第15話おっさんは魔の森でいきなりドラゴンに出くわす

まあ、引き受けてよかったんだろう。


お嬢様は夏の避暑地にでも行くかのような白いワンピースに麦わら帽子という装いだ。


流石に剣はアイテムボックスに保管してあるらしい。


まあ、魔の森と言っても、1日で行ける距離はたかが知れている。


せいぜいゴブリンかオークと出くわす位だ。


……と、思っていたが。


「最近、浅部でもフェンリル狼が出たとか言う話があったが、まあ、楽勝ね」


「え? フェンリル狼をですかい? あれは中級冒険者パーティでようやく倒せるヤツじゃ?」


「ん? おっさんなら一人でも楽勝だぞ、でも油断は禁物よ。先日のホワイトハングみたいに変な昇華石の結晶埋め込んでいたら」


……お嬢様、それフラグ。


☆☆☆


「お嬢様、大丈夫ですかい?」


「ああ、大丈夫だ、おっさん、しかし」


「へい。こいつら、ただのフェンリルじゃねえですぜ」


魔の森に入って1時間で、いきなり出くわしたのがフェンリル狼だ。


……だからあんなこと言わなきゃいいのに。


だが、こんな浅い場所でフェンリル狼ほどの強力な魔物に出くわす筈がねえ。


俺も何度か魔の森に入ったことはあるが、歩いて1時間の距離で出くわすなんておかしい。


魔の森は深部に行けば行く程、強力な魔物が潜めく。


しかし、ダンジョンと違い、ドンドン魔物が湧き出るということはないので、時々国の騎士団が調査目的で侵入する位で、深部に行った者など、伝説の勇者達位だろう。


もっとも、伝説はおとぎ話で、真相はわからない。


「ウィンドカッター!」


お嬢様の側面から襲いかかったフェンリルを風の魔法で瞬殺する。


ディスカウントショップで購入した魔法のスキルだ。


「おっさん、魔法も使えるの?」


「一通りは。でも、氷魔法が一番得意でやす」


「もう、頼もしいぞ!」


俺は今、召喚獣を氷のカーバンクルに固定属性にセットしている。


自分の属性は召喚獣を変更することで可能だ。


ディスカウントショップで完凸させたから、氷の属性の加護は120%、スフィアは氷属性120%、火とか土の他は70%、アミュレットのパッシブスキルは攻撃120%、防御120%、魔力120%、速度120%とだいたい完凸させている。


「何とか、倒せやしたね」


「ああ、おっさんがいてくれて助かったぞ」


「しかし、撤退すべきですぜ」


「確かにそうだけど……どうもそうはいかないみたいだぞ」


ズシンと地面が揺れた。


「何か大きな魔物が来るぞ」


「探知してみやす」


俺は探知のスキルで周囲を検索した。


『火竜Lv99』


「お嬢様、やべぇ、火竜でさ、さっさとトンズラしますぜ」


「そうは行かないみたい……もう、目の前だぞ」


木々の切れ間から、禍々しい真っ赤なドラゴンの頭が日に照らされてこちらに影を作る。


天に向かって咆哮すると、竜がぐるりと首を曲げて、俺を睨みつけた。


「クッ!」


盗賊の俺は察知のスキルで、ある程度強力な魔物の接近を予見できる。


だけど、さっきのフェンリル狼もこの竜も全く察知できなかった。


隠密のスキルを使っていたとしか思えねぇ。


それに頭に昇華結晶が埋め込まれている。


竜が背中を発光させ、大きな口から大量の黒煙と真っ赤な炎の熱塊が見えた。


「お嬢様、俺の後ろに隠れてくださぇ」


「え? かわすんじゃないの?」


「いいから、任せてくだせえ」


俺はメニューのwikiを読み終えていた。


火竜のブレスは氷の召喚石とファランクスという防御70%のスキルで100%の完全防御ができる。


召喚石のクーリングタイムは60秒、火竜のブレスは120秒に一度しか発動できない。


「きゃぁッ!?」


思わず悲鳴を上げるお嬢様と俺に向けて、竜の炎の熱塊が一直線に飛んで来た。


逆巻く魔力の翻弄が周囲の木々を根こそぎ倒し、宙に舞い、地面をえぐりとって、氷の防御壁に直撃した。


「……クッ!」


「大丈夫? おっさん?」


竜の熱塊の魔力が俺の防御壁にドンドン吸収されるが、あまりにも巨大なエネルギーは俺達の後ろの地面をめくりあげ、膨大な粉塵を巻き散らした。


そして、更に熱塊を放射し続ける。


「……もう、だめ!」


とうとう、防御壁の限界に達し、熱塊が俺達を飲み込んだ。......かに見えた。


「エネルギー充填120%、スキル、リフレクト発動!」


俺の前方には炎の魔力の塊が具現化していた。


そして、火竜のブレスのエネルギーはそのまま本人に跳ね返り、顔面にヒットした。


「グァ!」


竜の体が一瞬浮き上がり、やがて木々をメキメキと薙ぎ倒して倒れた。


「お嬢様、氷結爆裂地獄を使いやす」


「わかった。頼んだぞおっさん」


『魔力充填120%——魔力を氷の魔素に変換——爆裂のシーケンス付与——氷結爆裂地獄、発動』


魔力の翻弄が竜を包み込み、やがて大爆発が起こる。


もくもくと竜から粉塵が立ち昇る。


『殺ったか?』


「まだだ、おっさん、まだ息があるぞ!」


竜が倒れた粉塵が収まると、そこには横たわった竜が見えた。


だが、竜は魔法耐性が強く、最強の生命力を有する種。未だに生きている。


「あれだけの魔法を放ったのに……おっ! 首の鱗がなくなってるぜ!」


俺の氷の爆裂魔法は竜を蹂躙し、竜の首に大きなダメージを与えて鱗を吹き飛ばしていた。


「今だ! 聖剣の出番だ!)」


「お、おっさん♡」


ダメージが大きく、身動きできない竜に吸い込まれるようにして聖剣が竜の首に振り下ろされる。


1000年ぶりに人間界に姿を現した竜は怨嗟の断末魔とともに、息絶えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る