第14話 精神操作魔法?

 キスの仕方を教えてほしい、なんて皇女様が言うので、俺は慌てふためく。

 ちょっと脅かせば部屋から逃げてしまうと思ったのに、受け入れてしまうとは予想外だ。


 ベッドの上に組み敷いた赤髪の美少女を、どうすれば良いか戸惑う。スカートがめくれそうになっていて、白い太ももが目にまぶしい。


 もちろん、このままなにかするなんてできるわけもないし。一応、俺は教師なのだ。

 

 そもそも、ルーシィの態度がいつもと違う。

 こんなにクラウスにデレデレなわけがない。一緒の部屋で寝起きしたいとか、キスを教えてほしいとか、ルーシィが本心でそう思っていたとしても、あのツンデレ皇女様が素直に言うとは思えない。


 ルーシィのほんのり赤い頬を見て、何かがおかしいと感じた。


「くらうすせんせい……」


 ルーシィが甘い声で俺の名を呼ぶ。

 そして――。


「ね、寝ている……!?」


 ルーシィはいつのまにか眠ってしまっていた。すやすやと寝息を立てている。

 どういうことだろう……?


 それに、部屋の外に人の気配がある。

 俺が気づいたのと同時に、部屋の扉が開く。


 振り返ると、そこにはメイド服姿の小柄な少女がいた。

 どこかで見たことがあると思ったら、エディトだ。決闘に立ち会った、ルーシィの友人。


 彼女は顔を赤らめて、大げさに口に手を当てる。


「く、クラウス先生がルーシィを襲っている!?」


「襲っていない! こ、これは誤解だ……!」


「ベッドの上に女の子を組み敷いていたら説得力ないですよ~」


 た、たしかに……! いくら権勢を誇るクラウスでも、帝姫殿下に手を出したとなれば問題になりかねない。


 俺は慌てて立ち上がり、服を整える。

 するとエディトが俺に一歩近づき、後ろ手を組む。

 そして、くすくすっと笑い、あざとく俺を上目遣いに見た。


「口封じのためにあたしも襲っちゃいます?」


「……大人をからかわないでくれ。すると言ったらどうする?」


「それは困っちゃいますね。ルーシィも怒っちゃいますし」


 しれっとエディトは言う。

 何もされないと理解しているのだろう。


 というか、この少女、ルーシィの友人だと思っていたのだが、侍女なのか。そういえばルーシィに呼び出されたときにも、侍女として見かけたことがある気がする。


「ルーシィ殿下の様子がいつもと違ったけど、君はなにか知っている?」


「はい。あたしが原因ですから。ちょっとした魔法を使って、ルーシィ殿下には素直になってもらいました。可愛かったでしょう? 副作用で眠ってしまったみたいですけど……」


「まさか精神操作系の魔法が使えるのか……!?」


 無属性魔法に分類される精神操作系統の魔法は強力であり、かつて禁忌とされた魔術だ。

 拷問や犯罪に利用できるものでもある。


 それほど習得が容易なものではない。ゲームでも精神操作を使える登場人物はヒロインの一人だけだった。

 俺はこのエディトという少女……たぶんモブキャラがそんな高度な魔法を使えるのかと戦慄し――。


 真相に気づいた。

 俺は肩をすくめる。


「魔法ね。たしかに世界最古の魔法かもね」


「そのとおりです。人類の歴史とともにあった魔法で、夢見るような心地になれるものですから」


「つまり――単にルーシィ殿下に君はお酒を飲ませたね」


「よくおわかりで」


 エディトはいたずらっ子のように片目をつぶる。


 ルーシィの頬が赤いのも、眠ってしまったのもアルコールのせいだ。

 俺はエディトを睨む。


「飲ませすぎて何かあったらどうするつもりだったんだ? だいたい、子どもが酒を飲むものじゃない」


「あら、ルーシィのことを心配しているんですね。やっぱり先生もルーシィのことが大事なんだ?」


「俺が仕える帝国の帝姫殿下だから」


「ふうん。それだけだとは思いませんが、まあ、そういうことにしておきます。でも、この国では16歳から飲酒が可能ですよ、先生。それに、お酒を勧めたのはあたしですが、飲んだのはルーシィの意思です」


「ルーシィが昼間から酒を飲むタイプだとは思えないが」


「必要があれば飲みますよ。たとえば大好きな先生に、一緒の部屋に住んでほしいって言いたいときとかね。お酒を飲めば勇気が出せると勧めたんです」


「そんなことしなくても、普通にシラフで言ってくれればいいのに」


「ルーシィの性格的にそれはできないでしょう? あたしは子どもの頃から一緒だから、知っています」


 まあ、たしかにもしシラフだったら、ルーシィがあんなことを言うはずもない。「どうして私があなたなんかと同居しないといけないわけ!?」と言い、押し倒されたときには「不潔! ハレンチ!」と言っただろう。


 俺がそう言うと、エディトはくすくす笑う。


「そうかもしれませんね。でも、ルーシィはクラウス先生のことが大好きですから、シラフでも案外変わらないかもしれませんよ?」


「それは疑わしいけどね……」


 俺は魔導銃を取り出すと、ローブのポケットから光石を取り出し、装備を変える。そして、軽く引き金を引いた。

 簡単な光属性の治癒魔法も俺は使える。


 つまり、ルーシィの酔いを覚ます魔法だ。このままベッドで寝てもらうわけにもいかないからだ。


「ううん……」


 ルーシィが可愛い声を上げ、そして、寝ぼけ眼をこすりながら起き上がる。

 そして、俺の顔を見て、きょとんとした表情を浮かべる。


「クラウス……?」


 それから、みるみる顔を真っ赤にした。


「ええと、さっきのこと覚えていますか?」


「お、覚えていないわ。でも、クラウス先生も忘れてよね?」


 ルーシィは恥ずかしそうに小声で言う。覚えているんだな、と俺は思った。


「忘れますから、まあ、この部屋に住むという話はなかった方向で……」


 ところが、ルーシィは首を横に振る。


「だ、ダメ!」


「へ?」


「べ、べつにあなたと一緒に住みたいわけじゃないけど……でも……やっぱり、私はあなたの弟子だから」





<あとがき>

今回は未遂でしたけど、今後はルーシィ殿下ももっと素直(意味深)になってイチャイチャする予定です! もちろん最強にもなります。


面白い、ルーシィが可愛い、ルーシィが(お酒なしで)デレデレになるところを見たい!と思った方は


最新話↓にある青い星での応援、お待ちしています……!



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