第53話 バレなきゃいいのよ。バレなきゃ。レギーネ視点

【レギーネ視点】


 早朝。 

 ここはクズフォンスの部屋――


「意外と寝顔、可愛いのね……」


 あたしはベッド上から、床で寝ているアルフォンスを見ている。

 結局、まだ結婚前だからということで、クズフォンスが床で寝ることになった。


 (とりあえず、助かったわ……)


 レベル99という「レべチ」な強さを持つクズフォンス。

 クズフォンスと一緒にいれば、キモジークは近寄ってこない。


「まあ……そういう意味では、クズフォンスもあたしの役に立つわね」


 クズフォンス――じゃなくて、これからは「アルフォンス」と呼んであげる。

 有難いと思いなさいよね、アルフォンス。

 あたしの身の安全のためにも、「婚約者」の地位は死守しないといけない。

 婚約者であることを口実にすれば、アルフォンスはあたしの味方にならざる得ない。


 (まあ最近は……少しはかっこよくなったけどね)


 水の魔術師様と同じ、水属性魔法を使うし。

 顔とか雰囲気も、なんとなーく水の魔術師様に似てるし。


「二番目の男としては、けっこう優良物件かも……っ!」


 オリヴィア王女殿下にも、アルフォンスは好かれてるみたいだし。

 今度の授爵式で、位階が上がれば将来の出世は確実。

 学園生のうちに、位階が上がる者なんて聞いたことない。

 だから卒業後は、王宮の中枢を握るかもしれないわ……


「あたし、公爵夫人になれるわ」


 位階が上がって、アルフォンスが侯爵から公爵へ昇格すれば、王族に次ぐ身分になれる。

 広大な領地を与えられて、贅沢三昧の暮らしができる。

 公爵夫人は、令嬢たちの夢だ。

 学園卒業後も、他の令嬢たちに「マウント」とりまくりね……っ!


 (ただ……そのためには――)


 あたしがやったことが、アルフォンスにバレないようにすることだ。

 あたしは、リーセリアの「夜這い」を阻止した。

 リーセリアのメイド、クリスティアを脅して、睡眠草をリーセリアに飲ませた。

 それで今、リーセリアは夢の中だ。


「あたしのアルフォンスと抱き合ってなさい。夢の中でね……w」


 リアルでアルフォンスの隣にいるのは……あ・た・し。


 (うふふ……惨めなリーセリアね)


 ……万が一アルフォンスにバレたら、あたしはすべてを失う。

 最悪の場合、学園を「追放」されることになる。

 それに、貴族社会は評判が大事。

 もしもあたしがメイドを脅迫したのが明るみになれば、アルフォンスには婚約破棄される。

 婚約破棄の噂はすぐに社交界に広がって、あたしと結婚する令息は誰もいなくなる。

 王都でも仕事に就くこともできないだろう。

 お父様からも勘当されて、オルセン侯爵家も追い出されるに違いない。

 辺境でたった一人、寂しい貧乏な生活を送ることに……


「そんなの……絶対にイヤっ!」


 バレたらあたしは終わる。

 破滅の未来を回避するためには、完全な隠蔽工作だ。

 もしアルフォンスにバレることがあるとすれば、クリスティアからだろう。


 (あのメイドをちゃんと調教しておかないとね……)


 いや、もう、いっそのこと――


「あたしもそれは避けたいわ……」


 でも、もしもあのメイドが裏切ったら。


 (その時は仕方ないわね……っ!)


 あたしも覚悟を決めるしかない。

 胸に手をぎゅっとあてる。

 あたしの幸せを邪魔するなら、排除するまで。


「バレなきゃいいのよ。バレなきゃね……」


 アルフォンスを「踏み台」にして、水の魔術師様と愛し合う。

 あたしは水の魔術師様の写し絵を取り出す。


 (本当にいつ見てもイケメンね……!)


 街に盗賊が現れた時に、領民が撮った写し絵だ。

 華麗な水魔法の使い手。

 盗賊をワンパンする強さ。

 まさにあたしにふさわしい理想の男性だ。

 アルフォンスは所詮、どこにまで行ってもアルフォンス。

 あたしにとって、ただの「キープ」なんだ……


 (でも、さっきは優しくあたしを抱きしめてくれて……)


 違う――

 アルフォンスは水の魔術師様じゃない。


「とにかく、あたしがやったことがバレないようにしないとね……」


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