第38話 偽妹
「おう、遠藤君ではないか。ちょうど君の話をしていたところだ」
放課後、部室に行くと近藤さんとアリス部長がトークしていた。
「俺の話ですか?」
「そうだ。聞きたいかい?」
「ええ」
そりゃ、知りたいさ。俺のいないとこで俺の話なんだろ? すごい気になる。
「なら教えよう。萌々子君についてだ」
「萌々子がどうかしたのですか?」
「遠藤君、キミは我々に萌々子君は妹だと紹介していたようだが、それは真実じゃないな?」
鋭い眼光が俺を射貫く。
「えっと……どうしてそう思うんですか?」
「萌々子君のクラス、今日は体育があったみたいだな。女子更衣室の近くですれ違ったんだ。ゼッケンを見て驚いた。岡本って書いてあるじゃないか」
そういえば体操服ってゼッケンにクラスメイト名前が書いてあるんだったな。
「人違いかと思ったが、級友たちから萌々子と呼ばれていた。だから決して人間違いではない」
アリス部長が俺を指さし、こういった。
「遠藤君、キミの名字はなんだ?」
もう自分で答え言ってるじゃん。
「遠藤です」
「ご名答。決して岡本ではない。この方程式を解くと……どうなるかな、遠藤君?」
安楽椅子探偵風味でアリス部長が言った。方程式っていうほどの謎じゃないけど。
「他人ですね。幼馴染みではありますが」
「そう。遠藤君と萌々子君は他人だ。兄妹ではない」
俺は妹と紹介したつもりはない。萌々子が勝手に俺の妹を自称しているだけ。
「萌々子ちゃん、本当の妹じゃないんだ」
近藤さんが大きく目を見開いていった。そりゃびっくりもするだろう。萌々子は完全に俺の妹として自己主張していたからな。
「そうなんだよ近藤君。なんとあの女子は
ギモウト? 妙な造語つくらないでください、アリス部長。
「問題は、その萌々子君とかいう幼馴染みと遠藤君が同棲していることだ。こっちが萌々子君の住所。そっちが遠藤君の住所。見たまえ、住所が一緒だ。いやはや、驚いたよ。女性に対しては奥手だとばかり思っていたキミが、まさか幼馴染みと同棲していたとは。大人ってわけだ」
静かに目をつぶり感慨深げにアリス部長が言った。
どうやって俺と萌々子の住所を入手したかは聞くまい。本物セレブかつ学校で堂々と偽名で通すアリス部長なのだ。なんでもできるってことだろ。個人情報保護法なんて、この人の辞書にはないに違いない。
「ちょ、待ってください! 誤解です!」
「マメくん、同棲してるんだ」
いかん、このままで近藤さんから「幼馴染みを妹と偽って同棲しているエロ男子高校生」認定されてしまう。
「アリス部長、いい加減なこと言わないでください! 確かに俺と萌々子、同じ家に住んでいます。ですが、これは萌々子の家庭事情による非常時における緊急かつ得ない措置であり、事態が好転した暁には可及的速やかに同居は解消されるんです。同棲なんて関係ではありません!」
「はっはっは。まるで政治家のような答弁だな。政治家の答弁。それは不都合を持って回った言い回しでごまかすもの。今の遠藤君、まさに不都合な真実を隠してそうだぞ!」
「だから隠してません」
「お盛んな男子高校生が美人と同棲。ラブな行為が行われない方が不自然てもんだろ?」
「発想が不健全です、アリス部長!」
「あ、思い出しました」
近藤さんが話に割り込んできた。
「萌々子ちゃん、マメくんと一緒に寝てるよね?」
「ひゃい!?」
ちょっと待て。俺、そんな話してないぞ?
「誰がそんなこと言ってたんだよ、近藤さん!」
「萌々子ちゃん。マメくん帰ったあとね、少し萌々子ちゃんとお話ししたの。子犬のアリスも見せたよ。でね、そのとき私がアリスってお布団に入ってきちゃうんだって言ったら、萌々子ちゃん、自分もよくマメくんと一緒のお布団で寝てるって言ってた」
「それ、昔の話だって!」
「ううん。今もそうしてるって言ってた。そっか。マメくん、萌々子ちゃんとそういう関係なんだ。人は見かけによらないね」
終わった。俺の信用、地に落ちた。
今は何を言っても逆効果だろう。
とにかくこの話題に終わって欲しい。なにか別の話題はないのか?
「遠藤君の不純、いや、ピュアな異性交遊について話が盛り上がっているところ申し訳ないが、我々の直近かつ重要問題について議論してもいいかい?」
この話の言い出しっぺはアンタだろ、アリス部長!
……と言いたいところだが、話題が俺でなくなるのは大歓迎だ。
「我々が考えるべき喫緊の課題は新入生の確保。これ一点のみだ。このまま新入部員が来ないと、私の卒業と同時に演劇部は廃部だ。最低部員数の3人を切ってしまうからな。私の代で廃部となるとさすがに先輩方に申し訳ない」
アリス部長が俺を見た。
「そこでだ。遠藤君。キミにお願いがある」
「なんでしょう」
ぐっと顔を俺に寄せる。
「キミの幼馴染みJKの萌々子君。彼女を演劇部に誘ってくれないか?」
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