フクロウを待ちながら

フクロウは少年に拾われました。


少年はフクロウの世話をしました。


ご飯を食べたり、散歩をしたり。


少年によじ登ったり、抱っこされたり。


フクロウは少年を母と思い、少年はフクロウを子と思い。


互いは互いを補い合うかのように、その関係を続けました。


やがてフクロウは成長し、少年は大人になりました。


フクロウは狩りをおぼえ、少年とともに世界を旅します。


フクロウは知恵者です。


フクロウのアイディアで少年は財を得て、大人になり、やがて結婚します。


少年に子供が生まれ、今度はフクロウが少年の子供の世話を手伝います。


家族が増えたフクロウは幸せでした。


少年と二人暮らしだったフクロウにとって、新しい命の訪れは嬉しいことでした。


フクロウは大きくなり、子供は成長し、二人目の子供が生まれて。


子供たちは大きくなり、少年は気が付けば老人になっていました。


時は流れ。


フクロウは少年の能力が落ちていくのを目の当たりにします。


昔のように野山を駆け回ることの出来なくなった少年に、フクロウはある時問いました。


「君は、もしかして、うごけなくなってしまうの?」


少年は答えます。


「そうだね。あの木のように、いつか僕は動けなくなってしまうだろう」


その答えに、フクロウは胸を張って提案します。


「なら僕がそばにいよう。キミが寂しくないように」


「あぁ。その時が来たらお願いするよ」


そして時は流れます。


やがて、少年は動かなくなりました。


身体はしわくちゃで、頭は真っ白。やせ細ったその体は、骨と皮ばかり。


「ねぇ君。動けなくなってしまったのかい?」


フクロウは土を掘り、彼を埋めます。


その周りで、少年の家族たちは泣きました。


フクロウは不思議に思って尋ねます。


「みな、どうして泣いているの?」


泣き続ける少年の妻にかわって、子供が答えました。


「だって、もう二度と会うことができなくなってしまったから」


フクロウは首をかしげます。


木になれば会えるのに。いつだって。



彼は木になるのだ。フクロウは説明します。


しかし誰一人、その言葉を聞きません。


少年の家族たちは、しばらくして、その場を去っていきました。


もうフクロウの元には、人間はいません。


少し悲しいことでしたが、フクロウは彼らを引き留めませんでした。


かわりに、フクロウは思ったのでした。


みな、木になれば会える。いつだって。


フクロウにとって、それは別れではなかったのです。



それから数年。


木の枝で眠っては少年と過ごした日の夢を見て、起きては辺りを見回して、フクロウはまた眠りにつきます。


いつしかフクロウは老い、体はやせ衰えていました。


ある時起きたフクロウは、自分の体を見て呟きます。


「キミが木になる前に、僕が木になってしまうかもしれないね」



季節は巡り、何度目かの春が訪れた頃。


フクロウのいた木の周りには、たくさんの木が生えていました。


散乱する白い枝に囲まれた一本の大きな木は、葉を朝露に濡らします。


その日枝の芽が開き葉となった、そのいくつかの葉のひとつから垂れた朝露が、その時白い枝に落ちました。


「やぁキミ。遅かったじゃないか」


風のそよぎに枝葉を揺らすその大樹は、まるで待ってくれていたフクロウに会えて喜ぶ少年のようでした。

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