信号待ちにて訪問者

 慢性的な肩こりを解消するために、三週間に一度、自宅から車で四十分の距離のところまで整体に通っております。腕が良いと噂の先生の整体がそこだから、が理由です。効果はあるのか? と周りによく聞かれますが……うん、まぁ行かないよりマシ、と答えます。

 この近くに地元にないファミレスがあるので、予約時間の三時間前ぐらいから籠城して(入り浸ると言え)ヨム時間に当てています。ドリンクバーも付けて読みふけるには持ってこいの良い時間です。


 さて、今回の話はその整体から帰宅する途中の出来事。


 貴良、信号待ちをしておりました。いつもどおりボーッと、何ならかかってるBGMを口ずさむかノリノリで歌うかしていたと思います(車内は無償のカラオケだぜ)。


 すると突然、運転席の外側から窓を叩く音がしたのです。

 驚いて振り向くと見知らぬ男性が立っていました。三十~四十代くらいのガテン系お兄さんです。


 もう一度言いますが今、ただの信号待ちです。完全に道路の上、交差点の目の前です。一車線の静かな道ではありますが。


 ビビりますわね。巷で話題の〝あおり運転〟の類いの脅しかと思いますわね。もしくは新手のナンパか? 的な(新手すぎるやろ)。

 ここで窓を開ける勇気、なかなか沸きませんでした。どう考えたって怪しいですもの。しかしお兄さんはオラオラしている感じでもなく、何ならちょっとお困り気味のご様子。相手も恐らく声をかけるか否か迷っていたでしょう、当然今の私のように怪しまれるのが普通ですから。


 私、意を決して窓をオープンしました。

 するとお兄さん、申し訳なさそうにこう言いました。


「ガソリンの蓋、開いてるよ」


 …………。

 何だって……!?


「マジですか!」

「うん、開いてる。……怪しいモンじゃないよ」


 あぁ、やっぱりご自身も怪しまれると気にしていたようで。


 お相手はトラックだったので、後ろからパッカーン状態が見えたのでしょう。信号待ちで今だ! とばかりにご親切にお知らせに来てくださったのです。

 何てお優しいお兄さん……。幸い、停車位置の間左がコンビニだったので、すぐに車をそこへ入れて蓋を閉めました。そして再びコンビニを出る時、先ほどのトラックの後ろの車が道を譲ってくれたので、私はしばらくあのお兄さんのトラックの後ろを追跡する形になりまして。車内で何度も御礼を言いました。


 世の中、まだまだ捨てたものではありませんね。



 ちなみに。

 私、ガソリン入れたのこの日の前日です。ということは――


<前日>

 ガソリンスタンド→家

<当日>

 家→整体

 整体→信号待ちの交差点


 ――この距離を蓋全開で走っていたことになります。

 ……どっかで気づけやッ!!

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