第31話 どっちの感情
(榎本視点)
私、榎本凛は1年A組に所属している。クラスは39名、男子19名、女子20名のクラスになっている。私達のクラスにはテニス部の人も何名かいて、悠馬に、喜納、山田、私でテニス部の人も4人いる。このクラスは、4分の3が部活動に所属していて、サッカー部、バスケ部のような運動部の他に、吹奏楽部や美術部のような文化系の部活動に所属している人もいる。
クラスというコミニュティはある程度、時間が経つと、必ずグループが出てくる。今はまだ皆んな探り合いの時期だ。悠馬も、同じテニス部の喜納、山田とよく一緒にいる。テニス部のグループだ。こういった3人組、4人組のグループがあちらこちらと出てきている。このクラスは運の良いことに、あまり派閥的なものはない。
確かに明るい人、おとなしい人というのはいると思うが、今のところはお互いを尊重して貶し合いのような雰囲気にはなっていない。皆んな優しくて良いクラスだと思う。
「凛〜、昨日の音楽番組見た?」
「見たよ。良かったよね、最初の人達の新曲」
「だよねー、私なんかあれ、最後まで見ちゃって、めっちゃ寝不足」
私に話しかけた女の子は、仲原詩音(なかはらしおん)。今は、部活動には入っていないけど、中学校はバスケ部に入っていたそうだ。
「でも、分かるかも、好きなアーティストばっかりだったもんね、昨日の番組は」
詩音の次に来た女の子は白石美桜(しらいしみお)。陸上部に所属していて、祖父がアメリカの人らしく、クォーターの人で、凄く整った顔をしていて、最初に話をした時は緊張するほどだった。
「昨日の番組って深夜までやってたよね。面白かったけど、あんまり夜遅くまで起きちゃダメだよ。学校に響いちゃう」
「そうは言っても、面白かったんだもーん」
「こら、詩音。抱きつかない」
最後に来たのは知念由乃(ちねんよしの)。陸上部に所属していて、身長もあって性格もしっかりしているから、皆んなのお母さんって感じになっている。
私は1年A組ではこの4人で一緒にいる事が多かった。この4人は運良くグループ活動で一緒になった4人で話していく内に、気が合って、こうして休み時間も一緒に話す仲になった。
しばらくして世界史の先生がやってきて授業が始まった。
「えー、今日はグループ活動を行います。今日は男子4名、女子4名でグループを組んでください。あ、ここは39名クラスだから一つは7名グループになってください」
「凛〜、一緒にグループ組もう」
「うん。組もう」
詩音から4人グループへ誘われた。こうやって誘ってくれる人がいるのはとても嬉しい。それから、美桜と由乃も来てくれて、すぐに女子4人組が作れたが、問題はこれからだ。
「女子のグループは作れたけど…」
「そうよね…男子で誰を誘うか…」
美桜と由乃が悩んでいる。クラスが出来てまだ1ヶ月も経っていないのもあり、まだ男女で関わるという機会が少ない。まだ話していない人も大勢いるので話しかけるのが気まずいという空気になっていた。それは他のグループもそうだった。他のグループも同性同士のグループは出来ている所がほとんどだが、異性同士ではまだ組まれていなかった。
こういう雰囲気を脱するには誰か1人が異性の人を誘う以外ない。そうすれば皆んなが誘いやすい雰囲気も作れる。そう思い、私はある人を誘おうとした。その時…
「一緒に組みませんか!」
「えっと…私達で良かったら是非」
「ありがとう!」
ここである男子が女子を誘った。教室に漂っていた気まずい雰囲気がその男子の一声で吹き飛ばされた感じだった。
その男子の名前は近藤守悟(こんどうしゅうご)。確かサッカー部でゴールキーパーの人だったはずだ。サッカーの事をよく話している人で本当にサッカーが好きな人という印象があった。この近藤さんもこの雰囲気を脱しようとしたのだろう。
この近藤さんのファインプレーでクラス全体に誘いやすい雰囲気ができた。私もこれで誘いやすくなったので、近藤さんには感謝しかなかった。
「悠馬達、一緒に組まない?」
「良いよ、組もう」
「ありがとう」
こうして悠馬達、テニス部のメンバーと一緒にグループを組む事ができた。
「はは笑、それでさ〜」
「え〜そうなんですか笑」
山田と喜納は喋り上手だったようで、すぐに詩音達と打ち解けている様子だった。こんなに早く仲良くなるもんだから、正直、びっくりだった。
「そういえば、皆んなテニス部だったんだよね?」
ここで詩音が質問をして山田が答えた。
「そうだね。皆んなテニス部だ」
「テニス部って新しく作られたって聞いたけど?」
今度は由乃が質問をして喜納が答えた。
「そうそう。俺ら反逆児だから、なあ、遠野?」
「反逆児って何だよ笑」
「でも確かにな。廃部寸前のテニス部をまた作り直してインターハイを目指すってかなり異端だもん」
「凄い…インターハイ目指してるんだ…」
「うん。それに向けて今、たくさん練習してるんだ」
「応援してる。インターハイ出たら、取材とかでいっぱいかもね」
「はは笑、確かに。じゃあ、グループワークの課題始めようか」
山田と詩音の話をしている時、悠馬が取材という単語を聞いて一瞬顔が曇ったように見えたが気のせいだろうか?
グループワークはお互い話をしたり、作業したりしてお互いに親睦を深められた。グループワークは成功という形で終わらせられたと思う。
社会の後の授業も終えて、下校の時間になった。
「凛〜帰ろ〜」
美桜が帰ろうと誘ってきた。隣には由乃と詩音もいる。
「え、美桜、今日部活は?」
「今日は陸上部休みなんだ。普段は火曜日休みなんだけどね」
「そうなんだ。私も水曜日休みなんだけど、今週は金曜日休みなんだよね」
「そっか。だからさ、今日、由乃と詩音と一緒にどっか行かないかと思ってさ」
「良いね、それ。賛成」
「よし、決まりだね」
「詩音も予定、大丈夫そう?」
「全然大丈夫だよ、私、部活入ってないし、常時フリーって感じ」
「ふふ笑、それじゃ、行こう」
「うん」
こうして私達は校外へ出かけることになった。
「そういえば、凛って遠野君と幼馴染なんだっけ?」
美桜が尋ねてきた。
「そうだけど、何で?」
「今日の社会のグループ活動、2人仲良さそうに課題やってた時あったから、もしかしてと思って…」
「い、いや、今のところ幼馴染だし」
「今のところ?」
由乃がニヤッとしながら私の発言を追及してきた。
「凛、やっぱり遠野君のこと笑」
「ち、違うってば!」
詩音も乗っかって、捲し立ててくる。
「ただ、好きかどうか分からないっていうか…小さい時によく遊んでて、なんていうか、友達としてずっと見てたから…。同じテニス部のマネージャーの子に悠馬を見つめている回数が多いって言われて、それで自分の気持ちがなんなのか分からなくなってるんだ」
「なるほどね。友達として好きなのか、異性として好きかってことね」
「何か良いね、凛のこういう話笑」
「美桜、それはどういうこと笑?」
「だって、今まで異性と付き合ってないって聞いてるし、凛ってあんまりそういう噂ないからね。何か新鮮で良かった」
「その感情が恋愛だったら応援するよ、凛」
「もう、詩音まで…」
この話をしながら道を歩いていると、バス停の前に私達の話の中心人物であろう人がいるという驚きの展開だった。
そう、バス停の前には悠馬が立っていた。服装を見るに、ランニングをしているようだった。しかし、お婆さんと一緒に何かを話しているようだった。お婆さんは大きな荷物をバス停のベンチに置いているようだった。ということは…
悠馬はお婆さんと話し終え、お婆さんはバスに乗って去っていた。そして、悠馬と私達の目があった。
「ドクン」
これは…、どんどん心臓がドキドキしているのが分かった。しかもどんどん強くなっているような感じがする。何で…?
「あ…どうも」
「遠野君、ランニング中?」
詩音が質問した。
「うん。ちょっと走っておこうかなと思って」
「偉い。それでさっきお婆さんと話してたみたいだけど、知り合い?」
「ううん、知らない人。荷物が凄く重そうだったから、持つのを手伝ったんだ」
「へ〜優しいんだね」
詩音はへ〜って言いながら横目で私の方を見てきた。何なんだその目線はと言いたくなった。
「え、いや、そんなことはない…、…ちょっとごめん、走り再開するわ、皆んなバイバイ」
「バイバイ〜、気をつけて〜」
悠馬は詩音に褒められて、少し恥ずかしくなったのかすぐに走り去っていた。
「あら、良い男じゃない」
由乃が肘でチョンチョンと私の背中を押しながら言った。
「そうだね、凛、あの人はこれからモテるかもしれないから、ゆっくりしちゃうと、危ないかもよ〜」
「…そうかもね」
あの心臓のドキドキの感覚は未だ治っていない。もしかしたら、これは…って思いながら、私は自分の感情の答えが見つかりつつあった。
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