闇と光 ~悪の女幹部とヒーローの恋~
ただ仁太郎
悪の女幹部とヒーローの恋
皆はヒーローと言えば、どんな存在を思い浮かべるだろう?ちなみに、俺は社会の秩序を乱す悪と戦う存在を思い浮かべる。
皆も幼い頃、一度はヒーローに憧れる時期があっただろう。だが、大人になるにつれ、受験やら就活やらで、現実を体感し、皆、年を取る。
そして、幼い頃の記憶は思い出として、美化される。
それが、一般的な大人のあり方なのだろう。だが、俺は本当にヒーローになった。
俺の名はジョン・スミス。ヒーローだ。俺が戦う理由はただ一つ。世界の秩序を守るためだ。
ちなみに、俺がヒーローとして活躍するに至る理由は力に目覚めたからだ。
力、すなわち超人的な能力を指す。
まず、端的に説明すると、この世界には能力に目覚めた者、俗に言う能力者と、そうでない非能力者の二種類の人類が存在する。
俺のような存在は前者の能力者。例えば、俺の能力は剣術。
剣を誰よりも素早く振り回すことができる。
元々、俺は剣道をやっていたし、古武術にも精通している。
つまり、何が言いたいかというと、そこそこ強かったってことだ。
そんな俺が能力を手に入れればどうなると思う?
最強の戦闘マシーンになると俺は自負している。
そう。俺は最強なのだ。
ちなみに、俺が戦うのは、そんな能力者を国家転覆に利用しようとする悪の組織「ダークネス」から人々を守るためだ。
俺たちヒーローにはヒーローたちの組織「ヒーロー連合」が中心となり、「ダークネス」との闘いに備えている。
その日も俺はヒーロー連合の総裁から任務を受けていた。
「サムライ。今日もB地区にて、怪人がヒーロー支部を攻撃している。かの支部から援軍要請が来た。急ぎ、怪人どもを撃退してくれ。」
「承知した。ちなみに、敵の規模はどれくらいですか?」
「敵軍はおよそ100。それを指揮しているのは、あの女幹部ソフィアだ。すでに現地にて応戦したヒーローたちは撃退されている。急ぎ、彼女を止めてくれ。」
「わかった。急ぎ迎撃に向かう。」
俺は通信モニターをオフにし、バトルスーツに変身する。
ヒーローソードを手に、俺は出撃した。
B地区某所
「ク!なぜそこまでして、ヒーローを目の敵にする!?」
一人のヒーローが這いつくばりながら悪の女幹部を見上げ、問う。
周りにはヒーロー支部の職員たちと怪人たちが横たわっていた。
「フン。決まったことを。それはお前らが憎いからだ。憎い。憎い憎い憎い憎い憎い!私は貴様らが絶滅するその時まで、命を燃やして、お前たちヒーローを攻撃する。」
「それほどまでに。」
「ああ。それほどまでに、私はお前たちが憎い。おしゃべりはここまでだ。お前はここで死ぬ。さらばだ。」
女幹部が剣をヒーローに振り下ろしたその時、ある違和感が生じた。
キーン!
そのヒーローは突然、登場し、彼女の剣を受け止めた。
「貴様も私の邪魔をするのか!おのれおのれおのれおのれ!」
その男、同僚のヒーローをかばい、女幹部の剣激を自慢の剣技で受け止める。
「どれだけ、憎まれようとも、俺はヒーローである限り、市民の平和を守る!」
「! 目障りだ!」
男の言葉に激怒した女幹部は刹那の間に男の間合いに入り、抜刀術を仕掛ける。
男は彼女の神速の一刀を受け流し、彼女の抜刀術を模倣する。
「!」
刹那の模倣奥義を回避した女幹部は男との間合いを取る。
「貴様!!どこまで、私を愚弄すれば気が済むのだ!」
激昂した女との乱戦は男を歓喜させた。
最強と自負する自分とここまで対等に渡り合えた者はかつて存在しただろうか?
否!
彼女の存在、彼女の奥義そのものが男を魅了した。
彼女の攻撃や仕草は冷酷であり、敵への容赦は一切ない。
無駄のない洗練された奥義の数々は彼女の長年の鍛錬の成果と努力を物語る。
ここまで自分自身を追い込み、技を磨き上げた人物とかつて出会ったことがあったのだろうか?
否!
彼女はかつて戦ったどんな敵よりも、自分に厳しく、努力を積み重ねたのだろう。
そんな彼女の人間性はとても美しく、気高い。
男は戦闘を通して、彼女の心の本質を悟った。
「今日はここまでにしておいてやる!」
「待て!まだ私は戦える。私に情けをかけるな!」
「別に情けをかけるわけじゃない。俺も君も限界だと思ったから、提案しているに過ぎない。また、互いに万全の状態で、再戦しようじゃないか!」
女は男の言葉を聞いて、初めて自分自身と男の体が傷だらけなのに気が付いた。
「ク!確かに、貴様の言う通りかもしれない。ここは、提案にのってやろう。今日のところは私が退いてやる。だが、次に会った時が貴様の最期だ。覚悟しておけ。」
「アハハハハ!それだけの威勢があれば、そのくらいの怪我は大丈夫だな。」
「何がおかしい!私は真面目に言っているんだ!」
「いや、今のは俺が悪かった。ごめん。じゃあ、次に会いに来てくれることを楽しみにしているよ。」
「その言い方だと私がお前とまた会いたいみたいな感じじゃないか!勘違いするな!私はお前を必ず倒す!」
「じゃあ、倒されないように、俺は修行することにするよ。」
「ふん、望むところだ。再戦を約束するのだ。貴様の名前を教えろ。」
「それもそうだな。俺はジョン・スミス。ヒーローネームは『サムライ』だ。君は?」
「ジョン・スミスか。では、私も名乗ろう。私はソフィアだ。次に会う時が貴様の命日だ。」
「了解。ソフィアちゃんね。」
「貴様!誰がソフィアちゃんだ!必ず後悔させてやる!」
そう言うとソフィアは俺の前から姿を消した。
彼女が消えた後、俺は気絶していた同僚を担ぎながら、ヒーロー支部に戻った。
それにしても、彼女の存在が気になる。
あれほどの剣技を身に着けるのに、どれだけの鍛錬が必要なのだろうか。
自身も剣技をかじった経験があるから理解できるが、あれほどまでに美しい剣技を身に着けるためには、才能だけでは説明ができない。
彼女のような奥義を身に着けられる者は、それなりの人間性があるに決まっている。
少なくとも、彼女の奥義は、よこしまな者には到達し得ないはずだ。
この結論は誰に何を言われようとも、決して揺らぎはしない。
俺の剣士としての直感は誰よりも正しい。
それは最強を極めた俺だから言えることだ。
これは断じて、慢心などではない。不変の事実だ。
それから、俺は彼女のことが気になって気になってしょうがなくなった。
飯を食う時、学校に行く時、バイトをする時、寝ている時。
24時間、俺の脳は彼女のことを考察していたのだ。
夢にまで彼女が出るくらいなのだ。
ていうか、俺って異性のことをこれまでの人生で考えたことってあったかな?
否!
じゃあ。
もしかして、初恋なんじゃないのか!
え、でも、俺はヒーローで彼女は悪の女幹部。
こんなことがあって良いのだろうか!?
でも、すごいドラマチックではある。
まあ、そんな感じで俺は彼女のことが気になり始めていた。
悩みぬいた末に俺が導き出した結論。
それは調査だ。
そう!
俺は彼女のことを調べることにしたのだ。
だが、どうやって彼女を知ればいいのだろう?
手段は敵の怪人になりすまし、潜入調査とかだろうか?
そうと決まれば、早速実行だな。
俺はバトルスーツの固有スキル『擬態モード』を発動し、内部調査を開始した。
2週間、怪人として内部調査して得た成果は大きかった。
まず、第一に彼女は部下思いの理想的な上司であること。
俺の予想通り、彼女の人間性は素晴らしい。
傷ついた部下(傷ついた怪人に擬態した俺)にやさしかった。
看病してもらっちゃったもんね~。
第二に彼女がヒーロー連合を憎んでいる理由が判明した。
まず、俺が一番驚いたことは、彼女の過去だ。
彼女は元々、善のヒーローとして、ヒーロー連合を代表する戦士だった。
だが、ヒーロー連合は彼女の脅威的な力を恐れ、先のヒーロー怪人大戦の後、彼女たちヒーロー部隊を攻撃した。
それを指示したのは、何を隠そうヒーロー連合の現総裁であった。
総裁は世界征服をたくらむ悪の組織を倒し、自身の統制の下に世界の秩序を構築する目的があったようだ。
だが、総裁が制御し得ないほどの強靭な能力者であった彼女は、戦闘兵器としては有能だが、大戦後は邪魔な存在となっていた。
出る杭は打たれる。
そんな言葉があるが、彼女の場合もそんな感じなのだろう。
総裁の理想郷に共感し、人々の平和を守るために戦った純粋な少女は裏切りによって消され、ヒーローを憎む悪の女幹部へと変えてしまったのだ。
ああ。何ということだ。
あの野郎!俺のソフィアちゃんをいじめやがって!
許せん!許せん許せん許せん許せん許せん!
何としても、あのハゲ総裁をぶっ飛ばして、報いを受けさせてやる!
だが、俺はヒーロー。正義の名の下に、人々を怪人の脅威から守る使命がある。
これは力に目覚めた我ら能力者の義務だ。
でも、あのハゲ野郎が許せないのも事実だ。
俺は悪を叩きのめし、正義を執行する。
だが、ソフィアちゃんのことも大切だ。
俺は一体、どうすればいいんだろう!?
俺の苦悩は続きそうであった。
時を同じくして、ソフィアは困惑していた。
あれから、私はあいつのことが頭をよぎる。
ジョン・スミスと名乗ったその男は、どこか紳士的で、かつての私を見ているかのようであった。
あいつを見ていると私の心が苦しくなる。
かつて善を信じ、力をヒーロー連合の発展のため使った。
だが、その末に待ち受けていたのは、私を排除しようとする裏切りだった。
かつての部下は見殺しにされ、私は組織から暗殺されかけた。
もちろん。返り討ちにしてやったが、私の心の傷はとても大きい。
それ以来、私は人間不信になった。
人から裏切られる恐怖。
それは経験しなければわからない。
それまでの私の中の世界は純粋で、とても輝いていた。
私のような者でも、人々から感謝され、世界の平和に結びついているのだと本気で思っていた。
だが、事実は違った。
ヒーロー連合の総裁は私を利用し、自身が独裁者として、権威を振るう社会を作りたかったに過ぎなかったのだ。
私は彼にとって不要、いや、権威を脅かす政敵となったのだろう。
私は死地に送られ、刺客から命を狙われた。
私は重傷を負いながらも、逃げ続けた。
ついに体力が尽き、私は倒れた。
目が覚めれば、私の周りにいたのは、かつて敵対していた悪の組織の人間たち。
彼らは怪人と呼ばれるが、その正体の多くは、能力者、つまり人間だ。
怪人の定義は悪の組織に属する能力者のことを指すことを初めて理解した。
彼らも、正義を名乗る独裁国家樹立を目指す者たちの圧政から逃げた人々であった。
確かに、悪の組織は能力者を利用し、世界征服をたくらんでいる。
だが、それは善の組織、俗にいうヒーロー連合も変わらない。
悪の組織は能力者の権利拡大と特権的な階級社会を目指すが、善の組織は一人の総裁という独裁者を頂点とした能力者を戦闘マシーンとしか見なさないような独裁国家樹立を目指しているに過ぎない。
だが、ヒーロー連合に属する者たちは純粋で、悪の組織から人々の平和を守ることを本当に信じている。
しかし、私は悟った。
ヒーロー連合は、トップが腐っている。
こんなふざけた組織をつぶすために私は今日も剣を振るう。
それから、私とジョンの再会はすぐに訪れた。
彼は私に会いに怪人に変装して、潜入してきたのだ。
この事実に気が付いたのは最近のことだが、ある時、彼がバトルスーツの擬態モードを解除する様子を目撃してしまった。
そういえば、私のところに来た部下にいつものように、簡易的な看病をしたが、その中に彼がいたのには、この時まで気が付かなかった。
彼は擬態モードを解除してすぐに、姿をくらました。
おそらく、ここから離れ、ヒーロー連合へと戻ったのだろう。
私も彼のことが気になっていた。
彼のやさしさは敵ながら、伝わる。
私は無意識に自身のバトルスーツの擬態モードをオンにし、彼の組織に潜入することにした。
彼のことはすぐに見つけることができた。
「あのハゲ野郎!ソフィアちゃんをいじめやがって!」
彼は総裁のいないところで、よく独り言を言っていた。
その内容は私への同情と総裁への怒り。
私は彼を観察する度、彼のことが好きになっていた。
それから互いの立場に戻り、度々、戦闘を彼と繰り返した。
いつしかそれは、殺しあいの戦闘というよりも、互いの対話のようなものになっていた。
「私はお前が気に入った。悪の組織へ来い。お前を幹部待遇でむかえてやる。」
「気に入ってくれたのは、うれしいけど、俺はヒーローとして、人々を守る使命がある。」
彼と会う度に私は、勧誘するが、いつもこんな感じで話は流れてしまう。
だが、彼に拒まれても私が彼と添い遂げたい思いは強くなっていく。
ここまでくると、私はある種の病気にかかっているのではないのだろうか?
俗にこの病の名は「恋」と言われる。
私は日々の生活の中で、彼のことを考えない時間はなくなっていた。
私は彼と会える戦闘の時間が待ち遠しくなっていた。
ある日、いつものように、私は彼と戦った。
そんな時、彼が驚くべきことを言う。
「ソフィアちゃん、俺は君が好きになったようだ。だが、俺は正義の戦士。このままじゃいけないんじゃないかと思う。だから、俺は決めた。しばらく、君の前に現れない。俺の中でけじめをつけたいんだ。」
私は愕然とした。
「! なぜだ!私はお前が欲しい!お前も私を見捨てるのか!?」
そう叫ぶが、彼の悲しそうな表情はさらに強まり、私の前から姿を消した。
それから、どれほどの時間が過ぎたのだろうか?
私の活力は失せ、何をやるにも、私の中の大切な何かが欠けたような空虚な感覚を味わっていた。
私は捨てられた。
ここまで、愛した男に捨てられた。
彼は私のことを拒んだ。
ハハハハ。いつものことじゃないか。そう、私は誰からも必要とされていない。
私の乾いた笑い声は虚しく響くだけだ。
私はどうすれば良かったのだろうか?
私のこれまでの人生は、果たしてこれで良かったのだろうか?
彼は私を拒んだ。
でも、私は確信している。
彼も私を異性として意識していると。
でも、彼は彼の立場と責任において、そちらを優先した。
私人ではなく、公人としての正義と義務を選んだ。
かつての私であれば、そうしていただろう。
私はどこで、変わってしまったのだろうか?
彼のいない時間は私を永遠とも思えるような終わりの見えない孤独の中で、自身を振り返るきっかけとしては十分だった。
ヒーロー連合本部
その日、俺は決断した。
ソフィアちゃんとの関係を絶って、一週間が過ぎた。
俺が彼女と距離を置いたのは、彼女のことが嫌いになったからではない。
むしろ、その逆だ。
俺は俺で、愛する彼女を苦しめた元凶を滅ぼし、彼女の笑顔を取り戻す。
それまでの間は俺は自身の中で甘えが生じないように、関係を絶った。
だが、勘違いしないでほしい。
正義の戦士としての俺の生き方を変えるつもりはない。
あくまでも、俺が倒すのは、正義の大義名分を私的に利用し、独裁国家の王を目指すハゲだけだ。
ハゲを倒した後は、腐った上層部を入れ替え、新たなヒーロー連合を作り上げる。
そう、これは内部の革命。クーデターだ。
運命の決行の日、俺は総裁と対面した。
「どうした?サムライ。」
「あなたに確認したいことがある。あなたの言う正義とは、本当にみんなが思い浮かぶ人々の平和が守られたものなのか?」
「なにを当たり前のことを。当然じゃないか。」
「では、その世界が実現されたとして、あなたの理想のために戦った我ら戦士たちはどうなる?」
「もちろん。英雄として未来永劫語り継ぐさ。」
「それは、俺たちを殺した後の話か?あなたは結局、自身が王となる世界を夢見ている俗物に過ぎない。自身の権力に対抗し得る力を持ったヒーローたちはあなたの世界では排除されるだけなんだろう?」
「誰がそんなことを吹き込んだのかは知らないが、君は敵の精神支配の攻撃を受けているに違いない。医療班に見てもらいなさい。」
「あくまでも、白を切るか。では、かつての戦士ソフィアについては、どう説明するんだ?」
「・・・・・・」
「あなたのかつての所業は秘匿されているが、俺はとある伝手からその情報を得た。信じられなかったよ。でも、調べれば調べるほど、それが事実であるという裏付けがなされる。」
「ハハハハハハハハハハハ!そこまで調べたとはさすがだね。君は優秀だったんだけど、残念だよ。こうも早く君を消さなければならないなんて。」
「その言葉。もはや言い逃れはできないぞ。」
「ああ。肯定しよう。君の言ったことは全て事実だ。私は王となり、独裁をする。君たちのような駒は私の世界には必要ない。少し早いが、ここで消えてもらおう。」
総裁と俺は互いにバトルスーツに変身する。
「「変身」」
総裁のバトルスタイルは長刀。
彼の一刀が俺を襲う。
俺のスキル「剣技」が彼の一刀を受け流す。
「やるな。ではもっとギアを上げるぞ!」
そう言うと彼はバトルスキルをMAXにまで上げ、連撃をしかけてくる。
ギアのMAXは消耗が激しい分、威力とスピードが増強する。
つまり、短期決戦を挑んできたわけだ。
俺もバトルスーツのギアをMAXにし、対抗する。
キンキンキン!
ドーン!
バコーン!
辺り一帯に俺たちの剣激が波動となり、鳴り響く。
互いが互いの残像を斬るころには本体がいない。
そんな攻防が数分続いた。
さすが、組織のトップになるだけはある。
総裁は強かった。
だが、俺の神速の一刀は彼の胴をとらえる。
「一閃!」
ズン!
「み、見事だ。君が王として君臨する姿を、あの世から見ているぞ。」
そう言うと、彼は息絶えた。
「王か。そんなものに興味はない。俺は人々が平和に暮らせれば、それで良い。」
俺はクーデターにより、ヒーロー連合の総裁となった。
誰も俺の総裁の就任に異を唱えなかった。
むしろ、ヒーロー連合は怪人たちに対抗し得る強いリーダーを求めていた。
ダークネス本部
その知らせは唐突だった。
私は自身の耳を疑った。
「サムライがヒーロー連合でクーデターを起こしただと!?」
「はい。彼は総裁を倒し、新たな総裁となったそうです。」
信じられなかった。
あの総裁はもういないのだ。
私を苦しめた元凶は存在しない。
彼は彼の理想を掲げ、平和を目指すのだろう。
私は彼のことを考えながら、幹部会議へ向かった。
「我らの悲願である能力者の地位向上と非能力者の奴隷化計画は目前。幸いにも、先日、敵側で内乱が起きた。今の敵組織のダメージは深刻だろう。この機に一気にヒーローを根絶やしにする。」
幹部会を主催したダークネスの総帥は声高らかに宣言した。
「お待ちください!前にも申し上げましたが、非能力者を奴隷にするのはやり過ぎではないでしょうか?」
「また君か。前にも言ったが、これは必要なことなのだ。ソフィア。君は優秀だ。分かってくれ。」
幹部会が終了し、私は葛藤していた。
かつての理想。それは人々が各々の自由意志で、平和な世界を共存できるもの。
私はそのために戦った。
だが、かつてのヒーロー連合の総裁は独裁国家の王を目指す俗物に過ぎなかった。
でもそれは、私が今在籍しているダークネスにも言えるのではないか?
彼らは能力者の権利拡大を目指すが、その際、非能力者を虐げようとしてる。
私の道は本当にこれで良いのだろうか?
今までの私は私怨にとらわれ、憎しみ以外考えなかった。
人々の平和よりも復讐を完遂することにのみ関心があった。
でも、ジョンとの出会いが私を変えた。
かつての心を彼が取り戻してくれた。
「どうやら、心変わりしたようだね。」
「総帥。なぜここに?」
「君が心変わりしないか心配でね。でも、それは現実になってしまったようだ。」
「!」
「君に精神支配の魔法をかけた。君は今から、ヒーローたちが憎らしくてたまらなくなる。その恨みが我らの戦力となる。さあ、行け!ヒーローどもを根絶やしにするのだ!」
「・・・はい」
精神支配を受けたソフィアは大軍を引き連れ、ヒーロー本部へと進軍した。
ヒーロー本部ではソフィアの進軍への対応に追われていた。
どうなっている!?
なぜ、彼女が攻めてきた?
俺はヒーローとして、人々を守らなければならない。
ヒーローと怪人の最終決戦が始まろうとしていた。
「ソフィアちゃん!なぜ、ここにきた?」
「・・・」
「ソフィアちゃん?」
俺は彼女の瞳を見て悟った。
精神支配を受けていると。
おのれ!非道な!
彼女は俺に向かって、剣を振り上げる。
刹那の抜刀に俺も応戦する。
神速の攻防戦が辺り一帯の地形を変える。
互いの剣激が強い強風を伴い、辺り一帯の物を吹き飛ばす。
「ソフィアちゃん!思い出せ!君はヒーローだ!もう君を駒として利用するような輩は俺たちの組織にはいない。そんな奴らは俺が倒した。だから、頼む!俺と一緒に平和を守ろう!俺には君が必要なんだ!」
攻防戦の最中、俺は必死に彼女へ呼びかける。
彼女は徐々に瞳の色を取り戻し、やがてその瞳から涙が流れた。
「私は!お前が好きだ!」
泣きながら、彼女はそう叫んだ。
彼女の精神支配の効力はすでに消えていた。
互いに深く抱擁した。
数時間前(ソフィア視点)
私はとある精神支配魔法を受け、ヒーロー連合を攻めていた。
ジョンとの攻防戦をしているとき、私の意識はなかった。
暗闇の中に私の意識が包み隠されていたような感じだった。
ずっと続くと思っていた暗闇から一筋の光が差し込んだ。
それはとても暖かく、安心する。
彼の声ははっきりと聞こえた。
「俺には君が必要なんだ!」
その刹那、私の意識ははっきりと、戻った。
気が付けば、目の前の彼に抱擁していた。
「私は!お前が好きだ!」
再び、私は理想とする世界を作ろう。
彼と一緒ならば、きっと可能だ。
私を精神支配なんかで、管理しようとしたダークネスが許せない。
私は再び、正義を目指そう。
今ならば、はっきりとわかる。
私の進むべき道は彼と共にあるのだと。
その日、悪の怪人組織ダークネスは滅んだ。
二人組の若き男女によって。
そして、彼らは宣言した。
新たな世界を。
それは人々が自由意志で平和を謳歌できる世界。
そこには、能力者と非能力者の間に差別はない。
互いに足りない部分を助け合う共存社会。
人々の平和は今日も彼らヒーローたちによって成り立っている。
数年後
春の日差しが心地よく入る森林公園にて、子連れの夫婦がピクニックをしていた。
「キャサリン。それはパパのから揚げだよ。」
「えー、私のだもん!」
「こらこら、喧嘩しないの!」
「ハハハハハハハハハハ」
妻が夫にそう言うと、静かにキスをする。
「いいなあ。私も二人みたいにいつかラブラブな夫婦になりたい。」
「キャサリンにはまだ早いかな。」
「もー!早くないもん!」
「ええ。そうね。キャサリンは一人のレディですものね。」
それからその家族はピクニックを満喫した。
娘が寝静まった後の家では、彼らは肩を寄せ合っていた。
「ねえ。あなた。」
「なんだい?」
「今、私はとても幸せよ。」
「俺もだよ。ソフィア。」
「この幸せを守るためにも、俺たちは戦い続ける。」
「ジョンの言うとおりね。」
「でも、今日くらいはゆっくりしてもいいかな。」
そこには、普通のどこにでもいる夫婦がいる。
でも、誰も知らない。
その正体は正義のヒーローであることを。
彼らは人知れず、明日も悪と戦う。
人々の平和を守るために。
愛する家族のために。
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闇と光 ~悪の女幹部とヒーローの恋~ ただ仁太郎 @tadajintaro
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