夏至祭の帰りに
ニシノハテ公国の一大行事、夏至祭が始まった。
夏至祭とは農作物の収穫を祝い、子孫の
そして、セイナン町の大広場で祭りが盛大に行われる。森の横にある芝生が敷かれた場所に、非常に多くの人々が集まっているようだ。
祭りの会場には、工芸品やパン等を売る多くの露店でいっぱいだ。
大広場の中央には、色とりどりの草花で飾られた
アコーディオンや弦楽器の奏者たちが演奏し、民族衣装を着た人々が音楽に合わせて、ポールの周りでダンスをしているようだ。左右の人と手を
祭りの後半になると、露店と露店の間、それから白樺のポールの周辺には人がごった返し、通路はとんでもなく通行しにくいらしい。ゆっくりと自分のペースで、祭りを楽しむことは難しいだろう。
一方で、祭りの前半は露店の数が少ないからか、祭りを観に来ていたりダンスに参加していたりする人は多くは無いようだ。
露店をじっくり見て回るには物足りないかもしれないし、知り合いに出会う確率も低いだろう。
夏至祭の三日目、ドロシーとルルは昼前に会場の大広場を訪れた。太陽が南中する前に、彼女たちは家に戻る予定らしい。
その日はウキウキとした気持ちになる程、雲一つ無い満天の青空だった。
ドロシーたちは芝生の上を歩きながら、並んでいる露店の方に向かったようだ。露店を見ている人はまばら、誰かとすれ違うこともほぼ無いので、ドロシーもルルも足取り軽く歩いていく。
すると、ドロシーとルルは数人の行列ができている露店に近づいていった。
ドロシーたちは列に並び、しばらく経つと、置かれている商品の前まで行くことができたらしい。
トレーの上に置かれていたのは、数種類のスコーンだ。ハーブや雑穀を練り込んだ主食用から季節のフルーツやチョコチップが入っているおやつ用まで、様々なスコーンが売られている。
スコーンを売っているのは、少し腰の曲がった年配の女性のようだ。
「おはよう、ドロシー。毎年、私が作ったスコーンを買ってくれて、本当にありがとう。ルルもよく来てくれたね〜」
ルルは下からモニカの顔を見つめて、「ニャー、ニャニャ!」と鳴いたようだ。
『おはよう、朝からお疲れ様!』
「いえいえ。モニカさん手作りのスコーン、とても
モニカと呼ばれる老婦人はスコーン作りが趣味で、毎年こうして露店を出しているらしい。人気の露店が故に、祭りの初日からスコーンを売っているそうだ。
ちなみに、彼女は〈修復屋〉の近所に住んでいるという。マフィン作りも得意で、近所の人たちに時々配っているという。
モニカ特製のスコーンを十個以上も買ったドロシーは、大きな紙袋を手で持ちながら、真っ直ぐに大広場の出入り口に向かった。
太陽が高くまで昇った時には、夏至祭の会場に来ている人が増えて来ているようだった。
「ドロシーさんとルルさん。おはようございます」
と、大広場の出入り口の
「さあぁ……、
片腕にライサスを乗せていたのは、なんとフェリクス大公に仕えている、宰相のジョセフ・ウォードであった。
予想外に出会った国を支えている要人を間近で見て、思わず
「おはよう。ドロシー・エヴァンズ殿だったかな?」
「はい、そうですっ。おはようございます!」
ドロシーがジョセフ氏に会ったのは〈修復屋〉の近所で数回、ホッポウ学院に通っていた頃だけであった。
彼は品のある
それから、サイモンとクララと同じ紫色で波状の短い癖毛に、宝石のトパーズのような澄んだ茶色の
「はじめまして、宰相様! わたしはルルと申しますっ」
ジョセフと初めて会ったルルは、少し緊張しているようだった。
「ドロシー殿……、とルル殿。サイモンが大変世話になっている、と娘から聞いているよ。この前は、クララの多くの服を直してくれたそうだね。私からも君たちに御礼を言わないとね。本当にありがとう」
ドロシーは「いえ、とんでもないですっ」と答えたが、ジョセフは優しく微笑みながら言葉を続けた。
「それと数ヶ月……、秋になったら君に
「はい、承知致しました! 覚えておきますねっ」
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