第36話おっさんを追放した勇者(笑)達の受難4

勇者レオンSide


「はあ? クーデターがおっさん一人に鎮圧された?」


俺は冒険者ギルドの受付嬢シアから話を聞いて愕然としていた。


クーデターの鎮圧。


剣聖の固有スキルを持つ俺こそが鎮圧に協力して、民から崇めたてられるのが筋だろう?


それをこともあろうに俺がクビにしたあのおっさんが一人でだと?


「まあ、あんた達の出番なんて最初からあり得ないから、関係ない話だけどね」


「クッ!」


生意気な受付嬢のシアの話に歯ぎしりを隠せなかった。


心の中で憤怒の熱い炎が湧きあがる。


クーデターという、この好機に再起をかけていたんだ。


今頃、王に礼を言われ、恩を売り、今後の後見人となってもらう……筈だった。


それをあのおっさんがふざけた真似をしてくれた。


それも、聞けば、誰も知らなかった隠し通路を通って王城に侵入するという卑怯っぷり。


「ねえ、レオン、機嫌が悪くなるのもわかるけど」


「俺は機嫌なんて悪くないぜ。勘違いするな!」


「わ、わかったから、いつもみたいに殴らないでね」


「エミリアは誤解を生むようなことを言わないよう、黙っていてくれないかな?」


「ご、ごめんなさい。だから殴るのは後にしてね」


「それにしても、隠し通路って、最後に絶対解除不能の罠で、ドラゴンゾンビが配置されていたらしいよ。おっさんはそんなのどうやったんだろうね?」


「まあ、考えても仕方がないじゃないか。どうせ卑怯な手ですり抜けたに決まってるんだから、気持ちを切り替えて、今日は宿に戻ろう」


「あの安宿、あたいは嫌だな」


安宿でも、気持ちいい事するには、どこでもたいして変わらないだろう。


そうだ。気持ちを切り替えて、明日からは西方戦線に志願兵として参加して英雄的行為を行なって、次こそ素晴らしい結果を出すんだ。


☆☆☆


「な! せ、西方戦線の戦争がたった2日で終結した?」


帰り道の大広間の大通りで新聞の号外が配られていて、知らされた。


「なんでも、新戦術を考案して、楽勝だったらしいぜ」


「しかも、これまでと違って、俺達平民の戦死者はほとんどなかったらしいぜ」


「天才かよ」


「それも、考案したのが、盗賊だったって話だぜ」


「マジか? 盗賊が?」


俺は掌をきつく握りしめ、屈辱に耐えていた。


「ねえ、レオン、まだその盗賊の英雄があのおっさんだと決まった訳じゃ、今日はあーしが夜、慰めてあげるから」


「そうだよ。今では身分が違うし、おっさんの方が遥かに上だけど、あたいはレオンを見捨てたりしないから、ね」


「五月蝿い、このメス豚共が! ベタベタするんじゃねえ! 殺すぞ!」


不愉快だ。何もかもが不愉快だ。


あんなに上手く行っていたのに、どこで計算を間違えた?


おっさんを追放してから?


俺はフルフルと頭を振った。


なんておぞましい考えを浮かべてしまったんだ、俺は。


おっさんは間違いなく無能だった。


そこに間違いなどある筈がない。


俺に間違いがあるはずがないのだ。


おっさんはまぐれでクーデター鎮圧に微力を尽くし、それを過大に評価されているだけだ。


西方戦線の立役者も当然別人に違いない。


そう、英雄が間違っても盗賊である筈がない、きっと、俺みたいに立派な固有スキル持ちに違いない。


ましてや、おっさんである筈がねえ。


「西部戦線の勇者様の像が出来たぞ!」


「あら、イケオジ」


「すげぇ! 英雄おっさんだぁ!」


俺は怒りにあまり、プルプルと震えた。


そこにあったのは、あのおっさんの銅像だった。


「大丈夫、レオン?」


「俺に触るなぁ! このメス豚がぁ!」


「きゃぁ!」


エミリアの手を振り払って、足蹴にする。


クソ女の無遠慮な言葉にカチンと来て、怒りが沸騰し、ブチキレた。


気がつくと、エミリアに馬乗りになり、顔を何度も殴っていた。


「い、痛い。や……やめ、て、レオン」


「ダメだよ。エミリアが死んじゃう」


俺はルビーの言葉で、ハッと我に返った。


周囲から侮蔑の表情で見られる。


何だよ、その目は? 殺されたいのか?


「レオンさん、冒険者ギルドの職員として忠告します」


唐突に後ろから声をかけられて、振り返ると、受付嬢のシアだった。


勤務時間外なのか、制服ではなく、私服だ。


「いいですか。レオンさん。人の資質は固有スキルだけでは決まりません。あなたは立派な固有スキルをお持ちですが、肝心な心が伴っていません。それに比べて、おっさんは以前から高い評価と、信頼を築いてました。今からでも遅くありません。心を入れ替えて、精進してください。あのおっさんも、精進したからこそ、神より新たな力を得たように思えます」


この俺に説教を垂れるのか、この女は?


今すぐ殺してやろうか?


いや。


シアを良く見ると、なかなか男好きするいい身体してやがる。


何故かヒーラーのミアには全く効果がなかったが、あれを使うか?


俺はスキル『魅了』をシアに向かって展開した。


パーン


何かに弾かれたような音が聞こえた。


「レオンさん。あなた、今、私に何か状態異常のスキルをかけましたね。私のディフェンスシステムのスキルに反応がありました」


ディフェンスシステムのスキル? あれは確か、自分よりステータスが低い術者のスキルしか防御できない筈じゃ?


不味い。俺のスキル『魅了』は禁呪だ。


所有しいる者は申告の義務がある。


人に対して使用することは、もちろん禁忌だ。


バレたらヤバい。


殺すか?


「殺気がバレバレですよ」


気がつくと、シアの短刀が俺の喉元に突きつけられていた。


剣聖の固有スキルを持つ俺よりステータスが高いというのか?


しかも、短刀を抜いた所も見えなかった、俺がだ。


この女、只者じゃねえ。ヤバい。


「ご忠告、感謝します。し、失礼します」


「……」


俺は逃げるように、その場を去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る