梅野の策略

藤柿

梅野の発見

 ふう、よかった。特別教室棟の一階の廊下には誰の姿もない。

 ここなら何とかやり過ごせそうだ。右手に持っている電話からは同じ生徒会に所属する岩間の話が聞こえる。

 『ねえ、梅野今どこに居るの?』

 『ってかさっきの話何? 先輩を陥れるって何?』

 ずっとこの二つを手を変え品を変え、色んな言い方で言ってくる。

 今から五分くらい前、岩間と同じクラスで生徒会で、副会長選に出る岩間の推薦人をしている原田からも電話があった。原田は、生徒会誌の進捗とか俺の所属する水泳部の話とかを聞いてきた。どうして今そんなこと聞くんだよ、と思うが、かなりしつこい。なので駅に居て電車に乗ることにして切った。岩間にも同じことをしたいが、「さっきの話」という弱みを握られてる以上無下に出来ない。

 とにかく、ここは岩間に電話を切ってもらおう。

 「らーったらたら たあたったらぁー」

 そう思って居たとき、背後から女の声で何か聞こえてくる。

 「らーったらぁらららーあ たららたっらた

  たーっらたららたったたらー たら たららーら たーらたったらぁたららら」

 背後の声は段々大きくなっていく。なんなんだ。まあ、そんなこといい。どうせ演劇部かなんかだろう。

 「たんーったらたらたんたったらあー らーったぁららららー たららたっらた

  らーんったららたったたらぁ たら たららーら たーらたったらぁーあー」

 電話口の岩間も、『なんか後うるさくない? 本当に何処に居るの』と本当に切れ気味に訊いてくる。

 「うたたら んたたら んたらたたんたららった たんたらたらたた 

  たたらたんたららった んたたら たんたららった たらたった 

  たらた らぁ ら、ら、らぁーぁ らぁーった、ら、たら たぁらたっらぁ・・・・」

 もう本当になんなんだよ。俺はそこで仕方なく振り返った。後から思えば、そうすべきではなかった。

 目の前に居た女は、もう無茶苦茶大きな声で言った。

 「やあ梅野君! 二回目だねえー」

 うっせ、ふざけんな!

 俺は咄嗟に通話中のスマホをうるさい藤垣さんから離し、それにつられて身体も藤垣さんから離れようとする。電話口の岩間は「え、藤垣さんそこに居るの?」と訊いて来る。おい来んな、黙れと手と合わせて主張する俺を無視して藤垣さんはこんなことをやりだした。

 「え~桃富ぃー桃富で御座いますー 

  車内にお忘れ物なさいませんようお手回り品今一度御確認下さぁいー 

  到着の、新横石方面南栄ゆき準急、次は塚岩口に停まりますー」

 「ねね、なかなか似てるでしょ!」

 知るか! ってかどっか行け!

 「ああねぇ岩間くん、今特別教室棟一階美術室前に居る。これから昇降口のところに行くよ」

 こうして、俺は飛び跳ねながら歩く女子と共に、岩間と会うことになった。


 岩間と、原田が昇降口に居た。岩間は俺を見るなり、

 「あれ、学校の中に居たんだ」

 と言ってきた。けっ、三人ともグルだったのか。



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梅野の策略 藤柿 @kakiyano

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