第18話おっさんを追放した勇者(笑)達の受難2

おっさんを追放した初心者パーティは新戦力を迎える事になった。


表向きは泥棒を働いたため追放したおっさんの代わりの補充だが、実際には盗賊がいないと、どんなに困るかわかったので、結局レンジャーを臨時で雇った。


あれから何度かダンジョンに挑んだが、満足に稼ぐどころか、第一層で困っていた。


「みんな、たるんでいるぞ!! おっさんがいなくなってモチベ向上すべきとこだぞ! あいつはむしろいなくなった方が良いヤツだった。みんなの足手まといだったじゃないか? せっかく足手まといがいなくなったのに、お前たちがやる気を出してくれんと話にならん!」


レオンが怒って、怒鳴っているが、メンバーの士気は下がるばかり、いや、彼を慕っていたヒーラーのミアはその顔に怒りの形相さえ浮かべていた。


だが、リーダーに従わない訳にはいかない。


彼に意見をするものはいない。


「今日から新しいメンバーのレンジャー、ビアンカとダンジョンに潜る。今日こそ第2階層を突破するぞ。ビアンカはレンジャーと言えど、レベル30だ。 俺達新進気鋭のパーティ銀の鱗の威信にかけて、みっともないところは見せられないからな!」


レオンは新戦力のビアンカに視線を向けて、皆に紹介する。こんな時でさえ、新メンバーが女性なのは、レオンがそっちの方も期待していたからである。


「ビアンカです。よろしくお願いします」


ビアンカはそう言って礼をして、皆に笑顔を向けた。当然だろう。


新進気鋭のパーティ銀の鱗への招き。


駆け出しレンジャーの彼女にとって名を売るチャンスだ。


固有スキルに恵まれなかった彼女にとって、有名なパーティに迎えられる事は極めて光栄な事だ。


もちろん、レオンは彼女を将来クビにしようと考えていた。


盗賊より戦闘力は高いものの、それ程役には立たないだろう。


とりあえずの戦力と、その身体を楽しんだ後は、どうでもいい存在。


彼にとって、女性は物と何ら変わる事がない存在なのだ。


「新進気鋭のパーティ銀の鱗へようこそ、リーダーのレオンだ。今後ともよろしく頼む」


ビアンカは感激したかの様にレオンを見つめる。


「感激です。有名な剣聖の固有スキルを持つレオンさんにお目にかかれるだけでなく、パーティに加えて頂けるのだなんて!」


「そんなに堅苦しくなるな。早速、ダンジョン攻略に力を貸してくれ」


「ええ、もちろんです」


レオン達は3度目の第2層攻略に挑戦する。


「は? そ、そんな馬鹿な!? 何かの間違いだろ?」


「いえ、間違いではございません、レンジャーはそんなに万能では無いです」


レオンは新メンバーのビアンカの言葉に耳を疑った。


「一体どういう事なんだ?」


レオンはせっかくドロップした宝箱の開錠に疑問を感じてビアンカに質問していた。


「レオンさん、盗賊やレンジャーがどんな宝箱でも開錠できる訳ではありません。この宝箱は私の知識に無い物です。開錠は見送った方がいいでしょう。しかし、どんな宝箱でも開けてしまう……そんなことができるのは有名な盗賊のおっさんだけです」


「馬鹿なことを言うな! あの能無しのおっさんでさえ、たかが宝箱位、どんなのでも開けてくれた。それにも関わらずお前は半分に一つの宝箱位しか開けられないと言うのか?」


「当たり前では無いですか? 逆に魔法使いのルビーさんが宝箱にさして知識もなく魔法で宝箱の開錠をしたら、ミミックや爆弾の罠にハマって、たちまち全員死にますよ。そんな都合のいい人いますか? できるものならやって見せてください?」


「ぐ、ぐう!」


実際、ルビーの魔法で宝箱を開けたら、たいていミミックで、危険な目に会っていた。


ビアンカの説明によると、レベル30のレンジャーは平均レベルだ。


だが開錠できる宝箱はせいぜい1/3位。


熟練した盗賊ですら2/3が限界だと言う。


従ってレンジャーを迎えて、おっさんがいた時のように、斥候の役割をしてくれて、有利に戦闘を進められて、ようやく第2層の中ボスを倒して貴重な宝箱がドロップしたが……。


おっさんのようにどんな宝箱でも開けてしまうことは不可能だと言う。


それにビアンカのおかげで、戦いは有利になったが、何故か前衛の重戦士エミリアや魔法使いルビーの負傷が多くなったような……時々、おっさんがいいタイミングで短剣を投擲してなかったっけ?


盗賊の上位互換、レンジャーのビアンカを新メンバーに招いた筈なのになのに、そんな馬鹿な!!


「宝箱の開錠や鑑定を盤石なものにしたいのなら、盗賊さんを仲間に加えるべきです。……というか、これ常識ですよ? 宝箱のアイテムを開けたいのに、盗賊さんがいないパーティなんて聞いたことがないですよ?」


「五月蝿え! この雌豚がぁ!」


なんと、せっかく迎えた新メンバーのビアンカを雌豚呼ばわりした上足蹴に。


「何をするのですか? 私は常識を教えてあげただけです。何故このような仕打ちを?」


だから常識がないんですよ。うちのリーダー様は……ミアは一人心の中で突っ込む。


☆☆☆


「あぁ! 探知のスキルが使えない?」


「当たり前です。このダンジョンの3層のボスの部屋は魔法禁止域です。ここで探知できるのは盗賊さんのスキルだけです。これも常識ですが?」


そうです。常識です。もっと言ってやって下さい。


魔法禁止区域で魔法を使うことなく探知できたのはおっさんの探知(大)のおかげ。


自分達は何もできないのに、なんで他人は出来て当たり前って思うんだろう?


ホントにもっと言ってやって下さいビアンカさん!


険悪なムードが漂う中、一人ミアは心の中で突っ込んでいた。


「じゃ、何か? 3層の中ボスとは事前情報なく、ぶっつけ本番で戦わなくてはならんのか? そんな馬鹿な!」


いや、だからそんな時の為に盗賊さんだとビアンカさん言っているだろう? 聞いてなかったのか?


「そうか……ここはビアンカ! お前が最初にボス部屋に突っ込んで斥候をやれ! お前を囮にしてボスを攻略する!」


「何を言ってるんですか? ですから今からでも遅くないです! 一旦戻って、冒険者ギルドで盗賊さんを新たに募集した方がいいです。初心者パーティーが盗賊さん抜きでダンジョン攻略しようだなんて非常識です!」


そうです! もっと言ってやって下さい! そうじゃないと私が困ります!


ミアは心の中で、おっさんのことを想い、パーティを脱退しようかと思案した。

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