第9話 アルフォンス様に忠誠を誓います
「アルフォンス様……今日で家庭教師を辞めさせていただきます」
「えっ? どうして?」
授業の終わり。
ロゼリア先生は、突然の辞職を申し出た。
「私がアルフォンス様に、教えられることがないからです……」
「そ、そんなこと……」
「すでにアルフォンス様は、私の実力を遥かに超えてしまいました。辞職については、ヴァリエ侯爵様の承諾をいただいています」
もう辞職の意思を固めていたらしい。
「来年、セプテリアン魔法学園に行けば、アルフォンス様のレベルに合った魔法をもっと学べます」
サプテリオン魔法学園——王都にある一流の魔法学園だ。
完全実力主義の学園で、魔法の才があれば平民でも入学できる。
主人公とアルフォンスが出会う場所だ。
「でも、俺はロゼリア先生ともっと……」
「……すみません。もう決めたんです」
「せめて新しい就職先を紹介させてください。父上に頼んでみます」
「ありがとうございます。アルフォンス様は【紳士】ですね」
「キモブタ侯爵令息」と呼ばれていたアルフォンスが、女性から【紳士】と呼ばれるなんて……
うん。よくやったぞ。アルフォンス。
(ていうか、俺のことか)
「またアルフォンス様とお会いできましたら、その時はあたしの胸やお尻を触って——ではなくて、一緒に魔法の研究がてきれば」
(一瞬、何か聞こえたような気がしたけど、)
「はい! ぜひっ!」
俺はロゼリア先生と握手した。
シナリオでは、ロゼリア先生はアルフォンスのセクハラとパワハラに耐えかねて自殺する。
とりあえず、ひとつ破滅の未来を変えることができてよかった……
★
ギルドの鍛錬場。
俺の【師匠】、クレハさんの剣の鍛錬だ。
「……アルフォンス様の【師匠】を辞めさせていただきます」
「えっ? どうして?」
突然の「師弟関係解消」に、俺は驚く。
ロゼリア先生に続いて、クレハさんも……?
「あたしが教えられることは、もうないからです」
「でも、俺、まだまだ未熟者で……」
魔法はまだしも、剣は初めてまだ3ヶ月だ。
「もっと師匠からいろいろ学びたいのですが」
「アルフォンス様の剣は完璧です。あとは実戦の中で技を磨けばよいかと」
俺の剣が完璧……そんなわけない。
現に俺は、まだクレハさんに勝てない。
「師匠は俺より強いじゃないですか。だからまだ俺の師匠に……」
「アルフォンス様は、無意識のうちに私に手加減をしているのだと思います。【師匠を倒してはいけない】という、いわば心の障壁があるのです」
「心の、障壁……?」
「ええ。師匠より強くなった弟子には、よくあることです。私の存在がすでに、アルフォンス様はさらに強くなる障害となっています」
俺は心の奥底で、師匠のクレハさんを倒してはいけないと思っていて、
だから俺は、無意識にわざとクレハさんに負けていると。
「しかし……私はアルフォンス様の剣才を、もっと見ていたいのです。だから……」
クレハさんが、俺の前に跪く。
「私をアルフォンス様の師匠ではなく、騎士にしてください。アルフォンス様の剣を、側で見ていたいのです」
騎士契約——貴族が冒険者を騎士として雇うことだ。
【剣聖のクレハが無能貴族の騎士に……】
【あり得ないだろ。信じられない】
【どの貴族とも絶対に契約しなかったのに】
剣聖のクレハさんは、たくさんの有力貴族から騎士契約のオファーがあったが、すべて断ってきたらしい。
シナリオでは、クレハは主人公が騎士契約をする。
騎士契約では、一人の主君に忠誠を誓う。
だからアルフォンスと契約をすれば、主人公とは契約を結べなくなる。
「アルフォンス様、お願いします。どうか私と騎士契約をしてください……」
クレハさんがアルフォンスの騎士になってくれたら、冒険者になった時に役に立つ。
それに、クレハさんはアルフォンスの剣の才能を認めてくれたわけで。
シナリオが完全に壊れてしまうが……無下に断ることはできないな。
「わかりました。騎士契約しましょう」
「つ……っ! あ、ありがとうございますっ!」
クレハさんが笑顔になる。
【おい。氷の姫騎士が笑ったぞ】
【めっちゃくちゃかわいい】
【キモブタが笑わせるとかあり得ん】
周りの冒険者たちも驚く。
「では、騎士契約を行います」
俺は剣に魔力を込めて、詠唱する。
「汝、我を生涯の主君として忠誠を誓うか?」
「誓います!」
「汝を我の騎士とする」
俺は剣で、クレハさんの両肩を叩いた。
【クレハ・ハウエルと騎士契約を結びました】
契約完了。
これでクレハさんは、アルフォンスの騎士に。
主人公の仲間が、アルフォンスの仲間になってしまった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます