第三十二話 人外な力を隠してあくまでも普通のフリを




 翌日、週明けの学校。


 異常な身体能力については大体慣れて来た。加減しないとシャーペンなんて掴んだ時点で粉々だし、全身から漏れ出るヴリルを意識的に抑えないと体が金色に発光しだすんだよな。


 発光現象はステータスの氣力が一万超えた後から始まったから、たぶんそこが分岐点だったんだろう。


 無事に教室に辿り着くと、真面目な奴らはもう登校してきていた。そして完全に遅刻って時間になっても席が完全に埋まってない。あれ? 空席は三単の三つだけの筈だよな?


「……空席多くね?」


牛頭ごず達三単は先週からだけど、それ以外にもふたつ?」


「三十人のクラスが二十五人に減ったのか? この数日で?」


「なんでも顔に怪我をした里坂さとざかさんと滝戸たきどさんが怖くなって冒険者やめたいとか言い出したそうなの。結構深い傷で、再生以上の治癒魔法じゃないと治らないって話だし」


 傷くらい治しゃいいじゃん。今は欠損だって治るんだからさ。


 と言っても、再生って魔法は確か賢力八十以上必須だったか。他人に頼むと最低でも数百万請求されるとか言われてるし、冒険者はじめてすぐにそんな金はだせないよな。それで終わりって事もないんだから


 知力をあげる冒険者は多いけど、白極振りでもない限り賢力を優先してあげる冒険者ってほぼいないって話だしな。


 俺も覚えてるから、黙っててくれるんだったら治してあげるんだけどさ。


神崎かんざきは真面目に登校して来てるみたいだな」


「この週末ダンジョンで見かけなかったけど、また例の過疎ダンジョンか?」


「あの過疎ダンジョンは今閉鎖されてるぞ。土曜日にトンデモナイ発見があったそうだ」


 地下三階が普通に初心者ダンジョン以上の難易度に化けたからな。


 そして二階は異様に敵のいない快適空間。居てもレッサーゴブリン。


 準備して攻略するには悪くない条件だよな。太古の孤王ロストキングを倒す手段があればの話だけど。


「そういう事だ。俺は昨日は別のダンジョンに行ってたから初心者用ダンジョンにはいってないな」


「別のダンジョン?」


 ……虎宮とらみやの反応が変だな? もしかして偶然俺の配信を見ていて、正体にでも気がついたか?


 声も変えてるし、バレる要素はない筈だけど。


「そうだったんだね。初心者用ダンジョンには来ないの?」


「れ……舞秦まいはたさん。今週末にはいこうかなと思うけど」


 今更なんだよな。


 あの高難易度ダンジョンですらあの程度だったし。


 今更初心者ダンジョンで探索しても得るものなんてほとんどない。いちおうどれだけレベル差があってもダンジョン制覇のポイントか何かは入るんだったか?


 十階層以上ある最下層にいる一定レベル以上のボスを倒せば無条件でレベルアップ。このボーナスが無ければ行こうとも思わないけどさ。


「で、は何処にいたんだ?」


「内緒。あ、商業ダンジョンには行ったぞ。あそこは品揃えが良くて助かる」


「買い取りダンジョン……。鍛冶スキルでも覚えたのか?」


「当然。覚えられる機会に覚えた方がいいスキルだしね。鍛冶スキルは武器の手入れとかしてても経験値が入るんだぞ」


 俺の場合レベルマックスだから入らないけどな。


 そういう事情があって、技術系スキルに関しては早めに習得するのが吉だ。


 次にダンジョンに潜る時、あのバーベキューセットでも使うかな。


 肉はすんごいのがあるし。料理スキルも覚えたらすぐにレベルマックスにするけどな。


「いろいろ隠してるのは察するが、どうせ今日この後でバレるぞ」


「今日何かあったか? 午前中は普通の授業だろ?」


「昼から試射場で魔法の試し撃ちだ。白黒でもヒール位使えるだろ?」


 ……しまった!! 灰色で白黒の場合、攻撃魔法なんてない事になってるから回復魔法を使うしかないのか!!


 といっても知力や賢力で効果や威力が変わる魔法の測定なんてされたら、即座にステータスがバレる……。


 隠ぺいしても手加減しても回復魔法の場合は変わらないしな。


 これが攻撃の場合、ある程度制御できるんだけど。


「そうだね。でも、ヒールの回復量なんて調べられるの?」


「かなり正確にな。ステータスカードの情報を提示しろとは言われない代わりに、定期的にこうして実力を把握しておこうって事だ。流石にこの学院でも冒険者にステータスカードを提示させる様な真似はしないさ」


「ステータスカードの隠蔽もできるしね。過去にあまりにも多いからこんな形に対策されたって」


 高ステータスを隠したいってやつがそこまで多かったのか?


 一時的にステータスをあげる奴はいた可能性も……。


 でも、それだと魔法使わせてもバレるんじゃない?


「バフかけてたらバレるんじゃない?」


「下駄はいてる奴はその程度の奴なのさ。問題は別でな……」


 分からん。


 俺と同じ様な奴が居たのか?


 でも、隠す必要なんてないだろうに。


「たまにさ、色を増やした後でレベルリセットして、成長しなおす人とかいるの」


「レベルリセット? そんな事が出来るの」


【レベルリセットは可能です。実行しますか? リセット回数残り二】


 ああ、俺もできるのか。二色増やしたからしかも二回も。


 今はしない。カンストまであと十だしな。


「そうするとな、同じレベル十なのに異常に強い奴が出てくる訳だ。色を増やす事自体が難しいし、増やせても一色とか言われてるが」


「そうなんだ」


 俺は既に二色増やせてるし、緑に関しては条件次第で簡単に増えると思うけどな。


 どうせ増やせるんだったら金とか銀を増やしたいって気持ちは分かるけどさ。


「でもその場合は言いふらすんじゃない?」


「誰でも切り札は隠しておくもんだ。特に冒険者をしているといろいろとな」


「一色増えたらステータスボーナスとスキルボーナスが倍だしね。そりゃ強いだろう」


 多色持ちで騒ぐのはステータスカード発行時の学生だけって事か。


 それで土曜の俺の態度で虎宮とらみやは考えを変えた?


 というか、灰色ってわかった時もこいつだけは俺の心配はしたけど馬鹿にしたりはしなかったしな。あ、玲奈れいなも何かおかしかったけど馬鹿にしたりはしてなかったか。


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