散骨

あおきひび

洋上にて

 見渡す限りの海だった。

 水平線は遥か遠く。空は晴れ晴れとして清涼だ。海鳥が二羽三羽と翼を広げて飛んでいく。

 それを小型漁船の舳先からうち仰いで、ヨーコは深くため息をついた。まるで全てがこの日のためにあったかのようだ。研究のために取った船舶免許。そのおかげで、この洋上には彼女たち以外に誰もいない。

 ヨーコはそっと包みをほどき、中から骨壷を取り出す。そこにはすっかり小さくなったメグが入っている。人一人の軽さを腕に確かめて、ヨーコはしばらく何事かを考えているようだった。遮るもののない陽射しが、ヨーコのそばかすの散った皮膚をじりじりと焼く。

 その日、ヨーコはたった一人で船に乗った。愛する人を弔うために。その遺骨を海に還すために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る