第22話おっさんは聖女ちゃんと再会する
お嬢様の警護で毎日働いていたが、ある日お嬢様から休暇が与えられた。
確かにお嬢様の警護の仕事は美味しいし、お嬢様は面倒事なんて起こさないから楽なもんだ。
ちなみに土日は俺の牛丼を狙って、お嬢様は朝から俺の部屋に押しかけてくるから、実際休暇がなかったのも事実だ。
だからお嬢様の計らいに感謝した。
「ん? なんだあいつ?」
俺は何となく大通りを歩いていると、不審な男を見かけた。
歩き方は俺と同じ、その上隠密のスキルを使用している。
察知のスキルがなければ、誰も気が付かない筈だ。
俺は隠密のスキルを発動して、そいつの後をつけた。
間違いない、賊だ。
街中で隠密のスキルを使うとすれば、泥棒か犯罪者しかない。
相手は俺と同じ盗賊か、アッサシン、おそらく後者の方だ。
「……ど、どこに行きやがった?」
アッサシンを追跡していて、見失ってしまった。
気が付かれたのかもしれないし、隠密のスキルを発動していると追跡は難しい。
「——っ……! あぶない……!」
「はぁ?」
声は上から聞こえて来た。
女の子がゆっくり落ちてくる。
落ちてくる女の子を拾うなんて、絶対トラブルの元だと思った。
俺は反射的に手を広げて、女の子を抱き止めていた。
「……おじさま?」
一瞬頭をよぎったのは何とか物語というアニメのオープニングだった。
けど、一瞬でそんなことは忘れた。
「せ、聖女ちゃん?」
「っと……聖女ちゃん?」
いけねぇ。
つい、心の中で呼んでいた呼び名が出ちまった。
「……お久しぶりです」
「ああ……ミアさん」
落ちてきた少女は前のパーティのメンバーで、ヒーラーのミアさんだった。
「……大丈夫ですか?」
「ああ……大丈夫だよ」
ミアさんの無事を確認すると、上を見上げて確認する。
……何もない。
何もない空から落ちてきたとしか思えない。
「……体重がないとか?」
「……ふふっ」
ミアさんは一瞬、キョトンとするが、とびっきりの笑顔になると笑った。
「何それ? アニメ映画の見過ぎだよ」
劇的なミアさんとの再会だが、ミアさんは唐突に言って来た。
「……好きです。おじさま」
そう言って、目を閉じる。
「……ちょ、ちょっと、ミアさん」
そう言うと、片目を薄く開けて。
「駄目か。流されてキスしてくれないかな? ……と思って」
「なんでですかい?」
「……好きだから」
『は? いや、また幻聴が聞こえてきたような?』
「わ、私ったら、ごめんなさい。今のは忘れてね」
「へ、へい。安心してくだせえ。俺は勘違いしないおっさんです」
ふふっとまたミアさんは笑うと、俺の腕の中から降りた。
「ところで、どうしたんですかい?」
「おじさまには本当のこと言うね」
「本当のこと」
「私、逃亡者なの」
いまいち理解が追いつかない。
何から逃げているんだ?
「あ! そうだ。これを言いたくておじさまを探してたんだから」
「なんですかい?」
「前のパーティの銀の鱗からおじさまを追放したのはリーダーのレオンとあの二人の女の子達だけの考えなの。私はおじさまのお仕事が立派なの知ってるよ」
俺は破顔してしまった。
前のパーティではロクな扱いはしてもらえなかったけど、この子は違う。
「わかっておりまさ。ミアさんはそんな人じゃねぇって、ずっと思ってやした」
「……嬉しい。ねえ、おじさま、お礼に私の秘密を教えてあげる。そうしたら、私が逃亡者っていう意味がわかると思うの」
どういうことだ?
ミアさんは普通の女の子の筈だ。
ただ、人並外れた透明感のある美しい容貌に、不釣り合いなことがかえって魅力を引き上げる推定Gカップのメロン大の胸が特筆すべきだろう。
「……どう言うことだろうって顔してるね。私ね。国教会の聖女なの」
「は? 聖女って……この国の七聖人の一人ってことですかい?」
「……そう」
そう言って長いまつ毛を伏せる。
どこか不思議な雰囲気を持った子だと思ったけど、聖女だと聞いて、逆に腑に落ちる。
「助けてくれてありがとう。誤解も解くことができたし、私行くね」
そのまま踵を返して路地を歩いて行こうとする聖女様の手を……気がつくと俺は握っていた。
「待ってくだせえ」
「……何?」
「ミアさんのことが心配です。しばらくお供させていただきやす」
「……おじさまって、ほんと……素敵な人だね」
そう、とびっきりの笑顔で言うと、俺が元来た道をスタスタと歩いて行く。
俺は黙って後をついて歩き出した。
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