潔癖症の俺が、彼女と触れ合えるようになるまでの365日

四条 葵

第一部

プロローグ

 過ごし慣れた自分の部屋に、一人の女の子がいる。

 その女の子は、俺のベッドに腰掛けていて、少し上気した頬に恥じらいを見せながらも、横に座る俺を上目遣いで見ている。

 ふわっとした栗色の髪から、何かやたらといい匂いがするような気がする。

 どんなシャンプーを使ったらこんなにいい匂いになるんだろう?と今の状況には場違いな感想を抱きながらも、俺は彼女から目を離せないでいる。

「あの、」

 と綺麗に整った唇から言葉が漏れて、彼女は意を決したように口を開く。

「涼にだったら、その、いいよ…?」

「…え?」

 彼女はその華奢で綺麗な手で、自分のブラウスのボタンを上からゆっくりと外していく。真っ白なブラウスから、これまた真っ白な素肌が覗く。

 普段はカーディガンを羽織っているからか、目立っていなかった彼女の胸が少しずつ露わになる。着痩せ、と言っていいのか、彼女の胸は同い年の女子達に比べても割と大きい方なのではないかと思わせた。ふわふわでむちむちで、薄ピンク色のブラジャーから覗く胸は、俺の視線をさらに釘付けにした。

「私の身体、触らせてあげる…」

 そう照れながらも口にする姿は、とても愛らしく、可愛らしい。どんな男もいちころだろう。

 俺は自然とごくりと唾を飲み込んでいた。

 可愛くて巨乳でいい香りのする女の子が俺のベッドの上に座って、照れたように俺を見上げている。この状況で我慢できる男なんているのだろうか…。いかん下半身が熱くなってきたような気がする…。

 俺は目の前の彼女へと、恐る恐る手を伸ばす。

 そのふくらんだ胸はどんな触り心地なのだろうか。マシュマロのような感触だとか、二の腕に触り心地が似ているだとかはよく聞くが、実際のところはどうなのだろう?

 心臓は走った後のように高鳴り、自然と息が荒くなっていく。背中を謎の冷汗が伝う。

 あと数十センチ。あと数センチ……。

 彼女の胸に、俺の指先が触れそうになった、………その瞬間。

 俺は勢いよくその指を引っ込めていた。


「いや、無理!人に触るとかやっぱり無理だわ!!」

 その空しすぎる情けない言葉は、静寂の中に溶けて消えた。



 そう、俺は人に触れることができない。

 いや、触れたくないのだ。


 何故なら。


 そう何故なら俺は、


「潔癖症」だからである。



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