第25話 やっぱりクズフォンスが水の魔術師なの? レギーネ視点

 学園の鍛錬場。


 決闘に勝ったクズフォンスを、あたしは呆然と見ていた。


「クズフォンスが勝っちゃった……」


 信じられない。


 あの「クソ雑魚のキモブタ」が、ガベイジ伯爵に勝つなんて……


 あたしは夢でも見てるのかしら……?


 嫌われ者のクズフォンスの周りに、人がたくさん集まっている。


 オリヴィア王女殿下まで、クズフォンスに期待している。


 (なんだか異世界に転生したみたいだわ……)


 まるで別の世界線、まるで想像できなかった未来。


「……ねえ。レギーネ、大丈夫?」


 友達のリーセリアが、あたしに話しかけてきた。

 

 心配そうな表情で、あたしの顔を覗き込む。


「ありがとう。何でもないわ……」

「そう? 悩みがあれば相談してね。最近、様子が変だから……」


 たしかにあたしは、最近おかしくなっている。


 (もう気になって仕方ないわ……っ!)


 クズフォンスが――水の魔術師なのかどうか。


 いや、それはあり得ないはず。


 あたしは、クズフォンスを子どもの頃から知っている。


 クズフォンスは、怠惰で無能なくせに傲慢で、どうしようもない存在。


 一緒にいるのが嫌で嫌で仕方なかった……


 (なのに、今のクズフォンスはカッコい——)


 ううん。そんなことない……っ!


 痩せて(ほんのちょっと)カッコ良くなっても、水の魔術師様とは全然違う。


 中身は昔のクズフォンスのままだから。


 (どうせクズフォンスとは、婚約破棄するんだから……)


「レギーネ。あたし、アル様に賭けたんだ」


 リーセリアが、あたしに耳打ちしてきた。


「えっ? じゃあ、アルフォンスに賭けた1人って……」

「うん。あたしなの」

「…………!」


 あたしは驚いて、よろめいてしまう。


「どうしてアルフォンスに賭けたの?」

「それは……アル様が好きだから」

「えぇぇぇっ!」


 声が裏返ってしまうあたし。


 学園生の視線が、あたしとリーセリアに集まる。


「しーっ! 声が大きいよ!」

「アルフォンスが好きって……リーセリアの婚約者はどうなるの?」

「あたしの婚約者とは、婚約破棄するつもり」


 あたしは言葉を失う。


 リーセリアは、本気でアルフォンスのことが好きみたいだ。


 自分の婚約者を捨ててまで、アルフォンスと結ばれようとするなんて……


「で、でも……アルフォンスにも婚約者がいるから……」

「アル様の婚約者よりあたしが愛されて、アル様にも婚約破棄してもらうから」

「……いや、いやいやいや、そんなのめちゃくちゃよ。お互いの家が認めるわけない」

「もしアル様が今の婚約者さんと婚約破棄しないなら、あたしは二番目でもいい。アル様のためなら、死んでもいいから」


 アルフォンスの「今の婚約者」は、あたしだ。


 つまり、リーセリアは、あたしから婚約者のアルフォンスを奪おうとしているわけで……


 (リーセリア、目が真剣だ……)


「そんなにアルフォンスがいいの? あんなヤツのどこがいいの?」

「! アル様はすっごおぉくカッコいいよっ! 優しくて強くて、最高の男性だと思うっ!」

「そう……かな? たぶんリーセリアの勘違いだと思う。アルフォンスは、怠惰で傲慢で無能で変態のクズだよ。あたしは子どもの頃から知ってるから……」

「……レギーネ。アル様のこと嫌いなの?」


 鬼の形相で、あたしを睨むリーセリア。


「き、嫌いじゃないわよ……っ! ただ、昔のアルフォンスはダメだったわけで……」

「じゃあ、今のアル様は【すごい】と思うのね?」

「くぅぅぅ〜っ! す、すごい……かも。ほ、ほんの少しだけ、ね」


 あのクズフォンスを「すごい」と認めるなんてムカつく。


 (クズフォンスのくせに生意気よ……っ!)


「レギーネは、アル様と幼馴染でしょ。協力してほしいの。あたし、アル様を本気で好きだから」


 リーセリアは、あたしの手をぎゅっと握った。


「……わかったわ。もちろん協力する」

「ありがとうっ!」


 リーセリアがあたしに抱きつく。


 (ま、いいか。あたしには水の魔術師様がいるし)


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