第6話 最近、水魔法を使うイケメンがいるらしくて「【水の魔術師様】と、結婚できたらいいのに……」 レギーネ視点

 ——レギーネがアルフォンスに会う1日前。


「はあ……明日は【クズフォンス】に会いに行く日ね」


 あたしはとっても憂鬱だった。


 親が勝手に決めた婚約。


 オルセン家のためとは言え、あんな【キモブタ】と結婚しないといけないなんで……


「このまま死のうかな。あたし」


 あたしは部屋の窓から、下を見る。


 ここは屋敷の2階だから、飛び降りてもせいぜい骨が折れる程度。


「はあ……あたしは死ぬこもできないのね」


 クズフォンスとは何度か【お茶会】をした。


 あたしに会うと、鼻フガフガさせて、目であたしを「犯して」くる。


 本当にキモすぎて、紅茶もクッキーも吐いてしまいそう……


「【水の魔術師様】と、結婚できたらいいのに……」


 一度、ヴァリエ侯爵領の街、ガレオンに行った時——


「すっごいカッコよかったのよね……」


 街の広場で、泣いている女の子がいた。


 親とはぐれた迷子で、たぶん外国人。


 余所者に冷たいガレオンの人たちは、迷子がいても見て見ぬフリだった……


 水の魔術師は、その子に近づいて、噴水からキレイな水玉を作った。


 スライムみたいにぷにぷにする水玉を、その子にあげて……


 (あんな高度な魔法を、涼しい顔で使うなんて!)


 その子は泣き止んで、笑い始めた——


「水の魔術師様、本当にイケメンだったなあ……」


 銀色の髪に、すらっと高い背。


 涼しげな目が、とっても素敵だった。


「あの【キモブタ】も、髪だけは銀色なのよね……」


 水の魔術師様の爪の垢を、ガブガブ飲ませてやりたい。


「レギーネお嬢様。紅茶を淹れました」


 お付きのメイド、セリアが部屋に入ってくる。


「ありがとう。ちょうど飲みたかったわ」

「ふふふ。レギーネお嬢様、また水の魔術師様のこと考えてしましたね?」


 セリアとは、あたしが生まれた時から一緒にいる。


 身分は違うけど、まるで姉妹のようにからかい合うこともあった。


「ち、違うわ……」

「うふふ。顔が真っ赤ですよ。恋してますね? 水の魔術師に」


 最近、ヴァリエ侯爵領では、【水の魔法師】と呼ばれる謎のイケメン魔術師が噂になっていた。


 水魔法で、領地中の水道を直して回っているらしい。


 もちろんその噂は、我がオルセン侯爵領にも届いていた。


 いつしか女の子のファンができて、目撃情報があるとみんな押し寄せるように。


「明日は、アルフォンス様とお茶会の日ですね」

「死ぬほど嫌よ。水の魔術師様と同じなのは【銀髪】なだけだし……」

「ヴァリエ侯爵家の近くで、新しい目撃情報がありますよ」

「本当に?」

「ええ。もしかしたら水の魔術師に会えるかもしれませんね」


 キモブタには会いたくないけど、


 水の魔術師様が、近くにいるかもしれない。


 それだけが、あたしの楽しみだ。


「水の魔術師様と会えますように……!」



―――――――――   

《あとがき》


後に、水の魔術師=アルフォンスと知ったレギーネは、激しく後悔するのだった……

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