因習たくさん村で大スクープ撮って殺されるモブに転生しました。この先、生き残るには!

小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)

第01話   念願かなって、カメラマン兼ライターに!

 苦労して入ったはずの理系バリバリの名門大学を自主退学し、ヤブヘビ出版の雑誌部署へ飛び込みバイトしたのが三年前。今では一眼レフ片手に、こだわりの空気感漂うエモい写真を求めて、各地を駆けずり回る日々。大学を出ていないから高卒扱い、カメラの専門学校も出てないから、一から先輩たちにビシバシ教わって、今では撮った写真データをすぐにノートパソコンでイイ感じに切り抜いたり、単独取材で記事を書いて会社に送信したり、一人でレフ版の角度にこだわったりとスタジオを手作りして撮影したり、フラッシュ用の大きなバッテリーを怖がらずにひょいひょいと車に詰め込めるようにもなっている。


 あえて雰囲気を出すために白黒で撮影してみたり、白飛びギリギリの明度調整もできるようになった。


 最初の頃はなかなか成果が認められなくて、イイ瞬間が撮れても「まぐれだろ」と決めつけられたり、「衝動に任せて生きてるような奴に、いい写真が撮れるわけない」とバカにされたり、それでも自分の好きなことを信じなきゃって、毎日必死に腕を磨いてきた。


 どんな瞬間的な映像だって寸分ブレずに撮るために、ちょこまか動く小鳥を撮影したり、ときには窓から入ってきたハエを、カメラで追いかけ回した。そんな地道な特訓のおかげで、今年は一枚もブレた写真がない。今の私なら、レーシングの先頭を走る車体に乗ってる選手のかぶってるヘルメットに描かれた企業ロゴだって、寸分のブレなく撮影できる自信がある!


「せんぱーい、車ん中が臭くなるから、絶対に吐かないでくださいよ」


「……わかってるって」


 そんな完璧な私にも、致命的な欠点があった。絶対に酔い止めを飲まないと、グロッキーになる。たとえ酔い止めを飲んだって、前日についつい脂ぎったものや消化に悪いものを食べた後は、必ずひどい乗り物酔いをする……。


「は〜あ、このクソド田舎のガタガタ一本道、狭いっすねえ。向こうからトラックが走ってきたら、俺らどこまでバックして道を譲らなきゃいけないんでしょうね」


 うっぷ、ガタガタの古い道路を覆い隠すように枝が落ちてて、それが余計に車体を揺らす。しかも、よりにもよって会社の車が、軽しかなかった~。普通車だけにしておきなさいよ~、車体が軽すぎてめっちゃ揺れる……。


「え? ちょ、マジで大丈夫っすか先輩。顔色やばいっすよ。コンビニが十キロ先に一軒しかないってガソスタの兄ちゃんが言ってましたし、どうします? コンビニ待たずに、その辺でゲボっちゃいます?」


 女子社員に、なんてこと提案するんだ。もう少し言い方があるだろがい!


「あーあ、うちの部署で一番腕が良い社員と組ませたって部長が言うから、どんな人なのか楽しみにしてみたら、酔い止めを飲み忘れたくらいで、こんなにダウナーになる人だったなんて。あ〜あ、なーんか先行き不安だなぁ」


 ダラダラと愚痴りながらハンドルを握る、この脱色まっしろヘアーの若者は、ひよどり太一たいち。最近入ってきた十九歳の男の子だ。いちおう、ライター兼編集アシスタント……って肩書で雇われてる子。私だけじゃなくて、誰に対してもこんな態度だから、さっそく部署で問題児扱いされている。親御さんが変わった人で、彼を海外のいろんなアーティストに会わせて芸術を学ばせたそうだけど、学校というものに一切通わせなかったそうで、それが原因なのか日本の文化やルールとか、それ以前に社会のマナーとか、そういったものが全く身に付いていない感じ。ヤブヘビ出版の前社長の、遠い親戚だそうで、そういうコネがあって面接なしで入社してきたらしいけど、正直なところ私含めて社員全員が持て余してる状態。


 では、なぜそんな問題児と私がペアを組んで、今回の取材に挑んでいるのかと言うと、ペア決めを担当した部長のセンスが壊滅的だったから。


 ……部長が言うには、周囲の反発をものともせずに自分の好きなことや信じた道に突っ走っていける私と、始終こんな感じの彼とは、どこか共通点があるかもという淡い期待を込めたそうなのだが……はっきり言って、お荷物を押し付けられた感じ。


 まあ、私まで愚痴ってたってしょうがない。彼は周囲の人間に礼節を欠いた態度をとっては、反感を買ったり怒らせてしまうだろうけど、なんとか私が間に入って、上手いこと立ち回ってみせる。そして、彼に私の背中を見て、多少は何か学んでもらう。いつまでも鼻つまみ者扱いでは、ちょっとかわいそうだし。


 そして私は謎多きこの集落から、わびさび、伝統、独自の文化、そして何より、私が感じる「エモさ」のままに撮影するため、頑張らねば!


 私は吐きそうになるのを根性でこらえて、手書きの古い地図を、バリッと崩さないように丁寧に丁寧に広げた。ものすごく古くてボロボロに汚れた茶封筒に入って、うちの部署に届いた、謎の地図。ちょうどオカルト的な特集に着手しようとしていたから、私も含めて喜ぶ社員が多かったけど、まぁ、気味悪がる子も多かったかな。気持ちはわかるけどね。


「先輩、見えてきましたよ。豆粒みたいに小さいですけど、あれじゃないですか、コンビニの屋根」


 鵯君が前方を指差す。そのコンビニは、私が知っているどのコンビニとも建物の色が違った。茶色……? 看板すら出てないような。きっとまだ充分に近づいてないから、見えないだけかもしれない。うっそうと茂った森から、私たちはまだ出られていないのだから。もう少しすれば、きっと視界も開けて、広い広い青空と、それを反射し輝くたくさんの田畑が、待っているんだ。景色を撮るのも技術がいる。どこを主役にするか、どこにピントをぐっと合わせるか、そのこだわりを間違えると、「なぜここを撮影したんだろう?」と、読者に疑問を持たれかねない、インパクトの薄い画像となってしまう。


「あれ……?」


 珍しい、彼がちょっと焦ったような横顔を見せた。


「俺、この道通ったことあるかも」


「え? いつ?」


「いえ、わかんないっすけど、なんか、通ったことあるかも。デジャヴってやつですかね」


「……そう」


 この子かなり気まぐれだから、もしかしたらふらっと森の奥地に旅した事とか、あったかもしれないわね。たぶんデジャヴだと思うけど~。


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