第 3 話
「ふぅ~、終わったみたいだな」
周囲を見渡して呟くエルヴィーノ。
自分だけでなく、他の冒険者たちの周囲にも一角兎がいる様子はない。
「念のため……」
全てを狩り終えたが、もしかしたら発見しにくい場所に巣が残っているかもしれない。
多少残っていてもまた退治すればいいだけの話だが、ここは町近くの森の中でも人が寄り付かないような場所にある。
また大繁殖するような火種は絶つに越したことはないため、エルヴィーノは完全に狩りつくすために探ることにした。
魔力を周囲に薄く延ばすようにして広げ、その魔力に触れた生物を発見する探知魔法だ。
「……大丈夫そうだな」
探知魔法の結果、この周辺に魔物の反応はない。
そのことから、エルヴィーノは一角兎を狩りつくせたのだと結論付けた。
「みんな! 解体して持って帰れるだけ持って帰ってくれ」
「「「「「了解!」」」」」
弱いとはいっても数が多かったため、多くの冒険者たちは息を切らしていた。
そんな冒険者たちが一息ついたところで、エルヴィーノは倒した一角兎の解体の開始を指示する。
魔物には魔石と呼ばれるものが体内に存在しており、その魔石には魔力が蓄えられている。
その魔石を使った道具のことを魔道具といい、灯りや水汲みなど様々なことに使用することで、人々は日常生活を送っている。
いわば、魔石は電池のような役割をしている。
しかし、一角兎の魔石はたいして魔力を内包していないため、価値は低い。
では、どうして一角兎を解体するのかというと、魔石以外の部分が価値があるからだ。
特に肉は需要が多いため、ギルドの所長であるトリスターノからは、できる限り多く持ち帰ってほしいと言われていた。
エルヴィーノとしても、酒の肴にはもってこいのため、自分が倒した一角兎は
「ん~、やっぱジャンの攻撃だとこうなっちゃうよな……」
「ガウゥ……」
従魔の倒した魔物は、冒険者の間では主人が倒したものと同義となっている。
そのため、エルヴィーノはジャンが倒した一角兎の回収に向かう。
そして、ジャンが倒した一角兎の死体を見て、感想を呟いた。
主人であるエルヴィーノのその言葉に、ジャンは申し訳なさそうに声を漏らした。
「いや、気にすんな。今回は倒し方なんかどうでも良かったんだから」
「ガウッ!」
別にそんなつもりではなかったのだが、ジャンは責められているように捉えてしまったようだ。
落ち込んでしまったジャンに対し、エルヴィーノは慰めるように頭を撫でてあげる。
主人に頭を撫でられたのが嬉しかったのか、ジャンはすぐに元気を取り戻した。
「まぁ、抉れた部分を差し引いても、充分なだけの肉が手に入った。これでしばらく肉には困らないな」
「ガウッ♪」
今回の一番の目的は、千近くまで大繁殖した一角兎の討伐だ。
そして、おまけの目的として、倒した後の肉の入手だ。
その目的通りに事が済み、エルヴィーノはジャンとともに笑みを浮かべた。
「ホ~!」
「おっと!」
ジャンとともに喜んでいたところ、自分も混ぜろと言いたげにノッテが飛んできた。
それに気づいたエルヴィーノは、腕で出してノッテを受け止める。
「ノッテもご苦労さん。帰ったら肉をたらふく食わせてやるからな」
「ホ~♪」
今回の討伐の中で、ノッテはエルヴィーノの次に来るほどの数の一角兎を倒していた。
その活躍を褒め、エルヴィーノはノッテの頭も撫でてあげる。
魔物は雑食性のためなんでも食べるが、フクロウ種の魔物のノッテは猛禽類らしく肉が好きだ。
そのため、主人に撫でられたのと、たくさんの肉が食べられることが嬉しいのか、ノッテは翼を羽ばたかせた。
「さすがに全部は無理か……」
「んっ?」
従魔たちと喜んでいたエルヴィーノの近くで、なんだか残念そうにしている4人組がいた。
その男2・女2の4人組を見て、エルヴィーノはあることに気づいた。
「ギルドからマジックバッグを借りてこなかったのか?」
「えぇ、俺たち急遽参加することになったので」
「そうか……」
その4人組は、どうやらマジックバッグを持っていないようだ。
マジックバッグとは、見た目は片手で持ち運べるような鞄だが、魔道具となっており、その見た目以上の容量を中に入れることができる。
物作りが得意な人種であるドワーフが作りだしたもので、材料などの観点から作るのが困難な魔道具だ。
そのため、一般の冒険者が手に入れるにはかなり困難な代物だが、こういった時のためにギルドは事前の予約をすれば貸し出しをしてくれる。
しかし、話を聞く限り、彼らはエルヴィーノの住む町に昨日着いたらしく、予約をしようにも間に合わなかったようだ。
「じゃあ、なんか印を付けてくれ、俺が代わりに持っていってやるから」
「えっ? でも、あなたも持っていないんじゃない?」
一角兎が弱いといっても、これだけの数だと大怪我を負う可能性もあった。
そんな危険を顧みず参加したというのに、倒した魔物をこのまま放置して腐らせるのはもったいない。
そのため、エルヴィーノは自分が代わりに持って帰ってあげることを彼らに提案した。
しかし、エルヴィーノもマジックバッグを持っているように見えない。
そのため、女性の1人がエルヴィーノの提案に反論するように問いかけてきた。
「あぁ、俺は……」
“ズズズッ!!”
彼女の問いに返答するように、エルヴィーノは魔法を発動させる。
それによって、エルヴィーノの影が形を変える。
「影収納があるから」
「「「「っっっ!!」」」」
そう言うと、エルヴィーノとその従魔たちが倒した一角兎たちが、影の中に吸い込まれて、どこかへと消えていった。
その様子を見ていた4人は、驚きで目を見開く。
「い、今のは……」
「……影収納?」
「……闇属性の?」
「魔力食いの魔法じゃないの?」
驚きの後、彼ら4人はそれぞれ呟く。
その呟き通り、影収納とは闇属性の魔法の1つで、闇属性の魔法はどれも魔力食いと言われるほど魔力消費が激しいのだ。
それが一般常識だというのに、エルヴィーノは大量の一角兎を影の中の異空間に収納したというのに、全く平然としている。
本来の闇属性の魔法使いなら、先ほどの5分の1ほどの数を収納した時点で魔力切れを起こして気を失っているはずだ。
「魔力量には自信があるんだよ」
「自信なんてもんじゃ……」
4人が言いたいことは分かるが、全部を教えることはしない。
冒険者の場合、自分の手の内を全てさらけ出してしまうと、揉め事に巻き込まれたりしたときに、抵抗したり逃げたりする方法まで抑えられてしまうことになってしまう可能性があるからだ。
もしもの時のために、切り札を用意しておくのがプロの冒険者だ。
そのことを理解しているからか、4人も詳しく聞きたいところだが、それ以上追及する言葉を飲み込んだ。
「……まぁ、いいわ」
「そうね。あなたが平気ならお願いするわ」
「了解」
追及しても無駄なのだから、今は倒した一角兎のことに話を戻そう。
そう考えたのか、女性陣はあっさりと話を切り替え、エルヴィーノに自分たちが倒した一角兎を町まで運んでもらうことにした。
「じゃあ、みんな町に帰るぞ!」
「「「「「おうっ!」」」」」
4人組とやり取りしていた間に、他の冒険者たちは借りてきたマジックバッグに自分たちが倒して解体した一角兎を収納していた。
エルヴィーノの影収納のことは見慣れているのか、4人組の分も収納する姿を見ても特に反応しない。
そして、4人組の分も収納し終わると、エルヴィーノは討伐に参加した冒険者たちに帰町するように声をかける。
冒険者たちはそれに返事をし、町に向かって歩き出したのだった。
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