第14話おっさんはお嬢様と無関係な男にお前にアリスを嫁がせることはできんと言われる

その日のお嬢様の護衛の仕事を終えると、馬車で送ってもらって、いつもの常宿に帰る。


一日の労働時間は8時間だが、魔法学園のセキュリティーは万全で、学園内で警護をつけているのはお嬢様位だ。


俺はお仲間もおらず、結構暇だったりした。


「まあ、これで1日金貨3枚は美味すぎるな」


まあ、前の初級者パーティの時の報酬の30倍になる。


「今日はいつものよし○やの牛丼にするか」


俺はほくほくして宿の部屋の簡易キッチンでお湯を沸かし、牛丼を湯煎しようとする。


そんな俺のささやかな夕食時にお嬢様が訪ねて来た……知らないジジイを連れて。


「お嬢様、どうなさいました?」


「実はお父さ、じゃなくて無関係なジジイが話があるって言うの」


お父さん! 今、お父さんって言った!


「まあ、単刀直入に言おう。貴様に娘はやれん」


いや、無関係な男がそんなこと言う訳がないだろう?


て、いうか何の話?


「まあ、ワシはただの通りすがりの者、気遣いは無用じゃ」


ひえ! 貴族の当主になんの気遣いもなくという訳にはいかねえだろ?


「アリスお嬢様、俺は一体どうすればいいのですかい?」


俺が涙目でお嬢様に助けを求めるが、


「おっさん、お父さ……いえ、この人はただの行きずりのジジイだから、ほんとに気遣い無用よ」


「……そうでやすかい」


まあ、こっちも客人を迎える準備なんて全然してなくて助かるけど。


「まあ、自己紹介もまだじゃったな。ワシのことはただのアーサー2世とでも呼んでくれ」


は? アーサー2世? それって、この国の王さまの名前だぞ?


いくら平民の俺でも知ってるぜ。


「……ところで。それはなんなのじゃ?」


ジジイが目を向けたのは湯煎で簡単に出来上がる牛丼のことだ。


幸い十分ストックがある。


「牛丼ですが、お召し上がりになられますか?」


「わ、私にも頂けるかな?」


お嬢様も便乗して、牛丼を狙っている。


貴族の彼らには新鮮に映るのだろう。


「ちょうど夕食時だし、牛丼で宜しければ如何ですか?」


「「わぁーい」」


リアクション、軽ッ!


「美味い、なんて美味いんだ!」


「そうです、お父様、この極限まで薄く干からびた肉がほどほどに歯応えがなくて、それに安っぽい合成調味料のタレによく合います」


「うむ、これだけクズのような食材にこれだけの美味を与えるとは、庶民の料理とは言っても侮れん」


いや、お嬢様、行きずりのジジイという設定忘れてお父様って呼んでますぜ!


少しは隠してくだせぇ!


それで結局、おかわりまで要求されて、俺の冷凍庫のストックが空になった。


俺の分がないんだけど?


「美味しかったぞ」


「久しぶりにたらふく食った」


満足気に腹をさするお嬢様父に要件を伺う。


「ところ一体なんのご用なんですかい?」


「うむ、それなんだが」


俺に言われて、ようやく本題を思い出したか、こちらを改めて見ると。


「王として、王女をお前に嫁にはやれん」


何言ってんだ? このジジイ?


そんなの当たり前だろう?


ていうか、お嬢様が王女で、ジジイが知らない行きずりの人という設定を完全に忘れていることはもうどうでもいい。


「ワシの娘はこの国最強の騎士にも勝る強さと、この国一の美少女じゃ、どこの馬の骨ともわからん男に嫁にはやれん」


「ちょ、ちょっとお父様、なんてことを!」


「それはそうですぜ」


一体、このジジイ、いやアーサー王は何考えてるんだ?


「ではあるが、ワシとて鬼ではない。もし、ワシの願いを受け入れてくれたら、考えてやらんでもない」


「……へえ」


だから一体、何の話だ?


話が見えねえ。


「まあ、言うまでもなく、我が国と帝国は一速触発の状態が続く緊張状態にある」


「へい」


いや、知らねえよ。たかが底辺層の盗賊が、そんな国家機密知ってる訳ねえだろ?


ていうか、何を気軽に国家機密喋っちゃってんの?


そんなの庶民が知ったら、パニックになるぜ。


「それで、娘のアリスが魔の森に武力偵察に行くことになっての」


「はあ、それは心配でしょうねえ、魔の森の深部には魔王が住んでいるとかいないとか」


「魔王はただの都市伝説という意見が多いが実在しておる、やべ、これ最高機密じゃった」


このジジイ、口が軽すぎだろ?


「おっさん、実は同盟国から私に名指しで、私に魔の森へ偵察に行ってこいという決議が出てしまったのだぞ」


「そうじゃ、魔の森への武力偵察は毎年、各国の騎士団が行っておるから、我が国が偵察に出ることに異存はないのじゃが、娘を指名することが、不可解じゃ。おそらく陰謀じゃ」


いや、別に騎士団に守ってもらえばいいだけじゃねえ?


「すいやせん。それとアーサー様の願いとは何なんですかい? 話が見えねえのでやす」


お嬢様父とお嬢様は互いに見合わせると、お嬢様父は切り出した。


「魔の森へはアリス一人で偵察に行くことになってしまっての。怪しさ満点なんじゃ」


「それでね、おっさんにお願いだぞ」


「嫌でやす」


「ま、まだ、私、何も言ってないぞ!」


「聞かなくてもだいたい察しはつきやす」


俺は一瞬でお嬢様の命と自分の命を天秤にかけた。


秒で、俺の命の方に傾いた、だが。


「せっかく、1日金貨100枚の報酬を用意したのに……1日だけで良いのに」


「お嬢様のことは任せてくだせえ。恩義はお返ししない訳にはいきやせん」


「今、お金に釣られたぞ! 私と金貨を秒で天秤にかけたぞ!」


お嬢様は何を言って……だめなおっさんをみくびらないで欲しいものだぜ。

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