ブレイブショット〜起死回生の一打を放て〜

なかみち

序章

第1話 過去①

(遠野視点)


「おはよう。遠野」


「おはよう、田邊。調子はどう?」


「絶好調!」


「おっしゃ。さあ、早くサッカーしようぜ。行こう!」


 俺、遠野悠馬は小学校の頃は活発な性格だったと思う。毎日のように放課後は、クラスメイトと共に遊んでいた。勉強にも熱心に取り組んでいた。勉強に必死に取り組んでいたのは、良い大学に入りたかったからで、その為には小学校から頑張らないとと考えたからだ。その甲斐もあって、俺は6年間良い成績を取ることができた。運動神経も良い方だったと思う。こうした背景からか、俺はクラス、学年中から注目されるようになっていった。優等生としてのイメージが俺に定着していった。小3から入り始めたテニススクールでも、日を追うごとに、テニスの実力は上がっていき、コーチからも認められる存在になった。俺は小6のあの時までは凄く充実した時期を過ごしていたと思う。


 小6の2月、俺は帰宅する途中、あるクラスメイトと階段付近で出会った。名前は金間卓(かねまたく)。彼とはクラスメイトであるだけでなく、テニススクールでも一緒だった人である。それにもかかわらず、俺達はあまり喋った事がなかった。彼と話したりするのは、いわゆる業務連絡のような、情報交換する時だけであった。あちらから話しかけたことはほぼ無くて、こちらから話しかけてた時には


「いや、ちょっと…」


 というような返事をされてしまう事が多く、俺は彼と話をする機会を失い、いつしかお互い全く会話もしない、関わり合いもない関係になっていった。しかし、驚くべき事に、その日に限っては、金間の方から話しかけてきたのだ。多くの荷物を両腕に抱えるように。


「やあ、遠野。今から帰りかい?」


「うん。そうだよ。荷物重そうだね。持とうか?」


「ああ、それなら大丈夫だよ。おっと…」


 金間の両腕に抱えていた荷物から一枚のメモ用紙がこぼれ落ちた。


「やっぱり、荷物重そうだし、持つよ」


「いやいや、大丈夫だよ。…じゃあ、落ちたメモ用紙を取ってくれないかな?」


「うん。分かった」


「よし、それじゃ、俺の胸ポケットに入れてくれないか?それだけで大丈夫だから」


「分かった」


 そうして、俺は彼の胸ポケットにメモ用紙を入れて、手を胸ポケットから離そうとしたその瞬間だった。


「うわー!」


 なんと金間は階段から落下した。俺には何がなんだか分からなかった。胸ポケットに手を入れたが、それでバランスを崩して、落下するのだろうか。もしくは、俺の力が強すぎたのか。なぜこうなったのかは分からなかった。そんな状態の中、俺はすぐに階段から落ちた金間の元へ向かった。


「金間、大丈夫か!?」


 金間はかすり傷程度の傷はあったものの、出血などはなく、大きな怪我はしていないように見えた。なぜそうなったかというと、彼は落下する時に咄嗟に回転させて、落下しながら受け身の体勢を取っていたからだった。


「大丈夫か!?ごめんな。俺の不注意で…」


 俺が腕の傷の具合を見るために金間の腕に手を差し伸べたその時。


「パシン!」


 金間は、俺の手を近づかせまいと、俺の手を横に引っ叩いた。


「え…」


「遠野、酷いぞ。いくらなんでも階段から突き落とすなんて」


「え…そんなつもりは…」


「おい!何してるんだ遠野悠馬!」


そう言ったのは同じクラスメイトの人だった。


「見てたぞ、今の。お前、最低だな」


「え…俺は突き落とした訳では…」


「言い訳したって無駄だぜ。俺はこの目でちゃんと見たんだからな。優等生なんて言われてるお前がまさかこんなことするなんてな」


「いや、だから、違うんだって」


「もういい。金間、こいつのことなんか放っておいて、行こうぜ」


「ああ」


 そうして、2人は帰っていった。俺は呆然として立ち上がることができなかった。この時、俺は本当に自分が突き落としたのかともう一度考えてみた。確かに胸ポケットには手を入れたが、彼の体には触れていない。後ろに押し倒される程の力も加えていない。だから、自分は突き落としていない。そう結論づけた。明日、学校に行って、もう一度説明しよう。そうすれば、誤解が解けて、彼らとも仲直りできる。そう思っていた。







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