ケーラの葬儀にて
石造りの家々が並んで、あちらこちらには
三月が過ぎようとする頃、冬の終わり。
その日は一日晴れていたが、家の屋根や道端には、まだ薄っすらと雪が積もっているようだ。
しかし、春に向かっていく頃でもあり、空気の冷たさがだいぶ
十三時を過ぎた頃、〈ヒダマリ大聖堂〉には、
葬列者の中の先頭に立っているのは、ニシノハテ公国の最高位であるフェリクス・チップ・ウエスト大公、そして彼の妻であるエリザ妃だ。大公夫妻の後ろには、公室の関係者たちが並んでいた。
大公夫妻がケーラの棺の前まで来た時、母親らしき女性がケーラの孫娘の体を支えながら、立ち上がるように
孫娘は大公夫妻に気が付くと、ハンカチで涙を拭いながら、ゆっくりと立ち上がった。彼女は背筋を伸ばした後、しっかりと大公夫妻の顔を見て、礼儀正しく挨拶をしたのだった。
そして、大公夫妻を含む公室で働いている一行が、亡きケーラへ別れの言葉をかけ終わると、年配の議員たちがケーラの棺に向かってきたようだ。その後も、ケーラを慕っていた街や村に住む多くの人々が、続々と列を作っていた。
ケーラの
暗い道を歩く際、
日の入り前に、ケーラの孫娘も家に戻っていた。
彼女が暮らしているのは、〈修復屋〉の店も兼ねている小さな家である。ケーラが健在していた時は、彼女も一緒に生活をしていたそうだ。それから、両親とは別々に暮らしているらしい。
「アンタが、ドロシー・エヴァンズか??」
肩まである焦げ茶色の短い
ケーラの孫娘、ドロシーが驚いて横を見ると、少し離れた通り側に見知らぬ若い男性が立っていた。
「あっ。はい……、そうです?」
ドロシーが返事をすると、その若い男性は早足で彼女の
「親父がケーラさんに頼んだ、懐中時計の修復代な……。親父はケーラさんの葬儀の後に、即仕事に戻らないといけなかったから、代わりにオレが持ってきた。
……遅くなっちまって、ホント悪いな。親父も、そー言ってたっ!」
ドロシーに懐中時計の修復代を渡したのは、細身で長身の青年だった。グレーのシャツに、真っ黒なスラックスとコートを
また、彼は腰まで伸ばした長い髪を三つ編みにして束ねていた。紫色の真っ直ぐな髪に、カナリアイエローの
ドロシーは青年の話を聞き終わると、すぐに彼女は懐中時計の
しなやかな
綿の袋に入った懐中時計の修復代を受け取ると、ドロシーは青年に丁寧にお礼を伝えた。
「あっ、あの……。お名前って??」
「あ〜、初めに名乗った方が良かったかな。……サイモン・ウォード、よろしくっ!!」
ドロシーに軽やかに答えると、サイモンという青年は再び早足で、セイナン町の中央方面に歩き始めようとしていた。
ふとドロシーが気が付くと、辺りは日の入りの直前だった。足元が見づらい程、外は薄暗くなっている。
「あっ!! もし良かったら、ランタンをお貸しできますが、どうですか? ご自宅に着く前に真っ暗闇になっているかも、ですしっ」
「いんや、大丈夫〜。オレ夜目が利く方だし、ダッシュで帰るわっ! ……じゃ、また〜」
そうしてドロシーに手を振った後、サイモンは駆け足で帰っていったのだった。
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