第19話おっさんを追放した勇者(笑)達の受難3
おっさんを追放した勇者(笑)剣士レオンSide
「そ、そんな馬鹿な!? 何かの間違いではないのですか?」
「いえ、間違いありません、試練ダンジョンは攻略されました」
俺は受付嬢のシアの言葉に耳を疑った。
「一体どういう事なんだ?」
受付嬢の説明によると、未踏の試練のダンジョンが昨日突然攻略された。
試練のダンジョンは中級とはいえ、中層が迷路な上、ラスボスが火竜という二つのハードルの高さから、中級とはいえ、ここ100年攻略されていなかった。
一度攻略されるとダンジョンから魔物は発生しなくなる。
俺が最高に目立ち、名を売るチャンスだった筈だ。
ダンジョンを攻略し、ラスボスを倒せばさぞかし素晴らしい名声が手に入っていただろう。民どもは俺を誉めたたえた筈だった。
街の女も黙って俺に股を開いたに違いない。
「どうしたの? レオン?」
「俺に触れるなぁ この雌豚あぁあ!」
「きゃあ!?」
重戦士のエミリアの手を乱暴に払いのける。
そして、真っ黒に膨れ上がった怒りが巻き上がり、俺は思わずエミリアの腹を思いっきり蹴りあげた。
「い、痛い……お、お腹の子が……」
「五月蠅い!? 黙れ雌豚がぁ!」
「止めて下さい。エミリアさんのお腹にはあなたの子がいるのでしょう?」
しまった。俺とした事がついカッとなって……誰も見ていない処でやるべきだった。
慌てて、繕って、エミリアに謝る。
しかし、先程注意してきたヒーラーのミアはおろか、重戦士のエミリア、魔法使いルビー、レンジャーのビアンカも冷たい目で俺を見下ろす。何だよその目は?
いや、彼女達だけではなかった。受付嬢のシアも、周りの冒険者達も軽蔑の目を向けていた。
「レオンさん、以前から考えていたのですが、私はこれ以上あなたについて行く事はできません。あなたは勇者になりたいと仰ってました。勇者とは本来、誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者、または成し遂げようとしている者に対する敬意を表す呼称です。あなたはそのどちらでもない」
「俺は勇者になる男だ! この大陸では数少ない剣聖の固有スキルを授かった男だ。俺は誰からも輝かしく賞賛されなければならない人間なんだ!? それが俺なんだ!」
「自分の恋人の腹を蹴るような人がですか? ……酷すぎます」
ミアを睨むと黙り込んだが、その拳は握りしめられている。
ふとエミリアを眺めると、エミリアは身体を震わせていた。
羞恥か? 怒りか? 俺がエミリアとの子を認知しないで、結婚を断ったからか? だが、どうでもいい事だ。
俺は伝説の魔王を討伐する男だ。
魔王を討伐した暁には貴族の地位と、多分王女あたりを嫁にもらえる。
こんな田舎娘一人なぞ、どうでもいい存在なのだ。
次に目をミアに向ける。この女はおっさんがいなくなったことを悲しんでいたから、優しくしてやったのに、股を開く処か俺に軽蔑の視線を投げつけてくるばかり。
夜に俺の部屋に誘ったにも関わらず来ないばかりか、口も満足に聞きやしない。
「リーダー、今日をもって、このパーティを抜けさせて頂きます」
「な、何だと?」
俺とした事が動揺した。
俺の元から去るのだと? 未だ俺の手がついていないにも関わらずか?
ミアはさっさと行ってしまった。そして
レオンのパーティはようやくダンジョンの第3層を突破できるようになった。
だが、また元の2層止まりに逆戻り確定だ。
それもその筈だ。
ヒーラーのミアのおかげで第3層まで辿りつくことができたのに、彼女が抜けたら、もうそんなに奥まで行ける訳がない。
ヒーラーのミアは決意したのだ。
敬意を持っていた盗賊のおっさんがいなくなったこのパーティにいるべきではない。
こんなパーティにいたら、命がいくつあっても足らない。
決意の最大の理由、受付嬢のシアさんから真相を聞いた。
おっさんは自分の意思で出奔したのではない。
リーダーのレオンとエミリアやルビーたちがおっさんを追放したと言う。
おっさんの恩恵を全く理解していなかった上、ミアが追放の首謀者だと言いふらしている。
敬意を持っているおっさん、いや、おじさまにそんな風に一生思われるなど、我慢ならない。
最近おっさんは貴族の娘とパーティを組んだとシアから聞いた。
彼女はそのパーティに参加させてもらおうと思った。
そちらに行った方が自分のためだし、何よりおじさまの誤解を解きたい。
そのためには、こんな処にいては駄目だ。彼女の双眸に決意の光が宿った。
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