古城にて(上)
日光が心地良く感じる夏が、あっという間に過ぎていった。
公国は九月になると、一気に空気が冷たくなって肌寒くなる。再びコートが手放せなくなる季節がやってきたのだ。
冬にぐんと近づいてきた気温ではあるが、植物の赤やオレンジや黄色に染まった葉々は、非常に美しい。大河の
また、リンゴがたわわに実る季節であり、リンゴ農園では何種類もの果実が大量に収穫される。
ドロシーとルルがマンナカ城へ行く日、彼女たちは早起きしたようだ。
日が昇り始めて間もない頃に、ドロシーとルルはいつもより多めに朝食を食べたようだ。ジョセフから彼女に送られた書類を通して、もしかしたら昼過ぎまで業務が続くかもしれない、と伝わっていたからだ。
ドロシーは朝食を済ませて、素早く仕事着に着替えると、ルルと一緒に出発した。
その日は秋晴れであったが、たまに冷たい風が吹いていた。ドロシーはコートを
「う〜、肉球が冷たいな。早くお城に着きたいかも」
「そうだね。できるだけ早歩きしようかな」
秋風だけでなく、冷えた
ドロシーとルルは、できる限り日なたの場所を歩いて、マンナカ城に向かった。
〈修復屋〉からマンナカ城までは近くは無いが、十分に徒歩で行くことのできる距離だ。
〈ヒダマリ大聖堂〉の前にある広場に着くと、ドロシーとルルはひと休憩をした。ドロシーはベンチに座ると、
呼吸が落ち着いてきて、動かしていた足の疲れが少し
商店街を抜けて、林の多い大通りを歩いていると、ドロシーとルルは商店街の方へ足早に向かう人々を数人見かけたようだ。
ドロシーたちは堀沿いの道をひたすら歩いていくと、徐々にマンナカ城に近づいていった。マンナカ城の正門を目指して、彼女たちは休まずに前へ進んでいく。
マンナカ城の巨大な正門のすぐ
正門の前には、城の警備のために二人の近衛兵が居るようだ。
「う〜……、ものすっごく緊張する」
「平常心、平常心。あと、深呼吸〜」
緊張した時は平常心と深呼吸が大切だと、ルルから励ましの声をかけられると、ドロシーはカバンに付けていた懐中時計を見て、時間を確認したようだ。
「うわっ!! 約束の時間より三十分も前に着いちゃったな……。でも、ここまで来ベンチとか休めるとこ無さそうだから、ひとまずお城に入らせてもらうしかないよねっ」
「だね!」
少しでも落ち着いた気持ちになれるよう、ドロシーは数回深呼吸した後、硬くなっていた体を何とか動かしたようだ。
「おはようございます。業務の依頼を受けたドロシー・エヴァンズと申します」
ドロシーとルルが城の正門に到着すると、ドロシーは近衛兵たちに
二人の近衛兵がドロシーに挨拶を返すと、片方の老練者らしき白髪の男性が、穏やかな口調で彼女に話しかけたようだ。
「ドロシー・ウォード様と、使い魔であるサビ猫のルル様ですね。
「分かりました。ありがとうございます」
正門をくぐった後も、城の
最近にドロシーは
豪華で重厚な彫刻がされた石造りの大噴水の横を通過すると、ドロシーとルルは城の外壁に沿って進んだ。
懸命に見上げても、建物の先端が分からない程、マンナカ城は非常に高いようだ。
……と、ドロシーたちが外壁の端の方まで行くと、大きな木製の
ドロシーとルルがようやくマンナカ城の入り口に
ドロシーが自分とルルの名前を伝えると、副メイド長は優しく微笑みながら、ドロシーたちを見つめたようだ。
「ようこそ、マンナカ城にいらっしゃいました。では……、早速、城内にご案内しますね」
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