第2話 ノート

 「後悔を、取り戻す?」

聞いたことのない言葉の並びだ。過去に残してきたから「後悔」と書くのではないかとサトルは考えていた。


 「言ったろ、この店には後悔を持った人しか見つけられない」

 「それならほとんどの人は見つけられるんじゃ、」

 「そうかもしれないな。でも君が来た。君に必要だからだ」

 

後悔を取り戻せる、自分にそのチャンスがあるのだと老人の言葉から自覚した。

 「私は何をすればいいんですか?」

 「この店に来た人に渡すものは決まっている」

そう言うと老人は一冊のノートを取り出した。どこにでもありそうだが見たことのない不思議なノートだった。


「使い方を説明しよう。一度使えばなぜ君に必要なのか理解できるはずだ」

 

 サトルは老人から渡されたノートをまじまじと見ながら帰路についていた。老人から説明されたこのノートの使い方について思い出す。

 

 「ページに君が取り戻したい後悔を書くんだ。1ページにかける後悔は一つまで」

 「そうしたら書いたページを自分に向けるようにして眠るんだ」

サトルがそうすれば後悔が取り戻せるのかと聞くと、「そこからは君次第さ」と意味ありげに言われたのだった。

 

 サトルはその日の夜にノートを試してみることにした。普段なら夜遅くまで映画を見て頭痛を抱えながら会社に向かうのだが、その日はノートのことで頭がいっぱいだった。

 夕食を早めに済ませて寝室で自分の後悔をノートに書きこんでいた。サトルは最初に書き込む後悔を帰ってきてからもずっと考えていたのだ。

 

 小さいものから大きなものまでサトルが抱え込んできた後悔は様々なものがあった。今夜は試し、つまりこのノートがどういう効果を発揮するのかを詳しく知りたいのだ。

悩んだ末に選んだ後悔をノートに書き込み、サトルは眠りについた。


 目がすぐに覚めたような気がした。自分が目覚ましのタイマーより早く起きたことなんてなかったからだ。全然寝ていないような気がするのにいつもより体がずっと軽い感覚だった。よほどの快眠だったのだろう。しかし、今サトルが考えているのは全く別のことだった。起きた時にいる部屋が実家の方だったからだ。

 

 とても懐かしい感じがした。自分の昔の部屋だとすぐに分かった。

下の階へ降りて鏡を見るとサトルは中学生の姿だった。

 自分が昨夜書いた後悔の中にいるのだと気づき、あのノートは本物であると理解した。学校の時間が迫っていることに気づき急いで準備を済ませ、学校へと足を運ばせた。

 

 サトルが書き込んだ後悔は中学の修学旅行のことだった。サトルは昔から運が悪く肝心な時にいつも選択を外し、自分の願い通りに事が運んだ試しがないのだ。

 現在でもその不運は健在中であったが、修学旅行時の出来事は不運の傾向が明らかになった瞬間であるといっても過言ではない。

 

 詳細を説明すると修学旅行中にまとまって動くグループのメンバーを決める時間があった。いつも仲良しの5人でグループを組む予定だったのだが、先生からグループの人数は4人だと告げられた。話し合いで決まるようなものではないと互いに理解していたので「じゃんけん」で決めることになったのだった。サトルは順調に負け残り、二人になったときにパーを出して見事にグループから追い出されたのだ。

 

 結果、サトルは「余り者グループ」に配属が決まり修学旅行中、自分が当初入る予定だったグループの楽しそうな様子を横目に「余り者」として過ごしたのだった。


 とても悔しい思い出だったのでサトルは最初の後悔にこれを選んだ。登校した日はノートに書いた通り、グループ決めの日だった。

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