第21話お嬢様は泥棒猫出現に気が動転する
お嬢様Side
今日はお父様から呼び出されて学園を休んだ。
おそらく重要な案件だろう。
父、国王の執務室に通されて、ソファーで紅茶を振舞われる。
お父様は単刀直入に言って来た。
「アリスよ。今日呼び出したのは他でもない、おっさんのことだ」
「うん。わ、私もそうだと思ってたぞ!」
「おっさんとの交際は許そう。結婚を前提なら許す。......というか、この国の安全保障上是が非でもあのおっさんと結婚してくれ」
「は、はい! 喜んで!」
私はみっともなく破顔した。
やれ殺戮という名前に愛されているとか、ひどいいい様で褒め称えられた上、求婚してくれる男性があの残念な侯爵令息シュレンだけという私にとって、おっさんの登場はまさに神の天啓とも思えた。
これは運命なのだと。
「お前達二人は友人以上の恋人未満と言うのがもっぱら社交界に流れている噂だ。まあ、お前の位の歳だと、そんなペースで良いと思うのじゃが、不安はある」
「不安?」
「例えばおっさんに大型ニューヒロインが登場するとかな」
「ニューヒロインって、おっさんと私は神様が引き合わせてくれた運命なんだぞ! それを横取りするとか、泥棒猫なんだぞ! 先約優先は仁義だぞ!」
私が怒り狂って紅茶をポタポタとこぼしてしまうが、そんなことはどうでもいい。
「先程教皇と会談した......教皇の娘、剛腕の聖女ミアが3か月前に失踪したことは知っておるか?」
「ええ、もちろん知っているぞ。同じ学園の生徒だし、七聖人をはじめ教皇軍のことも軍関係では絶えず注視しているぞ」
「その剛腕の聖女が他国や我が国の暗殺者達に命を狙われて王都を逃亡中だと言うのは?」
「し、知らなかったぞ」
「......その聖女が偶然おっさんとばったりと出会い、暗殺者から命を救われる可能性があるとか」
「......そ、そんな偶然が」
「......同感だが」
「........................」
「........................」
言い尽くせない不安が襲い、沈黙が流れた。
どうやら、お父様も同じ考えのようだ。
おっさんなら......あり得る......と。
「ところでおっさんは今、どこにいる?」
「き、休暇をあげたら、今日は王都の市場にでも行ってみるかとか......そ、束縛感強い女と思われたくなかったし」
「調査を命じたところ、市場周辺で戦いの痕跡が」
「........................」
「........................」
また言い尽くせない不安が襲い、沈黙が場を支配した。
「もしかして私のしたことって?」
「自殺行為じゃな」
カタカタと音が鳴る、私が手にしている紅茶のカップとソーサーがぶつかって......私の手が震えているのだ。
「わ、私とおっさんは運命の出会いから、もう2週間も」
「調査によると、聖女は身分を隠し、おっさんの前の冒険者パーティーにヒーラーとして所属していたらしい」
ガチャン
思わず、ティーカップを落としてしまう。
「わ、私としたことが......このティーカップ、金貨100枚は......いや、そんなことはどうでもいいぞ」
「リリー、片付けて、新しいお茶を......落ち着くハーブティーを頼む」
お父様はメイドに言いつけて、新しいハーブティーを用意してくれた。
今度のカップも金貨100枚はくだらないぞ。
「お、お父様、わ、私、ど、動揺などしていないぞ」
「そんなにカタカタ震えて言われてもな」
「わ、私とおっさんの間には強い絆が......一緒に決闘した中だし、一緒に火竜を討伐した仲だぞ」
「聖女は3か月間ずっと一緒のパーティで戦っていた訳だが」
「......」
「それに所属していた冒険者ギルドの受付嬢によると......聖女はおっさんに好意を持っていたらしい」
ガチャン
再び金貨100枚が......庶民が一生喰うに困らないお金が......いや、そんなことはどうでもいい。
「......お父様、行ってきます」
「うむ。わかっておる」
私は踵を返すと、執務室からドアを開けておっさんの待つ、市場に一路目指して。
「......手遅れでないといいのじゃが」
ドカン
私は思わず、つまずいて、盛大にドアを破壊してしまった。
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