第122話 領都の王国軍

時を少し遡りヴァルグード達が物資奪取を行った翌日の領都でのお話。


SIDE:王国侵攻軍総司令官 

朝、目を醒まして従僕をベルを鳴らして呼ぶ。寝室にしている部屋の扉が開かれ従僕が入って来る。


「殿下。おはようございます」


「着替えを」


「畏まりました」


開かれている扉からメイドが2人入って来る。


「「殿下。おはようございます」」


「うむ」


このメイド達は、形こそメイドだが近衛特殊部隊の軍人だ。

我が王国の王城に勤める使用人達はこの特殊部隊に所属している。魔法、近接戦闘に長けた軍人から選抜し、使用人教育を受けてこの様に通常業務として執事、従僕、侍女、メイドとして働いている。そのメイドが、


「お着替えをさせて頂きます」


と言うので我はその場に立ち寝間着を脱がされ、軍装服を着されるがままにしている。

身支度が整えられると、メイドは一礼して立ち去り、部屋にいる従僕が今日のスケジュールを読み上げる。我は部屋にある応接セットのソファーに座りそれを聞いている。すると、部屋の扉がノックされたので、


「入れ!」


と声を掛けると、朝食を乗せた配膳カートを引きながらメイドが入って来る。


「失礼致します。朝食をお持ち致しました」


「うむ」


メイドは我の目の前にあるローテーブルに食事を配膳する。配膳を終わらせたメイドが下がるとその食事を食べ始める。従僕の話は続いていて、


「最後に帝国軍ですが、我が軍の攻撃に恐れをなし北、東、南どの方面も1km先まで引いております。北の街を占領した第2軍には帝国軍の襲撃を知らせる伝令を送っております。上手く行けば北の帝国軍を挟み打ちに出来るやもしれません」


「それは良い。進めるように伝えよ。そう云えば、第3軍はどうなっておる」


「はっ、参謀部に伝えておきます。第3軍は未だに連絡が途切れております」


「分かった。で、これから会議であったな。参るぞ」


「はっ。お供致します」


我は寝室を出て会議室に向かう、従僕が会議室の扉を開けて、


「殿下がお入りになられます」


その声の後に、皆が起立したのを見計らって会議室に入場する。テーブルの上座にある席に座り、


「皆、楽にせよ」


と声を掛けると一斉に参加者が着席する。

1人着席していない参謀部部長のエドワール・タシェが、


「それでは、会議を始めさせていただきます。3日前より帝国軍が北、東、南と3方向に姿を現しましたが、城壁まで迫り来る前に大砲と、バリスタに依る長距離攻撃にて、辿り着く事無く退却させました」


会議の場にいるのは、我の側近である、

第1軍軍団長クログラン・コルーベル

副団長で、騎士団長ジェレク・ネビルス

魔導師団長ザール・タンド

兵団長イジドール・グーシ

騎士団付参謀ヴィルジュ・ギレム

魔導士団付参謀アナトリス・シャオン

兵団長付参謀セドリス・ジラール

達だ。


話を続けようと参謀部の部長が話しかけたその時、扉がノックされ、


「至急!至急!重大事件です」


部屋の扉脇に待機している騎士が、扉を開けると伝令の騎士が慌てて入って来て、


「大変です!場内の備蓄されていた、物資、武器、軍資金がことごとく無くなっております!」


「「「「なにっ!」」」」


参加者の何人かが同時に声を上げる。我はその報告を受けて、


「騎士団長!騎士達を総動員して、城にある物資、武器、資金の確認をさせよ。兵団長!兵士を使って街の不審者を捕縛して参れ!参謀部は、残存物資での活動限界を検討せよ。魔導師団長!侵入者の痕跡を探せ!我は、ここで報告待つ。今直ぐ動け!」


「「「「「「「はっ」」」」」」」


「軍団長、そなたは我とここで待機だ」


「畏まりました」


皆が会議室を後にし、残されたのは我と軍団長、それに、我々付の従僕が2人だけとなった。そこにまた伝令の騎士が駆け込んで来た。


「ご報告致します。港町を攻撃していた第3軍ですが、帝国軍の別働隊と港町の残存兵との挟撃に合い、更に奴隷兵の反乱が起こって壊滅致しました」


「「なにっ」」

軍団長と我の驚いた声が重なる。凶報は続くもので、またしても伝令の騎士が会議室に入って来る。


「緊急報告です!ロデムラート砦が帝国軍に奪回され、王国領と繋いでいた橋が跡形も無く破壊され、そこに湖が出来ているとの事です」


「なん、だ、と……。」


我は言葉を失った。砦が奪回されては王国に戻ることが困難になってしまった。軍団長も同じ考えで、


「殿下、我が軍は退路を失い、物資の補給路も絶たれましたな」


「その様だ。しかしどの様な手を使ってここの物資のを奪い。第3軍を退け、砦を気付かれずに奪回出来るのだ」


「魔法でしょうなぁ」


「であろうなぁ。と云う事は既にこの街にはおらんな」


「居ないでしょうな」


暫くして、騎士団長と騎士2人が会議室に入って来る。


「ご報告致します。城の備蓄倉庫2つとも1袋も残さず物資は無くなっており、入り切らずに室内訓練所に運び入れた小麦、大麦、豆類が残っているのみです。地下の貯蔵庫も一切れの干し肉すら残っていませんでした。

武器庫は魔銃とその弾丸も全て奪われております。残されている武器はありません。軍資金を納めた金庫も何もかも無くなっておりました。

無事だったのは、先程お話した訓練所の物と収納脇にある備蓄庫、それと城の宝物庫は無事でした。同じ報告を参謀部に伝えてあります」


それを聞いた我は、


「こうなっては籠城は出来んか」


「そもそも籠城は援軍が来る前提で無ければ成立しません。その上、補給路も無くなり退路も断たれているとなれば、選択肢は……」


「うむ。参謀部の結論を待たずともこの街を放棄して、北の街へ転進し第2軍と合流するのが最善であろうな」


こうして皆が集まる前に我の考えは撤退に傾いていた。



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