第4話 ニュータウン
(遠野視点)
テニスは大好きだ、というか、スポーツをすること、見ること自体好きだ。その時だけは辛いこと、苦しいこと、嫌なこと、そういったことを全部忘れられるから。ただ目の前の事に集中し、熱狂するあの瞬間よりも幸せなことはないだろうと思うほどだ。
これはそんな俺、遠野悠馬の高校生活を描いた物語である。
20XX年4月、春風に吹かれ、桜の花びらが舞う季節である。と思いきや、桜は全く咲いていない。それどころか、道のどこにも桜の花びらは落ちていない。
そう、俺、遠野悠馬とその家族は今、沖縄にいるのだ。俺たち家族は訳あって本州から離れたここ沖縄に引っ越すことになったのだ。そして、今は空港を出て新しい家に引っ越す準備をするのである。
「沖縄はやっぱり暖かいな」
「そうね。半袖でも良いくらいの暑さだわ。ともかく引っ越す準備したら皆んなで沖縄料理食べに行きましょう!ゴーヤチャンプルー早く食べたくて仕方ないわ!」
「ゴーヤは勘弁してくれ」
父さんと母さんが空港でそういった話をしているのが聞こえた。父さん、遠野哲也は基本無口で真面目な人、母さん、遠野明日香は先程の会話を見ても分かるように活発でいつもポジティブだ。正直、正反対のタイプの2人がどうやって知り合い、結婚に至ったのか知りたいくらいだ。近いうちに聞いてみよう。
「家はどこにあるの?」
「車から30分ほどの場所にあったはずだ」
俺はふと引っ越し先の家の事が気になり父さんに聞いてみた。俺たち家族がこれから住む場所は、最近ニュータウンとして開発された所にあるらしい。近くには学校、ショッピングモール、競技場、水族館、あらゆる施設がずらりと揃った県内最大規模のニュータウンであることを知った。
「ねえねえ、早く移動しましょ」
「よし、行こうか」
父さんがそう言って、俺たちは新しい家へと向かった。空港から移動してニュータウンに差し掛かっていくと、大きなゲートがあった。そこを通過すると新設してから間もないような建物が多くあった。空港から移動するまでの間、どちらかというと、自然がいっぱいののどかな風景を見ることが多くあるように感じたが、ここはまるで近代都市を見てるような感覚で、さっきまでいたところとはまるで別世界のように感じた。
「これはすごい…」
「本当に近未来って感じだわ。悠馬、しっかり見ておいてね。ここが私達の住む新しい街よ」
「うん…」
俺はこの街に魅了され、しばらくその景色を眺めていた。
そして引っ越し先の場所に到着し、すぐに引っ越し作業が先に来ていた引っ越し業者と一緒に始まった。作業は順調に進み、予想よりも早くほとんどの作業が終わっていた。
「父さん、少し新しい街を探検しても良い?」
「いいぞ。夕方までには戻ってくるんだぞ。後、事故には気をつけて行くんだぞ」
「分かった」
「気をつけるのよ〜」
俺はこのニュータウンを見てみたい衝動に駆られ、ランニングをしながら街を探検することにして、家を出た。
街には、ニュータウン内外を移動できるバス、モノレール、タクシーに広い道路、公共交通機関が凄く充実していて商業施設、娯楽施設といった観光面も充実している。見れば見るほど良い街であるのが伝わってくる。
そして暫く走って行くと、俺がこの春に入学する学校の校門にたどり着いた。名前は「蒼京学園」、私立高校だ。やはりこの学校も新設のようで綺麗だった。テニスコートも4面あって、テニスをするのであれば凄く良い環境であった。
在校生もこの4月に旧校舎から新校舎へと移るようだ。
新しい学校を眺めていると、同じくランニングをしている人が見えた。俺と同じ中学生だろうか、端正な顔立ちをしていて、文武両道の優等生といった印象を受けた。その人はあっという間に俺を通り過ぎて、視界から消えていった。
「なんだろう。どこかで見たことある気がする」
こうして俺の"再スタート"を懸けた新しい生活が始まった。
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