偽妹ちゃん
上城ダンケ
第1話 朝、起きたらベッドに妹が!?
新学期、4月、朝7時。
俺は俺のベッドで眠るひとりの少女に語りかけていた。
「おい、起きろ、
「すうすう。むにゃむにゃ。萌々子はお休み中です。まだおねむです」
「んなわけないだろ!」
ブランケットを引き剥がす。
「きゃ!」
少女は悲鳴を上げた。
「見ないで……」
パジャマがはだけた。勝手に持ちこんだ自分の枕をぎゅっと抱きしめ、怯えた目で俺を見る。恥ずかしそうに枕で胸を隠す。
「もちろん、見ない」
ブランケットを掛けてあげる。すると少女は身体をくねらせ、俺を見上げた。
「……やっぱり見て」
ちら。こっちを見つつ少女がブランケットをめくる。
「だから、見ないっていってるだろ!?」
再びブランケットをかぶせる。
「やだ、乱暴しないで……やさしくして、お兄様……」
ブランケットを握りしめ、潤んだ瞳で俺を見る。なんか勘違いしているよな、その目つき? ま、いいが。いつものことだ。
この少女の名は萌々子。俺のことをお兄様と呼んでいるが妹ではない。詳細は後回しだ。高校生の朝はエマージェンシー。分刻みで行動しないと遅刻すること必定だ。
「俺のベッドに潜り込むな。何度言ったらわかるんだ?」
「えーと……萌々子、わかんない」
上目遣いで萌々子が答えた。
「そうか。ならわかるまで言ってやる。俺のベッドに潜り込むな俺のベッドに潜り込むな俺のベッドに潜り込むな俺のベッドに潜り込むな俺のベッドに潜り込むな俺のベッドに潜り込むな俺のベッドに潜り込むな俺のベッドに……」
「お兄様の意地悪!」
萌々子が俺に枕を投げた。
ぽす。顔面にヒット。
「萌々子、お兄様と一緒におねむしたいだけなのに!」
「おねむしたいだけ?」
「そうです!」
「そうです、じゃない! 問題あるだろ、それ!」
「問題ないもん!」
だだをこねる萌々子。
はあ。俺、ため息。毎朝これなんだ。さすがに……疲れる。
「あのなあ、萌々子。お前、何歳だ?」
「ん? 萌々子、15歳ですよ?」
「そう15歳だ。そして俺は17歳。互いを異性として認め、尊重する必要がある年頃だ」
「そんちょー?」
「そう。尊重だ。だから、俺の布団に潜っては駄目だ」
俺は思う。
萌々子は美しい。そして可愛い。
つまり、萌々子は美少女だ。それもまれにみる美少女だ。長い睫毛と艶やかな唇、そしてすっと通った鼻筋からはすでに大人の色香を感じる。だが、一方で柔らかそうな頬にあどけなさの残滓がある。思わず指でふにふにしたくなるほどだ。
そんな美少女それも15歳。それが17歳健康男子のベッドに潜り込んでいるわけである。倫理的に許されないだろ?
「妹なのに?」
「いや、だからさ。萌々子、お前、俺の妹じゃないじゃん?」
「妹だもん!」
「違うだろ! 俺は遠藤一郎、お前は岡本萌々子! 名字違うだろ!」
俺は一人っ子だ。
そして目の前の美少女は妹ではない。
岡本萌々子、俺の幼馴染みだ。某企業の社宅で隣同士だった仲だ。共に職場結婚。すなわち俺の両親と萌々子の両親は知り合いなわけで、俺たちはまるで兄妹のように育てられたのだ。
つまりただの幼馴染みだ。わけあって、二人だけでひとつ屋根の下に住んでいる。
「え? お兄様にとって、萌々子は異性の範疇に入るんですか?」
おどけた調子で萌々子が言った。
「俺は男で萌々子は女。異性は異性だ」
「いつ確かめたんですか? どうやって、どこを確かめたんですか?」
萌々子がベッドの上で身体をくねらせる。きゅ。胸の谷間が強調された。両脇から押さえられた双丘の谷間と膨らみが俺の網膜を直撃した。
ああ、そうだ、萌々子。まさにそのへんの膨らみこそ、お前が異性である証だ。
……って、そうじゃない! 俺はあわてて目を逸らした。
「さ、いつまでもふざけていないで制服に着替えなさい。高校生になったんだぞ? 中学とは違って電車通学だ。乗り遅れたら遅刻なんだぜ? おまけに今日は始業式。初日から遅れるなんざ、あってはならないことだ」
「わかりました、お兄様」
「そっか。じゃ、着替えろ」
「お着替え? ここで? お兄様ったら、えっちね。いいよ、お兄様だったら」
ちょっとだけ顔を赤らめながらも、萌々子は服を脱ぎ始めた。
「ここじゃない! 自分の部屋! じ・ぶ・ん・の・へ・や!」
「はーい」
途中までボタンを外したまま、いそいそ自室へ帰っていった。
「ったく……」
俺は苦笑する。そして思う。
俺と萌々子、本当は婚約しているって事実を知ったら、あいつどうなるんだろう?
俺は萌々子に妹でいてほしい。俺にとって萌々子は本当に守りたい存在なのだ。
恋愛、結婚。そんなのではだめ。恋愛は別れがある。結婚だって離婚がある。
でも。兄妹は離れられない。もちろん俺と萌々子は本当の兄妹じゃない。
だからこそ、俺は、萌々子の兄でいたいんだ。
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