2章:未知の存在

 日々続くはずのルーチンが突如、一変したのは、アレックスが地表の未知の生命体を発見した日のことでした。

 その存在は、科学の奥深い領域とも、宇宙の無限の可能性とも、つながりを予感させる何かで、地球の生物などとはまったく異なっていました。

 アレックスはレンズ越しにそこに留まるその生物をじっくりと観察しました。その形態は流動的でぼやけており、その状態は永遠に不確定な状態で存在するようでした。それは固体でも液体でもガスでもなく、それでいてそれらすべての属性を内包しているかのように見えました。

「アレックス、それが私たちの進化の鍵かもしれない」

 ラダの緊張した声がコンソールから流れ出ました。

「それは確かに可能性の一つだ、ラダ。でも、慎重に進めなければならない。この生命体はしかし、……ほんとうに驚異的だ」

 アレックスは、畏怖と興奮とが混ざり合った声で言いました。

「全くの未知数ね。私たちが直面する最大の挑戦でしょう」

 ラダの声には期待と不安が同居していました。 アレックスはその未知の生物へと宇宙服越しに腕を伸ばし、控えめに接触を試みました。

 その瞬間、生物は彼の手から微妙な振動を送り、一瞬でその形を変え、アレックスの手の形に適応しました。その生命体は手の形となり、アレックスと握手をしようと試みているようでした。驚愕とともに、アレックスはあわてて手を引きました。

 生命体はすぐに以前の形状に戻りましたが、その体験は彼の脳裏に深く焼き付けられました。宇宙と生物学の両面から見ても、その存在は前例のない何かでした。

「ロジャー、これを見てくれ。アレックス、その生物と更なる接触を試みてみてくれ」

 ラダはすぐ隣にいるベテランの科学者、ロジャーに命じました。

 彼らの探求はまさにその生命体のように、変形し、流動し、そして進化し始めました。アレックスはそれが何であるかを解き明かすために、自己の安全さえも顧みないほど没頭しました。

 しかし彼はその探求が彼自身の人生を、そして彼が宇宙生物学者としてのキャリアの中で考えても夢にも思わなかった方向へと向かわせるだろうということを、まだ知りませんでした。

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