうだ」


 家に帰り、エルヴィーノが一昨日手に入れた兎肉と猪肉を使って料理をしていると、セラフィーナがリベルタと共に牛肉をもって帰ってきた。

 そのため、夕飯は予定通り肉料理祭りとなった。

 それにより、エルヴィーノとセラフィーナもさることながら、ノッテとジャンとリベルタの従魔たちも腹いっぱいになるまで料理を堪能した。

 食後、明日の予定を聞いてきたセラフィーナに対し、エルヴィーノはトリスターノと交わした会話のことを伝えた。

 明日からボルグーゼ領に向かい、事件のことを探ってみるということも合わせてだ。


「私もついて行きます!」


「えっ?」


 エルヴィーノの話を聞いて、セラフィーナはビシッと音が聞こえてきそうなほどに勢いよく手を上げた。

 今日の依頼達成によってまあまあの金額を手に入れられたとはいえ、使いまくった魔力ポーション代は取り戻せていないはず。

 それなのに付いてくるという彼女の言葉に、エルヴィーノは意外に思って声を上げる。


「ハズレの可能性が高いから、別にセラは魔力ポーション代の資金稼ぎをしていてもいいんだぞ」


 エルヴィーノはセラフィーナに対し、もしもの時のために回復ポーションと魔力ポーションは充分用意しておくように言っている。

 そのため、わざわざそれを後回しにしてまで付き合ってもらう必要はない。

 そもそも、ボルグーゼ男爵の件はハズレの可能性が高いこともあるため、考え直すようにエルヴィーノは促した。


「調べるとなると、数日はエル様と離れ離れになるということじゃないですか? せっかく帰ってきたばっかりなのに、また数日会えないのは嫌です! だからついて行きます!」


「お、おぉ……」


 セラフィーナの早くて強い口調により、エルヴィーノは思わず引いてしまう。

 そして、その勢いに思わず受け入れる返事をしてしまった。


「それに、ハズレてもボルグーゼ領にはダンジョンもあることですし……」


「……そうだな」


 セラフィーナとしても、エルヴィーノと離れたくないからだけの理由でついて行くのではない。

 魔力ポーション代を稼ぐなら、魔物が見つけやすいところの方がいい。

 その点、ボルグーゼの近くの町にはダンジョンと呼ばれる魔物が多く生息している場所が存在している。 

 もしも事件がハズレであっても、ダンジョンの魔物を倒しまくって魔石を手に入れ、ギルドで売却すればいい。

 その考えもあって、ついて行くと言っているのだ。

 オルフェオの育児用品などの購入のことも考え、エルヴィーノも多少資金集めをしたいところだ。

 そのため、セラフィーナの案を受け入れ、一緒にボルグーゼ領に行くことになったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る