第33話 救出
(仲原視点)
「よお姉ちゃん、俺らと一緒に遊びに行かね?」
「そうだぜ、俺たち、めっちゃ楽しい遊び知ってるんだよね」
「お金も楽に稼げるし、楽しいよ〜、姉ちゃん可愛いし」
私はヤンキーのような見た目な人に話しかけられていた。いや、間違いなくヤンキーだと思う。こんな話しかけ方、普通ならあり得ない。これは危ない仕事の勧誘の可能性が高い。
そういえば、この街は新しくできた街ということもあり、沖縄で最も技術的、経済的に発展している都市であるという事。そして、そこへ仕事を求めて、街の外から危ない仕事をしている人達が来ることがあるということ。まさか、自分がそういう人達と会うなんて思わなかった。
正直、とても怖い。辺りを見渡しても、誰もいない。人の気配もない。助けが呼べない状況だった。緊張と恐怖で私は持っていたスマホを握りしめていた。
…そうだ。スマホがあったんだ。今、スマホはまだ凛との通話中、この会話を聞かせれば、凛が警察に通報してくれるかもしれない。このままスマホを通話中の状態にして…
嫌…だめだ。もし、通話中の状態がバレたら通話画面から凛の名前も知られて、最悪、凛も狙われる事になる。そんな事できない。私はヤンキーの人達と目を合わせながら、電話を切った。
こうなったら、もう走って逃げるしか無い。走って逃げた先に人がいることを願って。そう思い、後ろを向いて走ろうとしたが…
「おっと〜、逃げちゃいかないだろ〜、俺達だってな〜、人を集めなきゃいけねえんだよ」
「っ…」
3人組の内、1人に周り込まれて逃げることができなかった。
「そんな、怯えた顔すんなよ〜、ちょっと相手するぐらいでいいからさー、素直に来た方がいいぜ」
完全に3人に囲まれた状態。万事休すか…
(榎本視点)
「ピロン」
「え…詩音、詩音!?」
急に詩音からの通話から途切れた。しかも、切られる直前に男の人達が、話しかけているような感じだった。しかも、複数人だった。私は最悪の場合を考え、すぐに警察に連絡した。しかし、居場所が分からないのでは見つけるのには時間がかかる。急いで見つけないと詩音の身の安全が…、何か手掛かりが欲しい。
「!」
私はここである人に電話をかけた。もしかしたら、まだ外に出てて、詩音を見たかもしれない。
「もしもし、悠馬」
「もしもし、どうしたんだ、凛」
そう、カラオケに行く時にランニングをしていた悠馬。彼なら何か知ってるかもしれない。
「同じクラスにいる詩音って子が危ない人に絡まれているかもしれない、何か知ってる?」
「いや、見なかったな。でも、ヤンキーのような見た目をした3人組が歩いてるのは見たな」
「もしかしたら詩音と一緒に居た人達も…」
「ああ、その人達かもな、よし、俺はまだその人達がいた場所からはそう遠くない。探しに行ってみる」
「了解。私も探してみる。その3人組を見かけたらすぐに警察に知らせよう」
「分かった。でも、凛はそのまま待機してくれ。もしかしたら仲原さんが来るかもしれないし」
「え…でも…」
「俺が見つけてすぐに情報共有するから、警察への通報は頼む。ピロン」
「あ、悠馬…、…無茶しないでね」
(遠野視点)
俺はさっき3人組がいた場所へ走り始めた。できるだけ早く見つけないと、連れ去られる可能性がある。急いで見つけないと…
その時、俺は街のゴミ捨て場にテニスラケットが捨てられているのを見つけた。
「まだ、使えるのに、もったいない…」
まだガットも貼られているし、ラケットのフレームもまだそこまで傷付いてはいなかった。このラケットを持ってた人はテニスを辞めたのだろうかと思い、少し悲しくなった。そして俺はある考えが浮かんだ。
(…もしかしたらこれ、使えるかもしれない)
俺はゴミ捨て場のラケットを持ち去って、再び走り出した。
人通りが少ない場所を重点的に探した。大人3人組で1人の女子高校生に話しかけるのは明らかに異質だ。そんな光景は目立つから、人目がつかない場所でしかできないだろう。俺は一つの小さなトンネルにたどり着いた。
「居た…」
そこには男3人組に連れ去られそうになっても、必死に抵抗している仲原の姿だった。このままではマズイと思った俺はスマホを起動させ、転がっていた石を拾ってテイクバックの姿勢に入った。
「仲原さん、伏せろ!」
俺は仲原さんにそう指示し、石2つを打った。打った石は3人組の中の2人に命中した。
「痛って〜、何なんだお前は!」
「はは笑、来いよ」
俺はわざと挑発するようにして3人から仲原さんへの気を逸らした。
「くそ、絶対殺る!」
3人一気に俺の所へ襲いかかってきた。完全に狙い通りだった。俺は3人が全速力で追いかけるのを確認してからトンネルを出て、全力で逃げた。
やっぱりあの3人組はガタイが良い。殴り合いでは勝てない。だったら、俺は走力で対抗する。ランニングは継続している分、体力はこっちの方が有利だと思ったからだ。3人との差を少しずつ離していく。こんな所で日々のトレーニングが役に立つとは思わなかった。それにこのまま逃げ回っていれば…
「そこまでだ!」
「嘘だろ…、警察…」
走った先には警察の人が複数人立っていた。すぐにあの3人組は取り押さえられた。作戦成功だった。
その後、俺と凛と仲原さんは警察で事情聴取をする為に、警察署に集まっていた。
「え…あの時、スマホで録音してたの?」
「うん。後で警察に証拠品として提出する為にね。後、写真も撮った」
「凄いね、そこまで考えてたんだ…、じゃあ、警察の人が居たのも…」
「凛が呼んでくれたんだ」
「そうなの、凛?」
「うん。悠馬がスピーカーで電話かけて、居たって声がしてすぐに位置情報を送ってくれたから、警察の人にも場所を知らせられたんだよ」
「そうなんだ。ぐすん…ありがとう2人とも、2人がいなかったら、私、危なかった」
「作戦が上手く行って良かったよ」
「というか、テニスラケット使うなんてどんだけテニス馬鹿なのよ」
「し、仕方ないだろ。ちょうどテニスラケット捨てられてあったんだし、これしかないって思ったんだよ」
「ふふ笑、2人とも仲良しなんだね」
「へ」
「ちょ、ちょっと、詩音!」
「どういうこと?」
「聞かなくていい」
「何でだよ」
俺達が話をしている間に仲原さんの両親もやってきた。仲原さんの両親からすぐに謝罪とお礼の言葉を貰った。人から本気で感謝されるのは久しぶりだったので、照れ臭い感じがした。そして、俺達は事情聴取を終え、帰宅することになった。仲原さんはもう少し事情聴取が行われるらしい。俺と凛は警察署の建物から出て、家に帰ることにした。
(榎本視点)
「今日はありがとね」
「ううん、こちらこそありがとう。凛の協力が無かったら、仲原さんを助けられたか分からなかったよ、じゃあ、明日の練習試合で」
「うん。バイバイ」
悠馬は引っ越し前とは雰囲気が変わった感じがするけど、優しい所は何一つ変わってない。今日のお婆さんを助けたこと、詩音を助けたこと。人の為に、困っている人を助けられる人なのは変わっていないと、今日知ることができた。多分、私はそんなあなただからこそ…
今は大事な県大会が迫ってるから言えないけど、いつか自分の思いを伝えられたらいいなと思った。
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